挿話:鈴蘭の国のおとぎ話
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むかし、むかしの、そのむかし。
これはまだ、世界が瘴気の霧に包まれていたころのお話です。
瘴気とは、良くないものの元凶。
そこにあるだけで、いろんなものに悪さをするものです。
このころの世界は、空も、大地も、なにもかも、地中深くから湧き出す瘴気によって穢れてしまっていて、人々は瘴気に呑まれないよう、瘴気から離れ、瘴気を恐れ、互いに身を寄せ合って暮らしていました。
瘴気によって生じた妖魔は人々を襲い、瘴気の毒は、取り込んだ者の身体をむしばみ、病を引き寄せます。
誰も彼も瘴気に困り、苦しみ、だからこそ瘴気をなんとかしたいと、そのように思っていました。
そんな穢れに満ちたこの世界を、見つけてしまった神様がいらっしゃいました。
「な、なんですの、この世界は――!?」
彼女は、他の神様よりもよっぽど綺麗好きで、そして少々、我慢のできない性格でした。
この、あまりにも穢れに満ちた世界を目にしたとたん、神様は青い髪を逆立てて怒り狂いました。
「こんな世界、ぜーーったいに許せません! 私の力で、ぴっかぴかにして差し上げますわ!!」
この世界を、隅から隅までぴっかぴかにしてやると。
世界を覆う瘴気の霧を、すべて祓い尽くしてしまおうと。
誰がなんと言おうとそのようにする。と、神様はそう決めたのです。
そして、そうと決まれば即行動。思い立ったが吉日です。
神様は、その世界の中に首を突っ込むと、各地に目を向け人を探しました。
自分の使徒となるべき人間を。
この世界の大掃除を、手伝ってくれる人間を。
探して探して探して、ひたすらに探しました。
そしてとうとう、目当ての人間を見つけた神様は。
そのまま、世界の中に飛び込んでいってしまいました――。




