表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルスライアス清掃紀行  作者: 龍々山 ロボとみ
第一章:誕生、浄神の使徒
16/67

5話:翻弄、ヒモドリの魔女・3

 ライアスは紐の張力に耐えることができず。

 猛烈な勢いで前方、魔女のいるほうに向かって押し飛ばされた。びゅん、と加速し視界がにじむ。加速度で身体の自由がきかなくなる。


「う、お、おぉぉおおわああああああっ――!?」


 ライアスを引き寄せたヒモドリの魔女は、腰を落として右腕を真横に伸ばすと。

 軽く踏み込んで、ライアスに向かって振り抜いた。


「――轟斧爆(ゴウフバク)!」

「っ!?」


 魔女の右腕が、急接近してきたライアスの首にぶち当たる。

 息の詰まるような衝撃を首元に受け、ライアスは後方に一回転、二回転、三回転。

 最後は後頭部から地面に叩き付けられて跳ね、転がり、うつぶせになって動かなくなった。


 見事なラリアット(もしかしたらクローズラインかもしれない)を決めたヒモドリの魔女は、右腕をぐるりと回してから呟いた。


「アタシの言うことを聞かないからだ。まったく、怒らせたら怖いぞと言っておいただろうに……」


 一拍遅れて何が起きたのか理解したウルスラは、とりあえず叫んだ。


『ラ、ライアスーーーーっ!?』


 空中で三回転して頭から落ちたので、もしかしてかなり危ないのでは、と危惧している。

 というか今のはわりと普通に死んでもおかしくない。ライアスはまったく受け身を取れていなかった。


『ト、トラックにはねられたみたいな勢いでしたけど、やりすぎでは!? ライアス! 生きてますか!? ライアスー!!』


 返事はない。

 そしてライアスを叩きのめした魔女は、動かないライアスに歩み寄る。


「手加減したから死んではないだろ。どれ、ぐるぐる巻きにして下の集落まで運んでやるか」


 ライアスのそばまで来て、うつぶせのライアスを蹴って仰向けにさせる。

 一応呼吸を確認しておこうかと、ライアスの口元に手を伸ばしたところで。


「…………捕まえた」

「なっ!」


 ライアスが魔女の手首を掴んだ。魔女はとっさに振りほどこうとするが、がっちりと掴まれていて離れない。

 ライアスは素早く両足をたたむと、足裏で魔女の腹を蹴りつける。


「ぃよいしょおっ!!」

「ぐあっ……!」


 蹴り飛ばされたヒモドリの魔女はたたらを踏み、その隙にライアスは大慌てで距離を取った。這うようにして逃げ、手放していた箒もなんとか回収すると、大木に背中を押し付けて魔女に向き直る。

 ごほごほと、目に涙を浮かべて咳き込んだ。


「痛っっ、たいなぁ……! 首から上がなくなるかと思った……!」

『ラ、ライアス……、無事ですか?』

「めちゃくちゃ痛かったよ! 死ぬかと思った!!」


 どうやら死んではいなかったようだ。

 ヒモドリの魔女は蹴られた腹をさすりながら、ライアスに視線をやった。


「死なないようにはしたぞ。オチてもいないとは思わなかったが」

「記憶はちょっと飛んだよ! 昨日の晩ご飯忘れた!」


 ちなみにこの男、昨日は水しか飲んでいない。


「そうか。次は、もっと痛いからな」

「もっとって、どれぐらい?」

「自分の名前を忘れるくらいだ」

「ごめん! 謝るから許してくれないかな!!」

『ライアス!?』


 なにを弱気なことを言っているのだ、とウルスラはこけそうになった。

 ヒモドリの魔女も若干呆れている。


「……謝って、回れ右して帰っていくなら追わないぞ?」

「帰るのは無理! 謝るのはいくらでも謝るからここを通して!」

「オマエな……」


 魔女は手近な紐をぐいっと引っ張ると、そこに先程の固そうな柿を乗せた。それからぱっと手を離すと。


「ふざけたことを言うなぁ!!」

「うおおっ!?」


 ライアスの顔目掛けて柿が飛んできた。

 ライアスは反射的に避けたが、背後の木に当たって柿が砕ける。

 弓とか投石機とかよりも威力が高そうだ。


「墓地には行かせないと言ってるだろうが! いい加減にしろ!」

「だから俺は大丈夫なんだってば! 心配しなくていいって!」

「やはりオマエはもう少し痛い目をみる必要があるようだな……! こっちに、」

「……!」


 ライアスは、大木に背中をぎゅっと押し付けた。

 これなら、もう紐を掛ける隙間はないし、もし紐が掛かっていれば感触で分かるはず。


 ヒモドリの魔女は、そんなライアスを嘲笑った。無駄なことなのに、と。


「来い!」


 魔女が命じたときにはもう、紐はライアスと木の間に挟まり込んでいた。

 隙間などないのに、気が付けば背中に紐を押し付けられていた。限界まで引き伸ばされた紐は、再びライアスを押し飛ばす。


「また、……!」

『ライアス!』


 びゅん、と加速し、ライアスは待ち構える魔女に向かって飛ばされた。

 にじむ視界の先で、魔女が右腕を持ち上げているのが見えた。


「轟斧爆!!」

「ぐえっ……!?」


 二度目の衝撃は、先程よりも強かった。

 やられる! と分かったうえで必死で耐えていなければ、今度こそ意識が飛んでいただろう。


 地面に叩き付けられたライアスは、すぐさま起き上がって頭を振った。視界がぐにゃぐにゃと歪み、思考がまとまらない。


『来ますわライアス!』

「おぉぉ……!」


 箒を支えにして立ち上がろうとするライアスに、ヒモドリの魔女は追撃をかける。

 手近な紐に身体を預け反動を付けると、ライアスに向かって勢いよく駆け出し、両足で踏み切って跳んだ。


飛天脚(ヒテンキャク)っ!」


 華麗なるドロップキック。棒立ちのライアスの顔面に、魔女はこれでもかと蹴りを浴びせた。おそらく、ライアスに腹を蹴られたことに対するお返しの意味もこもっている。ライアスを蹴り飛ばした後は華麗に一回転して着地した。


 蹴られたライアスは大きくのけ反ってよろめいたが、なんとか立て直した。両足で踏ん張って、口に入った土を吐き捨てた。


『だ、大丈夫ですか、ライアス……?』

「星が飛んでる……」


 魔女の攻撃は首から上に集中しているので、一発一発が脳に響く。脳しんとうを起こして立てなくなってもおかしくないくらいなのだが、ライアスはまだ耐えていた。

 ヒモドリの魔女は少しだけ感心している。


「本当に頑丈なんだな。鍛えてあるのか、言ってたとおり生まれつきなのかは知らないが」

「頑丈さだけは、俺の取り柄なんだよね……」

「そうか。それなら、もう一度だ」


 気絶するまで何度でも攻撃する。魔女はそのように考えていた。

 だから魔女は、先程自分で蹴り飛ばしたライアスを、再び引き寄せようとする。


「こっちに、」

「っ……!」

「来い……!?」


 そのときライアスが膝から崩れた。

 頭の中がぐらんぐらんとかき混ぜられているようで、一瞬足の力が抜けてしまった。立っていられなくなったのだ。


「ま、まずい……」


 四つん這いから、なんとか立ち上がろうとする。

 ここで攻撃されたら本当に意識が飛びそうだ。ライアスは、なんとか上体を起こして片膝を立てた。


「……あれ?」


 そこでライアスは、少し不思議なものを見た。

 ライアスと魔女の間に、何本かの紐が張られて揺れていた。先程まではなかったものだ。今、魔女が張ったものなのか? なんのために?


「くっ……!」


 わずかに渋い顔をして、魔女が駆け寄ってくる。

 今まさにライアスを引き寄せようとしていたはずなのに。なぜ?


「これで……!」


 まさか、紐を張るのを失敗した? だからそんなところに紐が張られている? これほど強い魔女が失敗? その原因は?


 頭がぐらぐらして、ライアスでは考えがまとまらない。


「トドメだ!」


 そこに、紐をひらりと乗り越えた魔女が寄ってきた。

 ヒモドリの魔女はライアスの片足を踏み台にして、力強く蹴りを放った。


閃光脚(センコウキャク)っ!!」


 シャイニングウィザード。

 魔女の膝がライアスの側頭部を蹴り抜いた。魔女は確かな手応え(足応えだろうか?)を感じ、勝利を確信する。


 そして。


『――なるほど。だから、ヒモドリの魔女なのですね』


 一部始終を余さず見ていたウルスラが、魔女の魔法を理解した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ