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ウルスライアス清掃紀行  作者: 龍々山 ロボとみ
第一章:誕生、浄神の使徒
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5話:翻弄、ヒモドリの魔女・4

 膝蹴りをまともに浴びたライアスは、とうとう意識を飛ばした。

 蹴られた瞬間目の前が真っ白になり――。


「…………はっ!?」


 気が付くと、いつもウルスラと顔を会わせている夢の中の世界にいた。白一面の殺風景な世界である。


「神様?」


 ライアスはきょろきょろと周囲を見回す。

 意識が飛ぶ直前、神様が何か言っていたような気がしたのだ。

 姿を探しているとウルスラは上のほうからすいーっとやってきて、ライアスの前に降り立つ。白地に桃色の水玉だったが、そのことに触れている暇はなかったので見なかったことにした。


「ライアス、時間がないので簡潔に言います。魔女の紐のカラクリが分かりました」

「ほんとに? 何がどうなってるの?」

「説明は貴方が起きてからします。とりあえず、元の世界に戻ってください」

「いや、思いっきり気絶してここにきたんだけど……」


 この夢の中の世界から出ようと思っても、実際にライアスの肉体が目を覚まさないと出られないはずなのだが。


「大丈夫です。私が起こしますので歯を喰いしばってください」

「え、歯を?」

「歯をです。さぁ、早く」


 ウルスラは、なぜか腰を落として右腕を真横に伸ばした。

 ライアスはものすごく嫌な予感がしながらも、言われたとおりに歯を喰いしばった。


「元気を出せばなんでもできる!」

「……なんでもは無理じゃない?」

「いきますよー! いち、にぃ、さん、しぃ、」


 ウルスラはひとつ数えるごとに指を伸ばしていって、五まで数えて手がパーになったところで。


「ゴーー!!」

「ぶへっ!?」


 ライアスにビンタした。神様による闘魂注入であった。

 ライアスの夢の世界は一気にひび割れていき、ライアスの意識は現実に引き戻された。


「――――!」


 ライアスの目の前には、膝蹴りの蹴り足を振り抜いたばかりの魔女がいた。蹴られて意識が飛んだすぐ後の瞬間だ。

 どうやら夢の中の世界にいたのは、現実では一瞬の間だけだったらしい。夢の中の時間を神様が引き伸ばしてライアスに話し掛けていたようだ。


 ライアスは側頭部の痛みを感じつつ、蹴られた勢いで倒れ込んだ。

 魔女はひらりと着地すると、距離を取って残心をした。


「どうだ!」


 どうだもなにも、ライアスは痛みでまた気絶しそうである。夢の世界へ行ったらまたビンタされそうなので耐えているが。

 どうにかこうにか、ライアスは身体を起こした。


「痛てて……」

「む、まだ意識があるのか。ほんとうに頑丈な奴だな」


 ヒモドリの魔女はライアスが立ち上がるのを待つ。

 立ち上がるライアスに、ウルスラがそっと話しかけた。


『いいですか、今から言うとおりに動いてください』

「う、うん」

『まずはですね……』


 ライアスは神様の声に従って、ゆっくりと魔女から距離を取る。魔女と向き合ったままよろよろと後ずさりして、少しずつ。

 その時ライアスは、手にしている箒をそろっと自分の背後に回し、魔女から隠すようにした。


 魔女は追わない。

 さらなる強撃を打ち込むためには距離を取ったほうがいい。

 しかもそれは、ライアスに下がってもらったほうが都合がいいのだ。


『ゆっくり、ゆっくりですわ』


 そしてウルスラも、それが分かったうえでライアスに下がらせている。ウルスラの読みが正しければ、ライアスが下がれば下がるほど紐の張力は上がり、弾き飛ばす力は強まる。


 いまいちよく分かってないのはライアスだけだ。

 とりあえずライアスは魔女の気を逸らそうと、話しかけた。


「魔女さん魔女さん、そろそろ攻撃するのやめてくれてもいいんじゃない? 俺、じゅうぶん痛い目にあったと思うんだけど」

「痛い目にはあわせたが、十分かどうかは分からないな。オマエ、もう墓地には行かないって言えるか?」


 ライアスはゆるゆると首を横に振った。


「それは無理だねー、俺も約束しちゃったから。墓地の瘴気を祓ってくるからね、って」

「瘴気を祓う? なんだオマエ、そんなことができるのか?」

「うん。あれ、言ってなかったっけ?」

「言ってないな。なるほど、それで墓地に行こうとしているわけか」

「そうそう」


 もしかしてこれは、とうとう話が通じたのだろうか。ライアスは淡い期待を抱いた。


「もっとも、ここでアタシにボコボコにされてるような奴の言うことを鵜呑みにはしないけどな」

「あ、やっぱり?」

「もし本当に神主たちみたいに浄化できるっつっても、程度も分かんねーんだし」

「だよねー」


 まぁそれもそうだ。とライアスは思ったので、素直に神様の作戦に従うことにする。

 すでに十分距離は取った。ここからが勝負である。


「つーわけで、今度こそおねんねしてもらうぞ! 距離も十分(・・・・・)だしな!」

『来ますわライアス! 先程言ったとおりに!』


 魔女がライアスを指差す。ライアスはそっと、背後に回していた箒の穂先を地面に押し付けた。


「こっちに来い!」


 ヒモドリの魔女はライアスを引き寄せるべく、紐を張った。

 しかし、それよりほんの少しだけ早く。


『今です!』


 ウルスラが合図を出した。

 ライアスはくるりと後ろを向くと立てた箒の柄に両手をついて、その上に逆立ちするように跳ね上がった。


 次の瞬間、伸びに伸びた紐は、地面に立てた箒にかかっていた。


「なっ」


 魔女が目を見開く。

 ライアスが箒にかかった紐を乗り越えて反対側に降りると同時に、紐はライアスの箒を魔女に向かって弾き飛ばした。


「――んだとおっ……!!」


 動揺する魔女。弾かれた箒は回転しながら猛烈な勢いで魔女に迫る。顔面直撃コースだ。


「ぐっ……!!」


 ギリギリで、箒を躱す。上体を逸らしてむりやりに。目前をかすめていく箒を見送ると、箒は背後の木々の間に飛び込んでいった。

 体勢を立て直そうとする魔女。頭の中はひとつの思考で埋め尽くされていた。すなわち、


「バレたのか……!? アタシの魔法の正体が……!」


 ということだ。

 ヒモドリの魔法の正体。それは紐取り(ヒモドリ)の魔法であり、紐戻り(ヒモドリ)の魔法であり、


 そして、――日戻り(ヒモドリ)の魔法である、ということに他ならない。


 日戻りの「日」は一日二日という単位のことで、時間を意味するものだ。

 つまり、ヒモドリの魔女は、時間を遡って紐を張っていたこと(・・・・・・・)にすることができる。


 敵の動きを読んで紐を張るのではなく。

 張っていた紐を隠しているのでもない。

 敵の動きを見たうえで敵の通った地点に紐を張っていたことにして、それで紐が掛かっていたことにするのだ。


 おそろしく固く張られた紐も、そこをすでに通っている者がいればその分押し伸ばされていることになる。紐の張力は実際に現れた瞬間から働きはじめ、掛かっている者を弾く。


 これが、ヒモドリの魔女の魔法の正体だ。

 ウルスラは、ライアスが倒れた瞬間に現れて戻っていった紐を見て、このことに気付いた。


 そして。


「はっ! しまった!」


 飛んできた箒を見送った魔女は、ライアスから目を離してしまっていた。


「あのバカは……!?」


 慌てて視線を戻す。ライアスはもう目前まで迫ってきて拳を振りかぶっていた。


「うりゃあっ!」

「っ……!」


 魔女が紐を掛けて弾き飛ばそうとするが、それより早くライアスが魔女のほっぺたをぶん殴った。相手が少女であることなど一切考慮していないマジパンチである。

 駆け寄る勢いと体重差で、ライアスのケンカパンチは魔女の頭を弾き飛ばした。


『やりましたわ!』


 ウルスラが叫ぶ。自分の読みは正しかったと、ライアスのピンチを救えて良かったと、そのような意味の叫びであった。

 それが関係したかどうかは分からないが。


「痛いだろうがこのバカ!!」

「ぶっ……!」

『えっ!?』


 魔女が殴り返してきた。少女のものとは思えない、腰の入った切れのある右ストレート。ライアスの鼻っ面をぶん殴る。


 魔女は口の中の血を吐き捨てて吼えた。


「よぉし分かった殴り合おうか! 勝てたらここを通してやるよ! ただしアタシも本気で殴るからな! 死ぬなよ!」

「……!」

『!?』


 風向きが変わった。

 二人の間を風が吹き抜けた。

 書き溜めがなくなりました。

 明日以降は続きが書け次第更新していきます。

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