出会い
私には六歳年下の弟がいます。
素直で、優しくて可愛い弟です。
友達と野球している時にボールが道路にころがり捕りに行こうとした時に車と衝突し重体です。
私はそんな弟を見て泣いています。
母も父もそんな弟を見て泣いています。
弟は目を覚ましません…医者も見離しました…
私は弟を見ていて、ふと思い出しました。
街の外れにある古いモニュメント、誰が作ったのかは不明です。
そのモニュメントに四時四十四分に祈ると命が助かるという噂です。
何もできない自分はそんな噂でもすがりたい心境でした。
私は無我夢中でその場所へ行き祈りました。
精一杯、真剣に祈り続けました。
モニュメントの上に一人少年が座っていました。
「小娘、俺様に何か用か?」
黒いパーカーに黒い学生服を着て大きな鎌を持った少年でした。
片目が髪に隠れており、だるそうな目をこちらに向けて話かけてきました。
「き、君は誰?」
こんなところに不釣合いな子がいるのに驚きました。
その少年は少し機嫌が悪くなり言葉を返す。
「無礼な小娘、貴様が先に名乗るのが礼儀であろう」
見た目は私の方が上だと思うが少年の気迫に負けて答える。
「わ、私は伊崎 佳苗」
私が名乗りその少年も名乗る。
「俺様は、黒神 シロー 」
「貴様たちの世界でいう死神だ」
「死神…」唖然とする。
「貴様の願いを叶える為にここへ来た、ありがたく思え」
「じゃあ弟を助けてくるのね!」
思わず、少年の肩を掴んでしまった。
「俺は死神だ、そんなこと造作もないが条件がある」
厭らしい目で私を見る。
「魂をとってこい。助けるからにはそれ相当のものを渡すのがスジだからな」
「魂って…そんなの取れるわけないじゃん!取ったことないのに!」
「まあ普通の人間にそんな芸当できるわけないのはわかっている。
この鎌を貸してやる。この鎌で魂を狩ってくればいいんだ。簡単だろ?
狩れる魂はその鎌にセンサーがついているから、自動で案内してくれる。さあ行って来い」
無造作に鎌を私に渡してきた。
「そんな急に言われても…」戸惑う私。
「そうこう言っている間に、弟の魂が消えるぞ。いいのか?」
「私は…」
戸惑う私には関係なく鎌が反応する。
「早速、反応してるぞ。頑張っていって来い」
鎌が魂に反応し、上空へ飛び出す。
「なにこれ!?私飛んでる?!」
「死神の能力を一部を使用できるからな、空を飛ぶこともできる」
少年の声が頭に響く。
私はすこしの間、鎌に身を任せ空を飛んでいた。
やがて大きな橋が見えてきた。
どうもここに降りるようだ。
私も降りる体勢をとる。
橋の中心に男の人が川を見て立っていた。
「もしかして、あの人?」
鎌を握り締める。
シローの声が聞こえる。
「ああ、奴は自殺しようとしてるな。あの魂で問題なかろう」
「なんでよ?まだ生きてるじゃん!」と反発する。
「奴は、今から死ぬのだろう?自分から生きるのを放棄したのだ。何の問題ない」
「まだ生きてるし駄目だよ!」
「死んでから回収もありだが、死ぬ前に回収する方が価値がある。
実際今狩ったことで、すぐ死ぬわけではない。死の契約がなされるだけだ、
この男も死んだあと迷わずに済むのだから有難いことだと思うがな」
そうはき捨てる。
自殺するから、先に契約しておけと言われ、
私は迷った、本当にこの人は死を受け入れたのか?私がここで狩ってしまうことでこの人の道を断ち切ることが本当にいいのか?
私にはそんな決定する権利など微塵もないはず。
でも狩りとらないと弟が助からない、私はどうしたらいいのか自問自答を繰返す。
考えながらもその人に向けて鎌で刈り取ろうしている。
振り上げた鎌が頭上で止まる。
私は考え直し鎌を下ろす。
「こんなのおかしいよ…」その場で立ち尽くす。
「貴様いいのか?弟が助からないぞ?」
頭にシローの声が響く。
「他人の魂を狩るのなら私の魂を上げるわ。それで弟を助けて…」
「そんなことしたら弟にあえないぞ?ましてや貴様の魂をもらい弟を助けないとは考えないのか?」
「君、死神なんでしょ?それに死んだあと迷わずに済むっていってるしそんなことはしないと思う」シローに伝える。
「………ッチ」
図星のようだ。
「もういい、もどってこい、面白くない」
不機嫌な声が響く。
男の人が心配だったがシローが問題ないというのでその場を後にした。
そして元いたモニュメントの前に戻ってきた。
シローはモニュメントの上であぐらをかき、こちらを睨む。
「本当にいいのか?」
「うん…これしか方法はないし」私は覚悟を決めた。
シローはますます不愉快になりしぶしぶ新たな提案を投げてきた。
「いや、もう一つ方法はある…」
私は目を見開く
「ほんと!?その方法は!?」
シローが答える
「貴様が俺の変わりに魂を回収することだ」
私はしぶしぶ答える
「でも…他人の魂は狩りたくないんだけど…」
シローはこちらを見て答える。
「魂を狩るのはしなくてもいい、そのかわり彷徨っている魂の回収と管理をしてくれればいい。それなら問題ないだろ?」
「それなら大丈夫!」
私は承諾した。
「言っておくが途中で破棄などしたら、お前の弟は助からん、そして貴様の魂も回収されることになるからな!」
「うん!わかった!」
最初は自分の魂を捧げると覚悟していた。
でもシローは他の選択を用意していた。
私の覚悟を試していたのだろうか?
それともただ人間を困らせたかったのか?
そんなこと考え彼を見た。
シローは人差し指で小さい円を描く。
すると私の右腕に黒いミサンガのようなものがつけられる。
「それは死神の輪だ、貴様のこれからの行動、仕事具合でその輪の色が変わる
これが真っ白に変われば、死神から開放される。
だがペナルティが課せられた場合、黒くなり仕事が増える。失敗しないようにな!」
ぶっきらぼうにシローは言う。
「今後その輪から連絡するからな!」
腕を組む。
「私から連絡する時はどうしたらいいの?」と聞き返す。
「そんなものは無い!俺様からの連絡のみ以上!」
「ええっ!!」
「貴様に連絡など面倒臭い!」
けだるくそう言い放ちモニュメントの上で寝転がる。
「そんな面倒臭らないでよ!もー!!」
少しむっとしたけど嬉しかった。
私の願いをかなえてくれたから、少し変わったかたちだけど。
シローに近づき改めて彼に言った。
「これからもよろしくね!」
笑みを浮かべ手を出す。
照れくさそうにするシロー
「まあヘマしないように頑張るんだな!また連絡する…」
そうシローが答えると眩暈がし意識を失った。
目を覚ますと弟が眠るベットで横たわっていた。
頭になにか暖かいものを感じた。それは弟が私の頭に手を当てていた。
「お姉ちゃん、おはよう」
弟が私を見て笑っていた。
「拓海!」そう叫び、拓海に抱きつき号泣した。
「もう本当に心配したんだからね!」
「ごめん、姉ちゃん…」
拓海も声を震わせながら言う。
「お姉ちゃん、僕事故にあったあと夢見てたんだ。お姉ちゃんが僕の為に頑張ってる夢」
「内容はわからなかったけどお姉ちゃんだったことはわかったよ」
「そっか…お姉ちゃん拓海の夢で頑張ってたか。お姉ちゃんも拓海のこと ずっと応援してたよ」
私達はたわいない話をして笑いあった。
その後、拓海の容態はよくなっていき、医者も驚いていた。
一ヶ月度には退院し学校へいけるようになり、いつもの生活に戻ろうとしていた。
だけどいつもとちがうことが一つだけある。
それは黒神 シローという死神の不思議な手伝いが生まれたこと。
そして今日も死神の仕事をシローから押し付けられる日々を送っている。