新入生歓迎会
フユと再会し、フユが風紀委員に入って、しばらくのち、新入生歓迎会の日となった。
ちなみにフユを風紀委員室に連れてったら、滅茶苦茶驚かれたよ。
聖一先輩に”お前らの交友関係どうなってんだ”と聞かれちゃったしね。
「ねぇ、飛鳥ぁ」
「ん?」
ちなみに僕らは手をつないで見周り中。
「あの、偽物さ、どう動くかな?」
ゆっきーが見せてくれたBLのお話って、基本的に新入生歓迎会で何かイベントあるんだよね。
だから、あの偽物にもあるのかなってふと気になった。
「さぁな、でもま、あんな奴どうでもいい。
海に危害さえ加わらないなら。
どっちにしろ、生徒会が、偽物って気付くかどうかだろ」
「まぁ、そうだね。
でも僕としてはお兄ちゃんの偽物はどうにかなってほしいかな」
そう言って、僕は笑って、飛鳥を見た。
僕より30センチも高い飛鳥を見上げれば、そのまま、抱き寄せられて口づけされた。
…此処中庭だけど、まぁ、誰かに見られても飛鳥は僕のだって示せるからいいけど。
「どっちにしろ、空が自分を語った奴を黙って放置するわけねぇだろ?」
僕の口から、口を離した飛鳥は、そう言って笑う。
まぁ、その通りだ。
お兄ちゃんは自分を語ったという事より、自分の大切な仲間――『RED』を騙したという事実に怒っているはずだ。
そして、僕と飛鳥は、そのまま、校内を歩きまわる。
二人で手をつないで歩いていく。
そうすれば、声が響いた。
「何だよ、お前らっ、何で俺ばっかり狙いやがるんだ!!」
……偽物の声だとすぐにわかった。
まぁ、生徒会の親衛隊とか殺気立ってるから、偽物を狙ってるのかもしれない。
とはいっても、ブレスレットとるために必死になってるなら、風紀が口出す事じゃない。
…まぁ、流石に暴行だの、襲おうだのしだすなら、嫌だけど助けなきゃいけないけれど。
「飛鳥、行こうか」
そう言って笑えば、飛鳥も頷いて、僕たちは声の下ほうへと向かった。
しばらく、歩けば、そこには追いかけっこをしている偽物と、多数の生徒達が視界に映った。
こちらに、追いかけている生徒達が視線を向けたが、すぐにまた偽物を追いかけ始めた。
風紀委員は新入生歓迎会の、標的の対象にはならないわけで、だから、偽物を捕まえようとしているのだろう。
僕らはただ、黙って手をつないで、成り行きを見守っている。
だって、何て言うか、一番暴行とか受けそうなのって、あの偽物だし。
…風紀委員として、一応見過ごしちゃいけないからね。
そうしていれば、偽物が突然こっちを見て叫んだ。
「海とあす…じゃなかった、小浜!」
「ん、なぁに?」
「何で助けてくれねぇんだよ!」
「え、風紀委員って中立の立場だし、自力で逃げなよ」
と、にっこりと笑ってやる。
そもそも、助ける義理もないし。お兄ちゃんの名語ってるんだから、逃げ切るぐらいしろよ、と思う。
『金姫』―――お兄ちゃんは身軽で、そうして素早い。
運動神経も抜群だし、頭も働く。だから、逃げ道を見出して逃げるなんて事、本物なら造作ない事。
それが、できない癖に、お兄ちゃんの名をかたるんじゃない。って、苛々してくる。
*小浜飛鳥side
「くそぉおおお」
何て言いながら必死で逃げ回る偽物。
……正直偽物なんてどうでもいいから海と二人でのんびりしたいってのが本音。
海もそうおもっているのだろうか、はやく偽物が捕まらないかなとでもいう風に、奴らの追いかけっこをじっと見つめている。
海は、空の事を大事におもってる。
それは、たった一人の兄妹だから。
とはいっても、海が空の事ばかり考えてるとかだと、ちょっと嫌だ。
空は、俺にとって数少ない友人だ。
基本的に海以外は俺はどうでもいいと思ってる。
だけど、空とか聖一は、俺の友人だ。
でも、友人だとしてもだ。
海が、他の人間の事を考えてるのが、やっぱり、少し嫌だ。
「海」
俺が、海の名を呼べば、海は真っすぐにこちらを見返してくる。
「なぁに?」
何ていいながら首をかしげてくる海が、本当可愛いと思って仕方がない。
海に出会うまで、誰かを可愛いなんておもった事なかった。
海に出会うまで、俺はこんなに誰かを大切だという気持ちがある事を知らなかった。
「偽物さっさとつかまらねぇかな。俺海と二人の方がいい」
そう言えば、海は笑って、俺を見上げてくる。
……小学生高学年の頃、海と出会う前、俺は恋愛なんて正直バカにしていた。
漫画とかドラマでそういう話があっても、結局その人がいなきゃ生きていけないなんてあるはずがないって、そうおもって。
だけど、俺はきっと今はもう、海がいなきゃ、生きていけないって、本気でおもう。
「海、好きだ」
海の顔を見ていたら、自然とそんな台詞が口から洩れた。
海を好きだって気持ちが溢れてて、どうしようもなく、言葉に出た。たまに、そういう事がある。
海はそんな俺の言葉に嬉しそうに笑って、俺の腕に抱きついて、そして言う。
「僕も、大好きだよ。飛鳥」
そうやって笑う海が、どうしようもなく愛しくて、近くで偽物が追いかけっこしてるのとかもうどうでもよくなって、俺は海の唇をふさいだ。
「んっ…」
可愛らしく漏れる吐息に、何だか興奮してくる。
可愛い、俺の海。
深い口づけに、必死についてこようとする、必死に答えてくれる、可愛い海。
俺は、海がどうしようもないほど好きだ。
…愛してるなんて、はずかしい台詞も言えそうなくらい、海の事が大事で。
「あす…かぁ」
キスをしながらも、俺の名を呼ぶ、海。
可愛くて可愛くて仕方なくて、つい独占欲がわく。
海は、俺だけのモノ。
海は、俺のモノ。
独占欲と執着に満ちた俺を、海は受け止めてくれる。
俺の事を愛おしそうに見てくれる海。
俺に大好きだって笑いかけてくれる海。
深い口づけから、唇をはなせば、海はそのまま、俺の胸に顔を寄せて寄りかかってくる。
俺はそんな海の体に手を回す。
ふと、顔を上げれば、追いかけっこをしていた偽物と、おいかけていた奴らが顔を真っ赤にしてこちらを見据えていた。
「小浜様が、優しい顔をっ」
「小浜様の恋人さん、可愛いっ」
「なんか吐息が色っぽいつーか」
………海が可愛いのは当たり前だろう。
というか、
「俺の海を見てんじゃねえよ」
俺の海をジロジロ見るなってーの。
誰にも見せたくないとばかりに、自身の腕の中に居る海をぎゅっと抱きしめる。
そして周りにいる奴らをにらみつけた。
「ひっ、す、すいません。小浜様」
「やべえ、溺愛攻に可愛い受とか、萌・え・る!」
「ちょ、興奮してんのはわかるけどそんな見てたら魔王に殺されるぞ!」
何だ、芦屋(海のいうゆっきー)の同類がいるのかと息をはく。
「お前ら! 人前でキ、キスとか破廉恥だ!」
そして騒ぎ出すのは空の偽物だ
*田中空也side
「……あぁ? お前が見なきゃいいだろうが」
小浜がそういってこちらをにらむ。
その瞳の冷たさにぞくっとした。
恐ろしく冷たく、そして俺に興味もない、という瞳。
どうしてどうしてどうしてどうシテどウシテ、ドウシテ
俺をそんなに冷たい瞳で、見るんだ?
俺は小浜に何もしてないはずだ。
何で小浜は俺をにらみつけるんだ!
「飛鳥ってばー、そんなに強く抱きしめられたら苦しいよ!」
「ああ……海、ごめん。海が可愛すぎて誰にも見せたくなくて」
優しい瞳を小浜は海へと向ける。
……どこまでも愛おしそうな瞳。
「小浜! 海!」
何で、海も俺に視線も向けないんだろう。
俺が、此処にいるのに!
そうして俺は小浜と海に話しかける。
「ん? 空也なに?」
海は返事を返してくれたけど、飛鳥はこちらに視線も向けずに海を後ろから抱きしめている。
「小浜っ、人を無視しちゃいけないんだぞ!」
「…お前、邪魔」
「なっ、俺が話しかけてるのに邪魔って」
「俺は海といちゃつきたいんだ。だから、お前は完全に邪魔者だ。消えろ」
「ふふ、飛鳥って僕といちゃつきたいの? 嬉しいよ。僕も飛鳥にいーっぱいかわいがってもらいたいな」
「な、か、かわいがってって! 海、そんな事いうなんて恥ずかしくないのか!」
かわいがってって、かわいがってって!
なんて恥ずかしい事をいうんだ、海は。
「……海可愛すぎ」
そういって、小浜はそのまま海を抱き抱えた。
……お姫様だっこという奴だ
「転入生、それに親衛隊」
小浜の小さいのに響く、ぞっとするような冷たい声がその場を支配する。
「は、はぃい」
「小浜様、な、なんですか!」
「な、なんだよ、小浜」
俺を追いかけてた親衛隊の奴らも含めて、何を言われるのだろうと恐怖してしまう。
俺だって、族世界を一応生きてる人間なのに。喧嘩だってする人間なのに。
――小浜の表情の、こちらに無関心な様に、恐怖心を感じて仕方なかった。
「――新入生歓迎会中に、問題起こしたら潰す」
ひどく冷たい声。
ひどく冷たい瞳。
優しさも、甘さも欠片も存在しない瞳。
――本気だ、それがわかって肩が震えた。
「飛鳥ってばそんなに脅しちゃ駄目だよ?」
――どこまでも冷たく人に恐怖心を与える瞳を浮かべる小浜に海は普通にしゃべりかけた。
その瞳にはおびえも恐怖もない。
ただ海は小浜を愛おしそうに見つめ、その頬に手を伸ばしていた。
小浜はそんな海に笑っていう。
「仕方ないだろ? 海が可愛くて仕方ないのにほかの奴に構ってられねえよ」
「ふふ、僕も二人っきりになりたいよ。飛鳥。飛鳥からね、いっぱい僕を愛してるって受け取りたいなあなんて思ったり」
「…やっぱり海は可愛すぎ。もう部屋帰りたい。今すぐ抱きたい」
「んーでも飛鳥風紀委員長だし、問題あったら困るでしょ?」
「………何も問題おこらなきゃ、いいんだな?」
小浜はそういって笑うとどこかにスマホから電話をかけはじめた。
「中道か? 風紀委員長の小浜だが、放送頼めるか?」
どうやら、放送部に連絡をかけたらしい。
「『これから問題おこしやがったら遠慮なく潰す。どんな些細な事でも地獄みせてやる』」
……放送、だよな。放送で頼んでんだよな、これ。
明らかに゛普通じゃない゛小浜の言葉。
「理由? そんなもの、俺が面倒事を気にせずに海といちゃつくために決まってんだろ?」
海といちゃつきたい。
ただそれだけの理由で、小浜は平然と無茶を言う。
*東宮学side
新入生歓迎会の中、俺様は大きくため息を吐いて、ベンチに腰掛けた。
考えるのは、愛しき『金姫』の事。
゛今゛の『金姫』と゛昔゛の『金姫』。
゛今゛の『金姫』は人とどこまでも親しくなりたいと思い、スキンシップを取りたがる。
いや、゛昔゛の『金姫』も確かに人と親しくしようとしていた。
だけど、何か違う。
『金姫』は人の嫌がる事をしない人間だった。
人から好かれる事に喜びを感じ、仲間が増える事を誰よりも喜んだ。
『金姫』は、
゛仲間が増えるって嬉しいよなあ゛って本当に嬉しそうに笑って、
゛何かあったのか?゛って人の異変にすぐ気づいて、
゛学はそれすきだもんなあ゛って一度だけ言った俺の言葉さえも覚えていて、
゛バーカ、冗談だよ゛ってからかうように悪戯してきて、
何よりも、どうしようもないほどに綺麗で、人を惹きつける笑みを浮かべる奴だった。
よく考えて見れば、俺様は『金姫』に一目惚れしていたのかもしれない。
はじめて会ったあいつは、月明かりの下をどぼとぼと歩いていた。
金色の髪が、フードから顔を出していて、サングラス越しに灰色の瞳が輝いていた。
……一目みて興味を持った。
だから、話しかけた。
そしたらあいつは、゛つれが俺に構ってくれないんだー。構って゛なんて悪戯に笑ってきて、そのはじめてみた笑顔はそれまで見てきたどんな笑顔よりも可愛いなんて正直思ってしまった。
それから俺様は『金姫』と仲良くなった。
……名前は、隠す事に連れと決めてるからって教えてくれなかった。
でも、それでもよかった。
だって、俺様はどんどん『金姫』のいう存在に惹かれ、近くにいてくれるだけで嬉しかったから。
”学ーっ”なんていってたまにスキンシップをとってきて、
どうしたって聞けば、”俺って寂しがり屋だもん。人肌恋しくなったていうかね、たまに誰かにくっついときたくなる”とかいって、笑って、
……そんとき可愛くて、本当心の底から襲いたくなった。
まぁ、嫌われたくないし、やらなかったけど。
”今”のあいつと、”昔”のあいつがどうしようもなく重ならなくて、違和感があって。
……何だか、モヤモヤして仕方ない。
志紀達は、あれが、『金姫』だといった。
人は変わるものなのだと。だから違っても仕方ないのだと。
”『金姫』は私たちの太陽です。空也はまさに、『金姫』です。私の心を明るく照らしてくれるから”
なんて、よくわからない自分に酔ったような、というか…、詩人みたいにそういう事を志紀はいっていた。
”空也は、本物だよ”
”だってだって、僕らの事見わけてくれるしー?”
””それにー、何より話してて『金姫』って感じする”
あの双子もそう言って、笑って、
”『金姫』ちゃんは相変わらず可愛い性格してるよねぇ。照れちゃってるし、構ってほしいってオーラ満載で”
春哉はそう言って、下心満載の目で、空也を見ていた。
――違和感を感じているのは、きっと俺様だけ。
確かに、『金姫』は俺様達にとって太陽だったのかもしれない。
明るくて、優しくて、綺麗で、そうして、周りを笑わせて、一緒に楽しい事をするのが好きだったあいつ。
『金姫』って感じがする?
本当にどうして双子はそんな事をおもったのか、俺様にはわからない。
俺様は話せば話すほど、関われば関わるほど、違和感がぬぐえない。
あいつは、人の話を遮ったりなんてしなかった。
あいつは、いつだって笑顔を浮かべていた。
そりゃあ、たまに怒ったりもするけど、違う、って思ってしまう。
……あいつは確かにたまに照れてたけど、時たま素直に悪戯に笑って、だけれどもあとから顔を真っ赤にして否定したりして、
そうして、確かに構ってほしいっていう、そんなオーラは出てたとは思う。
一人が嫌で、誰かと笑い合いたくて、
そんな思いを抱えてたのが、『金姫』だったから。
でも、やっぱり、何か違うんだ。
本当に空也は『金姫』なのか?
そんな事まで、考えてしまう。
本当に空也が『金姫』だとするなら、『金姫』は変わってしまった事になる。
゛今゛の『金姫』は俺様がずっと探していた『金姫』とは違うから。
俺様が過去を美化していたのか、『金姫』が変わってしまったかのどちらかになる。
どっちにしろ、あれが本当に『金姫』なのか調べる必要がある。
そんな事を考えていれば、
『突然失礼しますが、放送を流します。
小浜飛鳥様――我らが魔王陛下様より、言葉を授かりました』
そんな放送が流れた。
『『これから問題おこしやがったら遠慮なく潰す。どんな些細な事でも潰す』らしいです…。理由は恋人である新井海ちゃんといちゃつきたいからだそうです』
…………何をやってるんだ、小浜は。
『2、3年の方は逆らうべきではないと身をもって知っているでしょう
1年の方、あの魔王陛下は本気で有言実行する方なので問題を起こすのはやめましょう』
もっともだ、と俺様は思った。
というかあの小浜は容赦なさすぎる。
『つか本当に問題おこさないでくださいね! 魔王陛下が暴走したら本当困ります。地獄絵図です。本当に怖すぎますから』
青ざめたような声が響く。
確か放送部って小浜についての記事とか放送してたはずだからな。
多分、だからよく小浜の恐ろしさがわかるんだらう。
「…とりあえず俺様はさぼるか」
『金姫』を探す気にはなれない。
何だか、違う気がして胸がざわつくから。
それに、あの『金姫』は約束を忘れたといった。
俺様たちに向かって゛見つけたら選んでやる゛といった約束を。
そもそも見つけたら選ぶといったあいつが自分から会いにくるのも謎なのだ。
それにあいつは、人と交わした約束を忘れるような人間ではない。
些細な事さえ覚えてるあいつが、大事な約束を忘れるはずない。
そう思う。
゛今゛の『金姫』は本当に昔のあいつなのか?
違う事を俺様は願う。
だって、俺様の愛した『金姫』があんな風に変わったなんて信じたくない。
゛今゛の『金姫』は俺様が会いたい『金姫』なんかじゃない。
だから、俺様は違う事を願う。
*崎岡冬side
飛鳥さんが指示して流れた放送に思わず口元があがる。
なんていうか飛鳥さんらしいなって思って。
飛鳥さんは出会った頃から海を大切にして、寧ろ海以外見ていないようなそんな人だった。
「飛鳥さんと海の邪魔はするわけにはいかないし、しっかり見回りしなきゃな」
俺はそう呟いて歩きだしす。
飛鳥さんと海が仲良くして、幸せそうに笑っている様子は好きだ。
飛鳥さんと海は、俺にとって誰よりも大切で尊敬できる、何よりも優先すべき存在だ。
飛鳥さんと海の邪魔をする奴は俺が許さない。
だって俺は、あの人たちの『犬』だから。
あの人たちのためにすべてを捧げる犬でいよう。
あの人たちのために何でもする犬になろう。
だって、俺は嬉しい。
あの人たちの『犬』として側にいる事が出来る事が。
耳の、ピアスにふれると笑みが零れる。
海の証の銀が、飛鳥さんの証の黒が、俺の証の白がある。
仲間の証だと海たちは言った。
あの人たちの『犬』だと認められているのは俺だけ。
仲間だと認められているのが、どうしようもなく嬉しくてたまらない。
「冬ぅううう――助けてぇ」
だから、そんな声が聞こえた時どうしようもなく不愉快だった。
空也が、こちらに向かってくる。
後ろに大量に追手を引きつけて。個人的に言えば、空也の事、嫌いだ。
何て言うか面倒だし、『金姫』だっていうから優しくしただけ。
今はもう、違うのだ海と飛鳥さんの口から聞いたから、心底どうでもいい。
俺は空也から視線をそらして、足を動かす。
「何で無視するんだよ! 親友無視しちゃいけないんだぞ」
…誰と誰が親友だ。といいたくなる。
最近空也に冷たく接してる。
どうでもいいから、無理して一緒に居る必要はないから。
だけどそれに気付かない空也にため息が漏れる。
「何で後ろ向くんだよぉお、聞こえてるだろ!!」
「…俺風紀だし」
ボソッと返事を返す。
つか、風紀に入ったとだけ、空也にいったはずなのに。
何で風紀である俺がお前に手を貸さなきゃいけないんだって、話。
「…風紀でも親友だろ!」
「はぁ…」
俺はため息を吐いて、空也に近づく。
そして、助けてくれるのかとキラキラした目でこちらを見てくる空也の腕をつかむと、追手の方へと投げた。
「な、何するんだ!!」
まぁ、そうして空也は追手の腕の中へと入ってしまい、空也は捕まった。
つか、俺が捕まえさせたようなもんだけど。
だって、煩いし。
その後、空也が睨みつけてきたけど無視した。
そうして、新入生歓迎会は、過ぎていく。
*川端志紀side
「志紀ぃぃ…」
新入生歓迎会が終わって、空也の所に行くと、空也は泣いていた。
…本当は私が空也を捕まえてあげたかったのに。他の奴が捕まえたときいて慌ててやってきたら、空也は泣いていた
「どうしたんですか!」
「誰かにー」
「苛めー」
「「られたのー?」」
「誰が、空也ちゃんを苛めたの~?」
私、秋、幹、春哉はそう言って空也を囲む。
…まったく、空也は私のモノになるべき存在なのに、邪魔です。
「冬が、冬が……」
そうして、空也は新入生歓迎会で起こった出来事について話し始めた。
何でもあの駄犬―――崎岡冬が生徒に空也をつきだしたらしい。
…崎岡冬は空也の事を好きだと思いこんでいたが、どうやら違うらしい。
まぁ、ライバルが減るのはいいことである。
これを機に崎岡冬を空也から離そうと私はおもった。
「いいじゃないですか。そんな意地悪するやつ」
「「そうだよー」」
「放置しようよ~」
優しい言葉をかければ、空也は笑った。
空也の笑顔を見ると嬉しくなってくる。
よく笑う、『金姫』。
私のモノになるべきな『金姫』
これで、もう空也は崎岡冬に関わらないだろう、と思ったのだが、空也はいった。
「冬にきっと何かあったんだ! 俺は冬と仲良くしたい。話、聞きにいく!」
なんていって、それに私は嫌な気分になったけれども、空也は優しいですね、と笑った。
空也――、あなたをいつか私のモノにしてみせます。