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ウルスライアス清掃紀行  作者: 龍々山 ロボとみ
第一章:誕生、浄神の使徒
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2話:遭遇、峠道の凶獣・2

「神様かみさま。ひょっとしての話なんだけど、神様が作ってるその道具、今まさに完成して俺に渡せるようになってたりしない?」


 ライアスは、干ばつに苦しむ農家たちが雨乞いをするときのような心持ちで、ウルスラに尋ねた。ひょっとしてもしかしたら、と。


『しないですわ……』

「しないかー……」


 そしてウルスラの返答はある意味予想通りであった。

 そんな都合の良いことはないか、とライアスは腹をくくる。

 仕方がない、それなら自分でなんとかしなくては、と。


 幸い、と言っていいのかは分からないが、ライアスは今までにも何度か妖魔と遭遇したことがあるし、さらにはそれらを撃退したことだってある。

 長いこと旅を続けていれば命の危険を感じたことなんて一度や二度ではなく、そのたびにライアスは己の力で戦い、なんとか生き残ってきたのだ。


 今回も、その例にならってなんとかするだけの話である。

 なんとかならなければ妖魔の餌になって終わりだ。


 見よ、あの凶悪なツノを。

 頭の左右に一本ずつ、前方外側に向かって大きく伸びている。

 細かく枝分かれした先端はひとつ残らず鋭く尖っていて、細長く砕けた水晶の破片で作った工芸品のようでもある。

 下手に触れたらそれだけで肌が裂け、思いっきり突かれたら身体に風穴が空く。そんな代物だ。

 あんなもの、喰らってたまるものか。


『ど、どうするおつもりですか?』

「まともに戦うのは無理。だから……」


 ライアスは、じりじりと後ろに下がると、足元の石ころを拾い上げた。拳大ほどの大きさのそれを、両手でぎゅっと握り込む。


「フィルルルルル――!」


 そこに、シカが突進してくる。

 猛然と突っ込んでくる妖魔に、ライアスは腰を落として石ころを振り上げた。避けようとは、していない。


『あぶな――!』


 ウルスラが思わず叫ぶが、妖魔の突進のほうが速い。

 そして妖魔の突進よりも、ライアスの殴り付けのほうが早かった。


「だあっ――!」


 ツノは、頭の左右から外側に向けて生えている。

 狙いを付けて真っ直ぐ飛び込んでくるなら、真正面から迎え撃つことでツノの間に入り込めるのではないか。そう考えたライアスは、左右に避けず前に踏み込み、狙い通りツノの間に入った。

 そして自分の拳より重くて固い石ころを、シカの額に打ち付けた。


「グゥゥウウウウーー!!」


 額を殴られたシカは、そのままの勢いでライアスを押し飛ばした後、ぐらりとよろめいた。ふら、ふら、と産まれたてのときのように脚が震えている。

 頭をぶんぶんと振っている姿を見るに、確実に効いているようだ。


「今のうちに……」


 茂みの中に突き飛ばされたライアスは、こっそりそこから抜け出すと、雑木に紛れてシカの背後に回ろうとする。シカが立ち直る前に背後を取って、なんならそのまま逃げようとしているのだ。


 その動きに、シカが気付いた。

 もう一度頭を振って意識をしっかりさせると、逃がさぬとばかりに突進していく。ライアスは素早く木の陰に隠れ、シカをそこに誘導する。

 なかなか立派な大木なので、うまくすればツノが突き刺さって動けなくなるのではないか、と考えたのだが。


『いけませんわ!』

「うおっ!?」


 ぐいっ、と首の御守袋が引っ張られた。

 それにつられて横によろけると、先ほど盾にしようとした大木にシカが突っ込む。


 大木は、半ばからへし折れた。


 めりめりと生木が裂け、そのまま押し倒れていく。

 ライアスはゾッとした。あのまま木の裏にいたら巻き込まれていただろう。


「あ、ありがと神様!」

『お礼は後ですわ!』


 ウルスラが必死に叫ぶ。

 シカが再びこちらを向いた。よく見ると、大木をなぎ倒したシカのツノは、左右に広がっていた先ほどと違い、額を守るように中央に寄っていた。

 どうやら根本の部分で動かせるらしく、突進の威力を一点集中できる形になっていた。


「クワガタムシじゃあるまいに……」

『クワガタのアレはアゴですわ!』

「え、そうなの!?」


 思わぬ言葉にライアスは激しく驚く。

 まさかそんなに驚くとは、とウルスラもびっくりするほどだ。


 その動揺の隙を付いて、シカが飛び掛かってきた。


「フィルルルルルッ!!」

「うわあっ!?」


 一息に距離を詰め、下からカチ上げようと首を振り上げる。

 ギラギラと輝くツノが目前に迫り、ライアスは足がもつれながらもなんとか後方に躱すが、バランスを崩して尻餅をついてしまった。


 一撃を外したシカは今度は前足を振り上げ、カナヅチのように固い蹄で頭を踏みつけにくる。

 これはマズい、と本能的に感じたライアスは、とっさに両手で前足を掴んだ。


「ぐえっ!」


 もちろんそれで踏みつけを止められるはずもない。

 力ずくで横に引っ張って、なんとか逸らすことができたくらいだ。顔の両脇に蹄が落ち、両手はその下に踏みつけられて動かせなくなった。


「て、手が抜けない……!」

「フィーイィイイイーー!」


 とうとう獲物を捕らえたシカの妖魔は、歓喜の雄叫びを上げ、その肉に喰らいつこうと大口を開ける。

 草食動物のものとは思えない、獅子や虎のように鋭い牙が並んでいる。

 真上からボタボタとライアスの顔によだれが降ってきた。


 もはやこれまでか、と観念したライアスが目をつむった、その時。

 御守袋が、ふわっと浮かび上がった。


 そして首筋を噛みちぎろうとしていたシカの眼前で止まると――。


『……えいっ!!』


 一瞬、太陽も霞むほどの明るさで激しく発光した。

 あまりの明るさにシカの視界は真っ白に飛び、強すぎる光は痛みとなってシカの目を焼いた。


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