久しぶりに会いました、犬に。
もうすぐ、新入生歓迎会がある。
僕と飛鳥は風紀として見周りがあって、だから参加しない。
ちなみに二人一組で見周りで、僕はもちろん、飛鳥と一緒なんだけど
新入生歓迎会は、鬼ごっこをするらしい。
捕まえる側が二、三年で、捕まる側が一年なんだって。
ちなみに逃げ切った人や、多くの人間を捕まえた人には願いが叶えてもらえたりするらしいよ?
逃げる側は事前にブレスレットを配られてて、それを捕まえる側が持ってるっていうのが、捕まえた証なんだって。
ちなみに今はただのんびりと放課後に学園内の見周りしてるんだよね。
「ねぇ、飛鳥」
「どうした?」
「んー、あそこで乱闘起こってるけど、どうする?
一人相手に20人もつぎ込むとか何やってんだろうね」
「…行くか」
「うん」
僕と飛鳥は乱闘を止めるために、その現場に割り込んだ。
「一人相手に、何してんのかなー?」
「…問題起こすな、面倒だ」
そう言って、割り込めば、二、三年生らしい生徒達は、一気にざわめきだす。
「ま、魔王!?」
「……ってことは、このちっこいのが、魔王の、恋人か」
「やべぇ!!」
……本当、去年飛鳥は何をしていたんだろうね?
滅茶苦茶脅えてるんだけど、この人達。
「飛鳥ー、そいつらよろしく。僕ちょっと囲まれてた子と話すから」
そう言って僕は、囲まれていた人間に近づく。
真っ赤に染まる髪をなびかせた、不良らしき、男―――。
おそらく、一年生。
どこかで見た事がある気がする、そうおもいながら僕は声をかける。
「だいじょうぶー? あ、僕は1-S新井海だよ。あっちは、小浜飛鳥!」
「……何の真似だ、助けるなんて」
「んー、何の真似って僕ら風紀だしぃ?
てか、君名前なんていうの?」
「……崎岡冬だ」
「ふーん、崎岡ね。それにしても、崎岡冬…んー、どっかで君の事見た事ある気がするんだよね」
僕はそう言いながら、崎岡の事をまじまじと見つめる。
崎岡冬、崎岡冬……どっかで見た事あるんだけどな。
冬、冬………フユ。
そこまで考えて、過去の記憶の中の人物と、目の前の崎岡が重なった。
「わかった、君、フユでしょ? 僕と飛鳥の周りうろちょろしてた!」
「は? 俺がいつお前らの周りを―――」
「えー、忘れちゃった? まぁ、色々変わったしわかんないかなぁー。
じゃあ、こういえばわかるかな?」
そう言って、僕は笑って言う。
「『私たちの事、尊敬してるんだって? なら、私たちのために動いてくれるよね?』」
過去にいったままの、台詞。
覚えている台詞を口にする。
そうすれば、崎守冬――フユの目は大きく見開かれた。
「――――銀、さん!?」
大きく見開かれた瞳と、驚いたような声。
それに、満足して僕は笑った。
「せいかーい。久しぶりだねぇ、僕らの『犬』」
そう言って、僕はにっこりと笑う。
「銀、さんっ!! お久しぶりです」
そんな言葉と同時に抱きつかれた。
相変わらず、フユは可愛いねぇ。
何か本当、じゃれてくる犬だよ。170センチ近くあるから、巨大な犬だけど。
「…何、俺の海にひっついてやがる」
もちろん、べりっと、飛鳥にはがされたけど。
どうやらさっきフユを囲んでた面々は飛鳥が追い払ったらしい。
「俺の、って、じゃ、あ黒さんっ!?」
フユがそう言ってキラキラした目で飛鳥と僕を見ている。
うん、相変わらずだ。フユってわんこにしか見えない。可愛いよね。
「…誰?」
「飛鳥ー、こいつフユだよ。フユ、僕らの犬だよー」
「あー、フユか」
『フユ』。
僕と飛鳥が崎岡冬の事をそう呼んでいた、呼び名だ。
僕と飛鳥が、暇つぶしで喧嘩していたときにフユと出会った。
といっても、フユが僕らの周りうろちょろしていただけともいえるけど。
銀さん、黒さん、何て言いながら、夜の街にでた僕らの周りをうろちょろして、まぁ、悪く言えば付きまとってたような感じだった。
”俺、銀さんと黒さんにあこがれてるんです! 何でもいいからそばに置いてください”なんて、言うものだから…、というかいつも追いかけてくる姿に愛着湧いて、それでいったんだ。
”じゃあ、私らの、犬になる?”って。
ちなみに言うと、暴れてた時は、正体隠して暴れるってのは楽しんでたから、自分の事”僕”じゃなくて”私”って呼んでたんだよね。
でも言う事聞く、僕らのために動く犬になる? って意味で聞いてんに、”喜んで”っていってもう、かなり振られてる尻尾があるような感覚になったからね。
「銀さん、女じゃ…」
ちなみに暴れてた時は男とも女とも見えないような中性的な外見してたんだけどね。
フユとはいつも一緒に居たから、女だって言ってたんだ。
「これ、男装ー! 僕飛鳥と一緒に居たいんだもん」
「…フユ、俺らの名前わかるだろ。銀とか、黒とかじゃなくて、そっちで呼べ」
飛鳥はそう言ってフユを見た。
そうだよね。
僕と飛鳥って正体不明って事楽しんで暴れてたわけで、つかばれたら色々面倒なんだもんね。
「飛鳥さんと、海さん」
「フユ、飛鳥はともかく僕同じ年だよ。同じ年ー! だからさん付け却下だよ」
「え、でも銀さんを、呼び捨てなんて」
ちらっと、飛鳥を見るフユ。
何か飼い主の機嫌を損ねないように必死な犬って感じでフユ可愛いよね。
「海がいいっていってるから、別にいい。
ただ、海の名、呼びすぎるなよ」
「はいっ」
「素直で、可愛いよね、フユ。あ、そうそう僕にはため口にしてね?」
「ぎ…海にため口ですか?」
「うん。というか、フユって外見不良で敬語使わなそうなのに、僕に使ってたらおかしいから」
本当、飛鳥に敬語使うなら、周りも魔王だしって納得するだろうけど、僕に敬語って、おかしいよね。絶対。
「…わかりまし…わかった」
うん、睨んだらちゃんと直すあたり、フユだなぁと思う。
「うん、いい子だね。フユ」
頭をなでてやれば、フユは嬉しそうに頬を緩めた。
「フユ」
「はい、何ですか、飛鳥さんっ」
「崎岡、冬って、あの転入生の取り巻きの一人って聞いてたんだが」
「あ、俺、空也と同室なんです! それにあいつが自分の事『金姫』っていってたんで。
前に飛鳥さんと…海が『金姫』と仲良しだって、『金姫』の事俺に話してくれてたんで、仲良くしたいとおもって」
一匹狼が、転入生に懐いた。って、そう噂で回ってたんだよね。
フユが偽物に惚れたみたいな噂を。
でも見る限り、フユはただ僕らが『金姫』について話してたから仲良くしたいって思ってただけみたい。
要するに、飼い主の仲良しな人と仲良くしたかっただけらしい。
「そっかぁ。じゃあ、もうフユはそいつと仲良くしなくていいよ」
「え、でも…」
「あのね、転入生、『金姫』じゃないから。
『金姫』は、あんなんじゃないよ。ま、要するに転入生は
『金姫』の偽物って事」
「そうなん…そうなのか?」
敬語からまた慌てて言い直す、フユ。
そんなフユに僕は笑っていう。
「そう、偽物だよ」
「それなら、空也なんてどうでもいい」
フユも結構ひどいよね。
僕と飛鳥の関係者じゃないとわかった途端、どうでもいいって。
まぁ、それでこそ、僕らの犬なんだけれども。
「飛鳥さんと海って、風紀なんですよね」
「そうだよ。飛鳥が居るから入ったんだ」
「…俺も入りたい!」
「でもフユ。お前聖一が勧誘した時断ったんだろ?」
「それは、飛鳥さんが風紀委員なんて知らなくて!飛鳥さんが風紀委員だって知ってたら断りませんでした」
一度、フユは風紀に誘われていたらしい。
飛鳥=黒だってわかってなかったから断ったみたい。
まぁ、委員長が飛鳥だって知ってたら、フユが断るはずがないからね。
昔からフユは僕と飛鳥のために動く事を心がけてたから。
「なら、入れ。フユ。で、俺と海のための手足となれ」
「もちろんです!」
飛鳥がフユが喜ぶって知ってて、言葉を放てば、フユは嬉しそうに笑った。
「ね、フユ。そういえばさっき何で囲まれてたの?」
「あー…、何か、空也が飛鳥さん達がいってた『金姫』とあまりにも違うくて、正直…何かうざくて」
そう言ってフユはポツリポツリ話しだす。
「でも、飛鳥さん達の大事な『金姫』にうざいなんて言うわけにもいかないなって、ストレス発散で殴ったら囲まれたというか…」
それにしても、フユが偽物の同室か。
何かなれなれしそうだもんな、あの、偽物。
「フユ、偽物は普段どんな感じなの?」
「どんなって…何か、煩い。
あと自己中。俺が一人でどっか行こうとすると、俺も行くってついてこようとして、俺が一緒に居てほしいって言ってるのに、何でどっか行くんだと言いだす」
「うわ、うざいね、それ」
本当、偽物はお兄ちゃんと似てない。お兄ちゃんは他人の嫌がる事したくないって人だったのに。
人の迷惑を考えていないだなんて、全然似てないよ。
「……あー、偽物むかつく」
「海がむかつくなら潰そうか?」
「フユ、さらっとそんな物騒な事言っちゃだめでしょ。
そして、偽物の事は泳がせといていいの。しばらくは。
僕、少し、確認したい事があるから」
そう言って、笑えば、フユは大人しく頷いた。
「空也って『金姫』のふりしてるけどどれくらいにてるんだ?」
ふと、フユがそんな事を聞いてきた。
生徒会が本物って思い込んでるからそっくりなんだとでもフユは思ってるのかもしれない。
「全然、似てないよ」
「え、じゃあ何で会長たち気づいてないんだ?」
「二年もあってないからじゃない?
それか馬鹿だからか。だってあんなに似てないもんね、飛鳥」
「ああ、似てない」
飛鳥もはっきりとそんな言葉を発する。
本当にどこまでも似てないからね、あの偽物は。
「あのね、フユ」
僕はそういって普段は茶髪の髪で隠れている両耳を見せる。
「僕の耳に、金と銀と黒のピアスついてるでしょ?
これは『金姫』と僕と飛鳥の仲間だっていう証なんだ」
そういって、僕はピアスの事を説明する。
「だから僕の耳にも『金姫』の耳にも飛鳥の耳にもついてるんだ。
それに加えて『RED』が『金姫』の仲間だって証の赤いピアスが『金姫』にはついてる」
僕にとって『金姫』は大切な人。
たった一人の、兄妹。
「海が、銀で……飛鳥さんが、黒?」
「そうだよ」
「俺も、それほしいです!」
ピアスの意味を言えば、フユはそういってキラキラした目をこちらに向けてくる。
可愛いななんて思っていたら、
「駄目…?」
って悲しそうな顔をするフユ。
見た目は怖そうな不良なのに何か可愛い。
「飛鳥」
僕は飛鳥の名を呼ぶ。
そうすれば飛鳥は僕に向かって笑っていった。
「いいんじゃね?
フユは俺と海が認めた唯一の犬なわけだし」
「そうだね!
じゃあ僕と飛鳥もフユの証のピアスつけようか。
フユ、何色のピアスがいい?」
「いや、海と飛鳥さんが、選んでください!
そっちのほうが嬉しいです」
期待したような目でこっちを見て笑うフユは本当に可愛い。
フユは僕と飛鳥が認めた唯一の犬。
僕と飛鳥に、フユは付き従うと誓ってくれた。
しばらく、僕の受験勉強とかで、夜の街に出ていなかったけれども、フユはその誓いを忘れもせずに、今もなお、僕らの命令を聞こうとしてくれてる。
「んー、赤じゃ、『RED』の奴と被るし。うん、白はどう?
フユの名前は季節の冬って書くでしょ?冬って、僕的には雪ってイメージ。だからさ、真っ白な雪のイメージで、白」
そう言って、僕が笑えば、飛鳥もそれいいんじゃね?といい、フユも嬉しそうに笑った。
「じゃあ、白いピアス予約して、つけようね」
そうして、フユの耳に僕と飛鳥の犬だという証の銀と黒のピアスが、
僕と飛鳥の耳にフユが僕らの犬だという証の白のピアスがつけられる事となるのである。