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ウルスライアス清掃紀行  作者: 龍々山 ロボとみ
第二章:キョウの都で大暴れ
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6話:神様へのおもてなし・2


「来ましたよ!」


 御守袋から飛び出してきたウルスラは、着地と同時にくるりと振り返った。

 ライアスに向き直って薄い胸を張る。


「さぁ、ライアス! 約束通り今日は一日よろしくお願いします! 精一杯、私のことを楽しませてくださいね!」


 今のウルスラであるが。

 いつもよりだいぶテンションが高い。

 ワクワクして遠足前日に寝られなかった小学生ぐらいは気分が高揚しているようだ。浮かれている、と言ってもいい。

 つまりは浮かれスラである。


 それに対してライアスは。


「はーい。頑張るね」


 なんともいつも通りだった。

 やる気があるのかないのか、いまいち分からない返事である。

 ただまぁ、ウルスラはあまりそのことで心配していない。


 ライアスはやるときはやる男だと知っているし、わざわざ「準備するから待っててね」と言ってきたからには、色々と考えてきているはずだ、と思っている。

 別に何か根拠があるわけではないが、とにかくそう信じていた。


「それではまず、私の姿を見て何か言うことはありますか?」


 そうして、得意げな顔でウルスラは問う。

 ライアスは求められていることを察した。


「神様の姿? うん、とっても素敵だと思うよ。いつもの服も似合ってるけど、今日は一段と似合ってる。神様の綺麗な髪の色に合わせてあるからかなぁ。それとその耳飾りも可愛いね。キラキラ揺れて小粋な感じがする」

「そうでしょう、そうでしょう」

「あ、その履き物もいつもとは違うやつかな。なんかこう、華やかな感じがする」

「ふふふ、ありがとうございます」


 ご満悦の表情を浮かべるウルスラ。

 半分おべっか混じりかもしれないが、ライアスに褒められて嬉しいのである。


「ところでライアス、貴方も普段とは違う装いをしているのですね」

「うん。せっかく神様が来るんだから、ちょっと気合い入れた」


 ライアスが着ている服も、普段の着古した服ではなかった。

 明るい狐色の生地に、白抜きで梅の花があしらわれた着物だ。


 生地の真新しさからみるに新しく仕立てたもののようである。

 それと、普段はボサボサで無造作に括っている髪は、きれいに撫で付けてまとめて後ろに流している。


 今の姿だけ見ると、なんとも真面目な好青年みたいであった。


「良いですね。さすがライアス、私の使徒です。やればできるじゃないですか」

「ありがとね」

「まさしく、馬子にも衣装ですわ」

「あれ? 褒めてるんだよね?」

「もちろんですわ」


 ウルスラのところでは意味が違うのだろうか、とライアスはちょっと悩む。


「いや、悪くなってないなら別にいいんだけどさー」

「心配しなくても本当に似合ってますわ。ええ、とても」

「そう?」

「はい」


 そこまで言うなら、とライアスは納得した。

 まぁ、実際ちゃんと似合っている。

 普段からそうしていれば、行きつけの食堂で小鉢がひとつおまけに付きそうなくらいには。


「さて、ライアス。そろそろ」

「ん、分かった」


 ウルスラが、ライアスに案内をうながす。

 待ちきれなくなってきたらしい。


「ちょっと歩くけどいい?」

「問題ありませんわ。ちなみに、どちらに?」

「神様が好きそうなとこかな。あ、他に行きたいとこがあるなら言ってね。行き先そっちに変えるから」

「いえいえ、今日の案内はライアスにお任せしますわ。しいて行きたいところ、と言うなら」


 ウルスラは、ニンマリ笑ってライアスを指差した。


「貴方が、私のために見繕ってくれたところですわ」

「それはなんとも……。俺の責任重大だね」

「もちろんでしょう。なにせ今日は、精一杯私を楽しませてくれなくてはならないのですから。私にあんな恥ずかしいことをさせた責任は大きいですよ」

「はーい」


 そうしてウルスラは、ライアスのあとに続いてすたすたと歩く。

 碁盤の目のように整備されたキョウの都の町並みを眺めながら歩いていると、やがて目的地に着いた。


「まずはここだね」

「ここですか? なにやら、誰かのお屋敷のようですが」


 それにしては人の出入りが多いな、とウルスラは思う。

 高い塀に囲まれたお屋敷は、正門が開かれて多くの人々が出入りしていた。

 門前に行くと看板がかけられていて、ウルスラはその看板を読んだ。


「シゲドウ流華道師範、ですか」

「このキョウの都で一番美しく華を生ける先生なんだって。お弟子さんもたくさんいて、時々こうして自宅の庭に師弟それぞれが生けた華を並べて、たくさんの人に見てもらうようにしてるらしいよ」


 それでこんなに多くの人々が出入りをしているわけだ。

 どうやら誰でも自由に見ていいらしく、美しい華々を一目見ようと人が集まってきているらしい。


「神様って、きれいなの好きでしょ? だからこういうのも気に入るかなって」

「なるほど。では、入りましょう」


 ライアスとウルスラは、正門をくぐって庭に入る。

 大きな庭のそこかしこには、華を生けた花器が並べられていた。


 ふたりは、人の流れにそって順番に華を見ていくことにした。

 生けられた華は色とりどりで、目に鮮やかなものが多い。


 今は春から初夏に移り変わる季節で、たくさんの華が咲くからだろうか。

 使われている草花の種類も多いように思えた。


 もっとも、ライアスはあまり華の名前には詳しくない(食べられる草とかは知ってる)ので、だいたいどれを見ても「きれいだなー」としか思わないのだが。


「これは芍薬、こっちの鉢のは瑠璃菊の仲間でしょうかね。うん、見事に咲いてます。美しい」

「神様、華にも詳しいの?」

「人並みにですよ。ああ、こちらも良いですね。鉢と生けた華がうまく調和していますわ。これは石竹でしょうか?」


 ウルスラはひとつひとつ順番に、丁寧に華を眺めている。

 ライアスもウルスラの速度に合わせているので、後ろから来た者たちに少しずつ抜かれていっていた。


「ライアス見てください。この作品はあえてつぼみのままのものを使って仕上げていますが、おそらくこれはつぼみが開きかけるほんのわずかな間が一番美しくなる作品ですよ。一瞬の美を限界まで追求しようとしているように思えます」

「それたぶん、ここの先生の作品だよ」

「やはりですか。むぅ、もう二、三日あとに来ていれば、ちょうど一番の見頃であったでしょうに」

「そうなんだ。神様よく分かるね」


 ライアスにはさっぱり分からないが、ウルスラが楽しそうに解説してくれるので理解した気にはなれる。

 その後もウルスラは、目についた華の解説を楽しそうにしたり、お屋敷の縁側で師範が華を生けているところを真剣に見たりした。


 お屋敷を出るころには昼前になっており、ふたりは近くのソバ屋に入ってお昼を食べることにする。

 ウルスラは月見ソバ、ライアスは天ざるソバを三人前頼んだ。


「ライアス」

「うん」

「良かったですわ……!」


 ウルスラが、ぐっと箸を握りしめて言う。

 強い感慨がこもっている声だ。

 よほど楽しかったらしい。


「それはよかった」


 ライアスはソバをすすりながら応じる。

 一人前の半分くらいの量が一口で消えていた。


「この調子で、午後からもよろしくお願いしますね!」

「なるべく頑張るよ。……あ、すいませーん。天ざるソバを二人前追加でー」

「ライアス、ちゃんと噛んでます?」

「え、ソバってのどごしで味わうものでしょ?」


 ライアスのソバの味わい方はさておき、実はこのお店もわりといいソバ粉を使うお高い店だったりする。

 華道師範宅を離れた足でそのまま入ったのでウルスラも気付いていないが、ウルスラに美味しいものを食べてもらおうと思ってライアスが調べておいた店なのだ。


「んー、おソバ美味しい。エビ天も身がプリっとしてていいね」


 いや、もしかしたら自分が食べたかっただけかもしれない。

 とにかくここまではウルスラがとてもご機嫌で、ライアスとしてもこのまま最後までご機嫌でいてほしかった。


 そしてお店を出て、次の目的地に向かおうとしたとき。


「おや? そこにおるのはライアスと、……む? あれは……」

「あ、ライアスとウルスラ様なのだ! おーい!」


 仲良く歩くレンゲとツキシロに出くわした。

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