接触しました
*小浜飛鳥side
「……飛鳥、そんなに不機嫌そうな顔するなよ」
風紀員室で仕事をしている俺に向かって、聖一が言い放つ。
「仕方ないだろ…、海がいねえんだよ」
――そう今海は俺の側にはいない。
空のことで気になることがあるからと一人で生徒会のところにいってしまった。
俺もついていくって言ったけど可愛く『僕一人で大丈夫だよ? 飛鳥は仕事してていいよー。飛鳥が頑張ったら僕飛鳥をいやすためにご奉仕しちゃうよ!』なんていわれて一人で行かせた。
まあ何かあったらすぐ連絡してと言ってるけど。
でも同じ学園にいるのに海が側にいないってきつい。
声聞きたい。
抱きしめたい。
ああ、海に傍で居てほしいって、全身が叫んでる気がする。
「…お前って、本当海の事大好きだよな」
「当たり前だろ。俺が可愛いって思うのも全部海だけだ」
「…つか、てめぇらははずかしがれよとつっこみたくなるんだが」
聖一はそう言って、呆れたようにこちらを見てきた。
「本心を口にしてるだけだしな、それに人前でいちゃつくって事は海が俺のモノだって周りにわからせる手段にもなるからな丁度いい」
「お前、海といつ出会ったんだ?」
「小5の時、海の兄と俺は仲良くしてたからそれで知り合った」
そう、空が居たから俺は海に出会えた。
小学生時代に空と親友だったからこそ海に出会えた。
空は海の兄で、俺が海と出会う事になったきっかけだから親友の中でも特別だ。
「へえ、最初から惚れてたわけじゃねえよな?」
「そりゃあな。
途中からどうしようもなく海が好きになってたけど」
最初は海の事なんとも思ってなかった。
海も他の奴らと一緒みたいに俺は見ていた。
でも途中から海とずっと一緒に居たくなった。
「ずっと一緒に居たくなったってお前本当恥ずかしがりもせずに言うよな」
「だって本心だし。
俺は海以外いらない。他の奴がどんなに居なくなったとしても海だけは俺の側に居てほしい」
俺は、親友や家族が居なくなろうとそれでも生きていけると思う。
でもそれでも海だけは居ないと嫌だ。
海と一緒に居れる日常はどこまでも楽しい。
海と一緒に居れると心が温かくなる。
そんな事を言えば聖一はあきれたように笑みをこぼした。
*新井海side
「小浜の恋人さんが、俺に何の用~?」
今、僕の前にはチャラ男が居る。
生徒会所属の『RED』幹部―――倉内春哉。
「ちょっとお話したくてね」
にっこりと笑って僕は会計をみた。
お兄ちゃんはこの会計の事も大切な仲間だといっていた。
こいつもお兄ちゃんに認められてたのだ。
それに日頃の空也に対する態度に違和感を感じていたから、ききたかった。
お兄ちゃんのためにも。
「話したい事~? 遊びのお誘いなら遠慮したいなあ、小浜怖いしぃ」
「それはないから、安心してください。
僕飛鳥以外とそういうのしたくないんで
話したい事って言うのは、空也のことです」
そう言った瞬間、ベンチに座っていた会計の表情が変化したのがわかった。
あ、ちなみに今僕らがいるのは裏庭のベンチなんだよね。
「空也ちゃんの~? 何かなあ?」
「んー、空也は噂の『金姫』と印象が違うしさあ
僕、会計さんは『金姫』を大事にしてたって噂聞いた事あるんだよね
だから会計さんが空也にヤろうみたいに言うのおかしい気がして」
本当は本人から聞いたんだけど、あえて噂を聞いたとして話した。
会計さんはしゃべってくれるかななんて思って。
「僕ね、あれが噂に聞いた可憐な猛者『金姫』だとは思えないんだ」
僕がそう言った瞬間会計が笑った気がした。
「………へえ、学以外にも気づく奴、居たんだ」
そうやって笑う姿はチャラい雰囲気もなくなり、会計の印象をがらりと変える。
その印象の変化に驚いていれば会計が笑っていった。
「緩く喋った方が簡単にヤれやすいしさ。周りがどんだけ気づかないかで遊んでたんだ、俺」
なんて言われて、まあ確かにチャラ男風にやってたら頭の軽い奴はすぐに会計によってくるだろう、顔はいいしなんて思う。
「で、さっきの海ちゃんが言ってたことだけど、他の三人はどう思ってるかしらねえが俺は到底『金姫』とは思ってないし、多分学もそう思ってる」
やっぱり気が付いてたのか、そう思うと笑みがこぼれた。
お兄ちゃんの本質をちゃんとわかってくれている人がいるのが嬉しかった。
「じゃあ何でつきまとってるの?」
「そりゃあ、『金姫』を語るなんていう事やってる奴なんだぞ?
ヤって滅茶苦茶に俺に溺れさせて、で、壊してやろうと思って」
そう言って、会計さんはにやりと笑う。
うわーと思う。
いい性格してるとは思うけど。
それだけお兄ちゃんが好きなんだろう、ってか大切にしているんだろうとは思う。
だけど、一つ気になるのは…、
「『金姫』はそれを喜ぶの?」
お兄ちゃんは僕や飛鳥と違って、優しすぎるという事だ。
人を壊す、なんて行為、お兄ちゃんはきっと好まない。
「いわなきゃ、ばれないだろ?」
「……じゃあ、僕がいう」
「は?」
お兄ちゃんが後から知ったら悲しむと思って思わず零れた言葉に、会計さんは驚いたように眉をひそめた。
…思わず言っちゃった。
もういいか。話しても。
「えーっとね、会計さん。僕と飛鳥って実は本物の『金姫』と個人的に知り合いなんですよね。
まぁ、それで約束の事も『RED』の事も、聞いてて。
……偽物が偽物だって気付くか、見てようと思いまして」
ぶっちゃけたら、会計さんの顔がみるみる驚きに染まっていって、何だか面白い。
「じゃあ、『金姫』が、何処に居るか、わかるのか!?」
「知ってます」
というか、自分の兄の居場所ぐらい普通にわかるしね。
「じゃあ、教えて。教えて! 俺、『金姫』に会いたい、会いたい、会いたい!!」
何だか、そう言って目を輝かせて期待するようにこちらを見てくる会計さんは、何だかフユを連想させる。
イケメンなのに、可愛い感じになってる気がする。
「他のメンバーが、気付いてるかどうか見てから、僕は『金姫』が『RED』に再会するためのお膳立てをするつもりなんです。
『金姫』は、『RED』に会えないの、自分で約束しておきながら寂しがってましたから」
そう言って笑えば、会計さんは、ようやく落ち着いたようだ。
「……そうか」
「『金姫』は、選ぶっていったんですよね、あったら、見つけたら」
「…ああ」
「もし、選ばれたらどうするつもりですか?」
…会計はゆっきーの言うようにチャラ男だ。
ヤりまくってるし、お兄ちゃんが会計をもし選んでもヤるというなら僕はこいつを認められないから。
「どうって、俺の処女をあげる」
「…はい?」
まさかの予想外の言葉に、思わず座っていたベンチから落ちそうになった僕。
いや、でも今処女あげるって、え、この人ネコやる気だったの?(ゆっきーに聞いてて単語は知ってる)
「えーっと、会計さん、ってタチなんじゃ。というか、もちろん、『金姫』に選ばれたら遊ばなくなるんですよね?」
というか、お兄ちゃんは150センチ前半、会計さんは170センチ以上。
……え、それでネコなの? お兄ちゃんにタチやらせたいの?
いやさ、お兄ちゃんが誰をおもって誰を選ぶかなんて僕にはわからないけど、なかなか驚く事だと思う。
「だって、『金姫』綺麗すぎて、かわいすぎて汚したくないし…。それに、本気で好きな奴に、処女、やろうって、おもってたし……。
…遊ばなくなるかどうかは、そりゃあ、『金姫』が手に入るならやめるけど」
そういう会計さんの顔は真っ赤だった。
…何だろう、会計さんが可愛く思えてきた。
フユみたいにこの子も犬にしたいなあなんていったら飛鳥に怒られれかな。
「会計さん……思考が可愛いですね」
そういえばお兄ちゃんは会計さんの事以外に可愛いって言ってた気がする。
「『金姫』以外に可愛いなんて言われたくねえ」
「『金姫』は愛されてるんだね」
嬉しいと思う。
お兄ちゃんが、誰かに愛されてる事実が。
「つか海ちゃんって、『金姫』とどういう関係なんだ?」
「ふかーい関係だよ。『金姫』の事は子供の頃から知ってる」
歳もひとつしか離れてないし、お兄ちゃんのお友達達と遊んだりもしてたしね。
お兄ちゃんと僕は仲良しなんだもんね!
「子供の頃から?」
「うん
てか『金姫』って夜街にでる時さ、基本的に顔隠してたでしょ。
だから会計さん達って『金姫』の顔ちゃんとみた事ないんだよね」
顔を隠して正体不明で暴れるって楽しそうなんていうしょうもない理由で僕ら隠してたからなあ。
まあだからこそ、ちゃんと顔をみた事がないからこそ、奴らはお兄ちゃんを間違えたんだろうけど。
「ああ。でも、フード被ってても『金姫』はきれいだし、可愛い
行動とか、仕草とか、喧嘩も凄い綺麗で………」
綺麗はともかくとして男なのにお兄ちゃん可愛いって言われすぎだよね。
「ふふ、『金姫』は愛されてるんだね。会計さんは『金姫』が大好きなんだね」
嬉しい、自分の親しい人が、大事なお兄ちゃんがこれだけ思われている事が
「……当たり前
俺は『金姫』以上に優しくてきれいで可愛くて、人を思える奴を知らない」
「まあ、『金姫』って人の事よく見てるもんね」
お兄ちゃんは人が好き。
お兄ちゃんは周りに愛されて、そして笑いあうのが好き。
お兄ちゃんは周りが笑っているのをみるのが好き。
そんな、人だ。
「空也と『金姫』は全然違うよね。
やってる事も、言ってる事も」
「そう、だよな
あの『金姫』がさ、他人のいやがる真似するわけない
あの『金姫』は大事な約束を忘れるはずがない」
「だよねえ
それに『金姫』って空也より身長低いし、料理とかも出来ちゃうしね
偽物ってすぐわかったし質問したんだけどさ、『金姫』について対して知らないくせに演じる神経がわかんないんだよね」
一番気にくわないのは、お兄ちゃんの名が語られてる事
別に人の性格は人それぞれだし、空也のあの性格に文句をいうつもりはない
性格があわないなら近寄らなければいいだけだ。
「海ちゃんも怒るんだね。いつもにこにこしてるのに」
「そりゃあ、怒るよ。
まあ僕の場合飛鳥が側にいてくれるだけで、幸せだから」
「そっかあ」
「うん。
とりあえず空也を滅茶苦茶にしようってのはやめてあげて
『金姫』は絶対悲しむからさ
僕は他の『RED』のメンバーに接触してみるよ
『金姫』って自分から会わないようにした癖に会えない事寂しがってたから、再会をお膳立てしてあげたいんだ、本当」
昔から優しいお兄ちゃんは、僕を可愛がってくれてる。
飛鳥との出会いもお兄ちゃんがきっかけだし、散々お兄ちゃんには世話になってるから。
お兄ちゃんのために何かしてあげたい。
そんな気持ちの僕の言葉に会計さんは笑った。