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プロローグ


 実際に異世界トリップなんて体験したら、普通の人間は即座に対応する事は出来ない。

そもそも、異世界に転生やトリップする物語の舞台になるのは、大体文明の発達していない中世さながらのとんでも世界の場合が多い。

先進国で日本で生活している以上、地球に住む全ての人類の中で求められる衛星水準がトップレベルで高い日本人である主人公諸君が、彼処まで不衛生な環境に適応する事は通常不可能な事だと思う。


 例えば水、浄化された非常に綺麗な水に慣れてしまっている日本人の胃では、異世界の水を飲んでしまえば腹を下してしまう恐れも高い。

それに単純に考えれば、住む環境が日本と比べて劣悪なのは絶対だろう。

貧困した人間が集まるスラム街や、排便したブツの処理方法。

死んだ人間は当然焼くだろうが、全てがそうではない筈だ。

魔物や獣に殺された生物は、当然の如く野山原っぱに放置されて腐敗しているだろうし、宗教の問題や手間の面でも土葬が好まれる場合がある筈だ。

キチンとした処理のされない死体、死骸は、腐乱し病原菌を振り撒く装置に成り変わる。

日本では目立った被害が少ない、伝染病が流行る事も多々あるだろう。


 …まぁ、とりあえず、日本と比べて環境が劣悪な可能性の高い異世界では、何の耐性も持たない日本人は適応することは出来ない。

然るに平静を保つことが出来なくなった主人公は、普通気が狂うか、の垂れ死ぬだろう。


 助かる方法は…その世界の人に助けてもらうか、主人公が人間逸した力を保有している事くらいか。

人間なんて完全に知らない人物には非情だろうから、そんな事ほとんどあり得ないだろうけど。



◆



「とは言った物の」

「現実は小説より奇なり、と言うだろう?日本男児。」


 目が覚めると目の前に何故か『めちゃくちゃ可愛い女の子』が居て、

その女の子に「君に好きな能力を、なんでも3つだけやろう。」と、不適な笑みを浮かべながら言われた。

ただ、代わりに異世界を魔王の魔の手から救って欲しいとの事。

うーむ、なかなか王道な展開である。


「本当に?」

「あぁ、なんでも3つだ。…だが加減をしてくれよ、あまり強力な能力は手間が掛かるのでな。」


 魔王を滅ぼす代わりに、欲しい能力が3つ手に入る…のか。

そうだなぁ…、その前に、行く異世界の詳細を知りたいんだが。


「その前に、幾つか質問しても?」

「いくらでも?」

「よし。」


 なかなか親切な…神様じゃないか。

神様なのか?

…あ、いや、そもそも自己紹介すらしてなかったな。


「まず、自己紹介しよう。」

「私は君の事を知っているのだが。」

「俺はお前の事を知らない。フェアじゃないだろう?」

「それもそうか。」

「よし、俺の名前は本郷(ホンゴウ) 拓海(タクミ)、年は18で趣味は読書だ。」

「私は異世界の女神『クリュー』、年齢は98、君とちょうど80違いだな。」


 おや、思ったより若い。

神様なのだから、てっきり何万年も生きてるモノだと思っていた。

しかし、98にはとても見えず、不適な笑みを浮かべるその顔とプロポーションは美しい人間の女性のソレだ。


「とても98には見えないな。」

「魔法で私が一番美しかった時の姿を象っている。実際はヨボヨボの婆さんだ。」

「へぇ、神様は身体が衰えないモノだと思っていたよ。」

「あぁ、それなら良いのだが、生憎『神』と言う種族は寿命が人間のソレと似ていてな。」

「神様なのに、そこら辺の融通が聞かないんだな。」

「うむ、だからあまり非常識な能力を授ける事は出来ないから、その辺は了承してくれ。」

「わかった。」

「と、言っても、もう1つ、能力を付けさせてもらったがね。」

「なるほど。……ん?」


 流石の神でも、そんなに無茶苦茶では……ちょっと待て今なんて言った?


「まてまてまて、なんて言った今。」

「すまないな、この1つは必ず必要なのだよ。」

「一体なんの能力を付けたんだよ。」

「『感情の起伏が乏しくなる能力』だ。」

「…なるほど、道理で普通の学生の俺が、こんな状況を冷静に受け止めれる筈だ。」

「うむ、君は元々理解力があるようだから、この能力の真価を最大限に引き出す事が出来るだろう。」

「ありがとう、クリューはとても聡明な女性だ。」

「ふふ、よせ照れるだろう。」


 そう言って微笑む女神様は、非常に可愛らしく、とても98とは…

…ん?98?


「まて、そう言えば年齢は98だと言ったな?」

「あぁ、そうだが。」

「なら…クリュー。貴女の寿命は、残り僅かなのでは…?」

「そうなのだよ。」

「『そうなのだよ。』…って、大変じゃないか。何を呑気な…。」

「そうは言っても、生物はいつか土に還る。最初の神が創った、世の理だ。」

「しかし…」

「ま、それが君を此処に呼び出した訳でもある。」


 そう言われて、俺は周囲を見渡す。

俺とクリュー以外の全てが白く塗り潰されている。

家具も無く、ただただ白い空間が続くだけ。…目眩がする。


「私は後先短い。…死ぬ前に、私がずっと見守って来た世界を、悪から救って欲しいのだ。」

「…そうか、だから俺を…。」

「すまないな、断りも無しに。」

「いや、構わない。貴女のお陰で、俺は良い人生を歩めそうだしな。」

「随分と自信家だな、良い人生になる補償は何処にも無いのだぞ?」

「俺が欲しい能力を、3つも貰えるんだから、良い人生になるに決まっているだろう?」

「…ふ、それもそうか。」


 苦笑気味に笑うクリューに、俺も微笑する。

…さて、そろそろ残り2つの能力を決めようか。


「さて、そろそろ。」

「あぁ、後2つだ。」


 1つ目は『感情の起伏が乏しくなる能力』。

望んでいる事なのに『乏しく』とは、良い得て妙だな。


 2つ目に欲する能力は…、そうだな。


「そうだな、『あらゆる状態異常を無効化する能力』と言うのはどうだ?」

「良いだろう。」

「この能力で病魔から身体を守る事は出来るか?」

「可能だ。」

「腹下しの心配は?」

「それも無くしてやろう。」

「ありがとう。」

「なに、お安いご用だ。」


 よし、良いぞ。

これで衛生面で生じる身体への影響は心配しなくても良い。


「後1つだ。」

「そうだな…うん、これは、出来ればだが…『世界一強い戦闘力』を得ることは出来るか?」

「無理だ、単独で世界一強い者は魔王だが、魔王は私より力が強いからな。」

「貴女の力を上回る力は持てないと…。」

「うむ。すまないな。」

「いや、良い。」


 クリューが力をくれるんだから、クリューより強くは成れないよな…。

仕方ないか、…じゃあ


「じゃあ、貴女と同等の戦闘力が欲しい。」

「それなら可能だ。」

「それでは、それで頼む。」

「分かった。」


 魔王なんてモノが居るんならば、今から行く異世界とは所謂『剣と魔法のファンタジー』な世界なのだろう。

手に入れれる中で最高の力を使える様になれば、早々死ぬ事も無いだろう。


「よし、それでは上に申請するので、一週間程待っていてくれ。」

「分かった。……分かってない、一週間だって?」

「私の様な下級神は星の数程存在するからな、その神々が様々な申請を天界に送る為、大体一週間くらい予約が埋まってしまっているんだ。」

「なるほど、神様と言うのはそんなに存在するんだな。」

「うむ、天界には最高神様を筆頭とした上級神が数人住んでいて、下級神の管理をしているんだ。」

「ほうほう、なら下級神は何処に住んでいるんだ?」

「私達下級神は、ここの様な空間が各々に与えられる。」

「ここに住んでいるのか?」

「あぁ、そうだ。」

「暇で仕方がないんじゃないのか?」

「はは、確かに暇だが、神とは世界を見守るのが仕事だからな。」

「か、かなりブラックだと思うんだが…。」

「もう慣れっこだよ。そもそも下級神には、上級神に対する反抗の意志が芽生えない様に脳に細工がされているからな。」

「脳に細工…か。可哀そうに…。」

「ありがとう。でも私達にはそれが当然で、怒りも湧かない。」

「…そうか。」


 まぁ、星の数程部下が存在するならば、円滑に管理をするためには合理的なやり方なのかも知れないな。

でも、少し彼女が不憫と言うか、さっきも言ったが可哀想だ。

一週間待たないといけないと聞いてゲンナリしていたが、クリューはこの真っ白な空間に98年も独りぼっちで生きてきたんだ。

一週間くらい、たくさん会話をして、少しでも思い出を作ってあげたくなる。


「なあ、女神クリュー。」

「なんだ?」

「どうせ一週間待つんだ、たくさん会話して、楽しかったと思える思い出を作ろう。」

「会話。」

「あぁ、98年もこの空間で世界を見守っていたんだ。一人、友達が出来たって良いだろう?」

「……あ、ありがとう…。」


 出来るだけ彼女に好印象を持ってもらう為に笑顔で言うと、クリューは少し戸惑いながらもそう返した。

これで少しでも仲良くなって、クリューに笑顔になってもらいたい。


「友達、…ふふ、友達か。」

「あ、嫌…だったか?」

「そ、そんな事は無い!……その、友達とか、初めてだから。」

「今まで友と言える存在は居なかったのか?」

「…友どころか、そもそも他の存在に実際に会った事が無い。」

「なら、俺は貴女にとって初めての友達だな。」

「…あぁ、よろしく頼む。」


 俺はお近づきの印にと右手を出す。

クリューも笑顔で右手を出して、俺達は硬い握手を結ぶ。


「ふふ、握手も初めてだ。」

「そうか。」

「これから一週間、君には私の初めてを沢山捧げる事になりそうだよ。」

「その発言は色々不味い。」

「?」


 笑顔のまま色々勘違いが起きそうな事を言うクリューをたしなめるが、クリューは意味が分からないのか不思議そうな表情で顔を傾げた。


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