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全然似てない偽物とか、滑稽以外表せないよね。

 「海、大丈夫か?」

 「うん、だいじょーぶ。僕飛鳥が看病してくれたからばっちり回復したよ!」

 こんにちは、新井海です。

 親衛隊の子と仲良くなってしばらくして、風邪引いて、三日ほどへばってたんだよね、僕。

 ちなみに飛鳥は僕の事三日間離れずに看病してくれた。

 で、久しぶりに学校いってるわけなんだけど。

 …何故か学校が騒がしい。

 飛鳥に聞いたら、二日ほど前にいきなり転入生やってきて、色々面倒事起こしてるんだとか。

 聖一先輩が僕が風邪引いてるからって飛鳥に仕事回さなかったらしいけど、風紀も結構色々迷惑かかってるらしい。

 とりあえず、風紀委員室に向かう事にした。

 …てゆーか、謝らなきゃ。

 僕が風邪引いたせいで、飛鳥が仕事出来なかったわけで…。風紀委員の人達に迷惑かけちゃったかも…。

 さて、風紀委員室にたどり着いた僕と飛鳥。

 ちなみに手つないでるけど。

 で、中に入ったら、

 「あ、新井ちゃん、元気になったの?」

 「よかったー」

 「風邪大丈夫ですか?」

 …皆心配してくれていた。

 優しいね、皆。

 そんな皆に僕は笑いかける。

 「大丈夫ですよ。

 それより、迷惑かけてすみません。僕が風邪引いてたから、飛鳥に仕事回してなかったんですよね…」

 「いや、全然気にしなくていいよ。新井ちゃんが風邪引いてるのに一人にしておくのは心配だしね」

 そう言って笑うのは、三年の風紀である、熊野浅クマノアサ先輩。

 「そうだよ。気にしなくていいよ。海君」

 同じ年の風紀の、米沢欧ヨネザワオウがそう言ってくれる。

 皆優しいなぁ、僕飛鳥の仲間がこんなに優しくて安心して、嬉しくてたまらない。

 「で、聖一。転入生の状況は?」

 「あー、生徒会全員が追い回してる。ついでに、一匹狼とさわやかな奴と、チャラ男。

 後者三名は全員お前と海のクラスだ」

 ……え、ゆっきーのいってた王道って奴? と思ってしまう、僕である。

 「同じクラスなのが、めんどくせぇ」

 「同じクラスなのかぁ…。聖一先輩、そいつの特徴教えてもらっていいですか?」

 聖一先輩から聞いた、転入生の特徴をまとめると、

 名前は田中空也タナカクウヤ

 外見、ボサボサ頭に眼鏡(聖一先輩いわく明らかに変装)

 誰にでもなれなれしい。

 あった人は全員友達。自己中。破損物多し。

 転入早々、副会長のエセ笑いを見破り――とはいってもわかりやすいし皆愛想笑いってわかってると思うが―――、

 双子のどっちがどっちかを見破り―――初対面で見破れるとか、凄いよね―――、

会計が面白いからと気にいり――何でもチャラ男、セフレ切ったらしいよ?―――、

会長は自分に口答えして面白いと気にいった―――つか、あいつらお兄ちゃんが好きなんじゃないの?――――、という残念なことになってるらしい。何が残念かって、もちろん生徒会。

 最後に、聖一先輩が付け加えた言葉に僕と飛鳥は…絶句した。

 飛鳥が絶句するの珍しいんだけど、流石に驚いたらしい。

 「――何でも生徒会がずっと探してた『金姫』が転入生だとか噂が回ってる」

 ちょ、お兄ちゃぁあん! 偽物が居るよ。お兄ちゃんの偽物が居るよ!! と、心の中で僕が叫んだのは仕方ないと思う。

 「……聖一、その転入生偽物だ」

 飛鳥はそれだけ言う。

 この場でそれを言ったっていう風紀委員の人達は全員信用できるっていう事だろう。

 「偽物?」

 不思議そうに問いかけて、こちらを見る聖一先輩に僕はいった。

 「はい、実はですね。僕と飛鳥、本物の『金姫』と仲良しなんですよ」

 っていうか、僕にとって兄で、飛鳥にとって親友である未来の義兄だしね。

 あ、ちなみに僕と飛鳥は、両親公認の恋人だよ。

 飛鳥の両親には”うちの飛鳥があれだけ執着してるなんて、海ちゃん可愛いし、ぜひ嫁ぎなさい”とか”飛鳥は海ちゃん以外受け付けないから捨てないでやってくれ”と言われたし。

 「…マジで!? 正体不明なのに?」

 正体不明ねぇ?

 僕も飛鳥も、お兄ちゃんも暴れる時その当時読んでた携帯小説に感化されて面白がって隠してたからねぇ。

 「はい、『金姫』は僕のお兄ちゃん何です。

 というわけで、その転入生はお兄ちゃんの偽物ですね」

 さらっと、言えば全員に驚いたような顔をされた。

 「は? 兄!?」

 「そうです。僕の一つ上のお兄ちゃんです。

 ですから、そいつは確実にお兄ちゃんとは別人です

 お兄ちゃんの名前は新井空っていうんです。田中空也って誰でしょうか、としか言いようがありません」

 「そ、そうなのか…」

 「はい、そうです。

 ただ、お兄ちゃんは『RED』のメンバーに自分を見つけてほしいと思ってるので、まぁ、もし生徒会が転入生を本物と思いこんでるならうちのお兄ちゃんに選ばれる資格はありません」

 好きなら、本物か偽物かぐらい、気付かなきゃね? そんな気持ちにしかならない。僕のお兄ちゃんの偽物に振り回されているなんて選ばれる資格なんてない。

 「選ばれる、資格?」

 「空は生徒会全員にこくられて、”見つけたら選んでやる”といったから」

 「…まぁ、お兄ちゃんは『RED』のメンバーに会いたいらしいんですけど。

 なんていうか、あの人ツンデレっぽいので、寂しそうにしてるの見かけて会いに行けば? っていったら『お、俺は別に会いたいわけじゃねぇ!』と否定されました」

 お兄ちゃんも、素直になればいいのに。

 お兄ちゃんは中学時代に彼女居て、だけど、その彼女は飛鳥に近づきたくてお兄ちゃんと付き合ってた。

 お兄ちゃんは、それを知ってから恋愛って面倒なんだって言ってた。

 だから多分、見つけてといったのは、”俺が好きって気持ちが、本当何だって俺に示して”っていうお兄ちゃんの我儘。

 本当、馬鹿だよね。

 恋愛って面倒で、本当じゃないかもって思うと、怖くて、だから逃げて。

 だけど会いたいって思ってて、でも自分から会いに行くのは恥ずかしくて。

 そうして、会いに行けずにいる、お兄ちゃん。

 「へぇ…」

 「まぁ、そういうわけで、僕は一応偽物に気付いたら生徒会には、お兄ちゃんの事いってもいいかなとは思いますよ。

 あとお兄ちゃんに偽物の事、一応報告します。

 というわけで、まぁ、聖一先輩。

 転入生はしばらく泳がせててくれますか?

 お兄ちゃんが、『RED』に再会する、そういうお膳立てになりそうなので」

 っていったら、聖一先輩は面白そうに頷いて、飛鳥は海が望むならってそういってくれた。









 *田中空也side


 俺の名前は空也!

 黒隅学園に最近転入したんだ。

 俺は今変装してる。というのも、親友とかに、変装しなきゃ、空也は危ないとか言われたからなんだけど。

 …俺は、此処に好きな人に会いに来たんだ。

 俺の好きな人っていうのは、東宮学っていうんだ。

 この学園で生徒会長やってるんだって。

 昔、夜の街で俺は学の事見た事あって、それで惚れた。

 だけど、学は、というか『RED』の幹部は『金姫』っていう奴がずっと好きなんだって。

 だから、俺を見てくれない。

 俺を愛してくれない。

 俺は愛されるべき人間なのに。

 転入してきた日、志紀に、俺は『金姫』と勘違いされた。

 その時、俺は思いついたんだ。

 俺が、『金姫』になればいいって!!

 だって本物の『金姫』は学達が会いたがってるのに、会おうとしないんだし!

 それに、俺が『金姫』になれば、皆、皆俺を愛してくれるはずだから。

 だから、『久しぶり』って笑った。

 「空也、菓子食うか?」

 そう言って、学が笑ってくれる。

 「学っ、空也から離れてください」

 そう言って、志紀が俺を引っ張る。

 「「そうちょーってば、空也を独り占めしちゃめーっ」」

 そう言って、幹と秋が抱きしめてくれる。

 「可愛いねぇ、空也ちゃんは」

 そう言って、春哉が笑ってくれる。

 ああ、俺は愛されてる。

 皆が俺を取り合う、なんて心地よいんだろう。

 『金姫「』に俺はなるんだ。

 会いに来ない奴より、愛されるべき俺が愛されるのが、正しいんだ。

 だから、俺が、『金姫』っていう位置をもらおう。

 だって、俺は学が好き。それに『RED』の皆が優しくしてくれるのが心地よい。

 夜の”俺”に優しくしてくれなかった皆が、『金姫』の”俺”には優しくしくれる。

 こんな心地よい場所を、『金姫』は手放したんだ。

 いらないって事だろう?

 だから、俺がもらう。

 会った事はないけれど、『金猫』より俺の方がこの位置に相応しいに決まってる。

 それに、俺は学に近づきたくて、『金姫』の事は調べてたから、『金姫』の性格が俺自身に似てる事も知ってる。

 だから、此処はもう、俺の場所。

 「学ーっ、俺今日、クラスいくな!

 何か、ずっと休んでた奴らが来るって隼人がいってたんだ。だから仲良くしたいんだ」

 誰とでも仲良くしたい、そして誰にでも俺は愛されたいから。

 だから、増やすんだ。

 俺を愛してくれる人達を。

 教室に向かう。

 ちなみに学が手をつないで、俺を守ってくれている。

 だって、この学園には親衛隊が居るから。俺の方が強いけど、守られるって心地よい。

 それにしても、親衛隊って最低。親衛隊のせいで友達出来ないって、志紀がいってた。

 1-Sにたどり着く。

 そこが、俺の教室。

 ガラッと扉を開けて中に入れば、

 「会長にひっつかないで!」

 「また、あのオタクは…」

 そうやって陰口をする奴が居る。

 最低だ。そうおもいながらキョロキョロ見渡していれば、見慣れない奴が二人いた。

 仲良さそうに喋っている二人。

 片方はかっこいいし、片方は可愛い。

 仲良くなりたいって思って近づいた。

 「なぁなぁ、お前名前なんていうの?」






 *新井海side


 「なぁなぁ、名前なんていうの?」

 …偽物に話しかけられた。

 何か外見キモイ。言っちゃなんだけど明らかに変装。

 バカっぽい。お兄ちゃんは馬鹿じゃない。変装するにしても仕様があると僕はおもう。

 こんなひどい感想を偽物に抱くのは、僕がお兄ちゃんの事大好きだからだ。大好きなお兄ちゃんを語る偽物に良い印象は抱かない。

 「君、転入生の、田中だっけ?」

 「そうだ! あ、俺の事は空也って呼べよ。で、名前なんていうんだ?」

 「僕は新井海、で、こっちが彼氏の小浜飛鳥」

 「海に飛鳥だな!! よろしく」

 「……下の名で呼ぶな」

 …飛鳥って仲良い人以外に下の名で呼ばれたくない人なんだよね。

 僕は特に気になんないけど、飛鳥の下の名は、特別の証だから。

 「何でそんな事言うんだよ、飛鳥」

 「小浜ってよんであげて、空也。飛鳥機嫌悪くなっちゃうから」

 「何で海はよくて、俺は駄目なんだよ!」

 「…海は俺のだから」

 「飛鳥仲良い人以外に呼ばれたくないんだから、呼ばないであげて」

 「なんで――「理由いってるでしょ? 小浜って飛鳥の事呼んで」

 キャンキャン煩い、この偽物。

 ―――仲良くする気はないけれども、観察する気はある。

 だって、僕の愛すべきお兄ちゃん(ブラコンとか言わないでね?まぁ少しはブラコンな自覚あるけど)の偽物なんだもの。

 「……わかった」

 不満げに呟く、空也。

 ちなみにドアの方を見れば、生徒会長は既に帰ったようだ。

 それにしても、偽物を見て、おもう。

 自分が特別扱いされない事に、不満げな顔―――、それを見て、僕は思わず笑ってしまう。

 そして、問いかける。

 「空也は、身長何センチ?」

 「163だぞ」

 「そっか、漫画とか読む?」

 「んなもの読まない! 一人でそんな事するより皆で遊ぶ方が楽しい」

 「料理できる?」

 「できねぇよ! 何でんな質問ばっかするんだ?」

 「なーんにもないよ」

 そう言って笑いながらおもう。

 お兄ちゃんは、身長は150センチ前半と小柄だ。

 お兄ちゃんは、僕と一緒に漫画を読んで、その話で盛り上がるのが好きだ。

 お兄ちゃんは、誰かに料理をふるまってその人に笑ってもらうのが、好きだ。

 ほぉら、こんなにも偽物はお兄ちゃんと違う。

 「ねぇ、君、『金姫』って、本当?」

 …小声で、問いかける。

 偽物に向かって、問いかける。

 「ああ、そうだ!」

 自信満々にそういう、偽物が滑稽に思えた。

 「ふぅん、そっかぁ。何で姿隠してるの?」

 『金姫』は、黄金に靡く髪を持つ。

 そして、特徴的なのは灰色がかった瞳。

 ……実は僕とお兄ちゃんには、外国の血が流れてる。

 とはいっても僕には、日本人特有の黒色が遺伝されたけど、空は違う。

 その瞳は、本物は、灰色―――。

 偽物は、今カラコンいれてるんだ、とでも嘘ついたのかな?

 それとも、生徒会は、お兄ちゃんの目が、自前だと知らないのか。

 「それはな、親友達に変装しろって言われて、学達に会えるとは予想外だったけど」

 何て言いながら笑う偽物。

 『RED』が目当てなのかな、と口元が緩む。

 「ピアス、何個あけてる?」

 僕はただ、問いかける、滑稽だと思いながら。

 「両耳に一つ、だけだけど…? てか、何で俺がピアスつけてる事知って――」

 「『金姫』はピアスつけてるって、噂で聞いたから」

 …とだけ、答えておいた。

 バカだ、こいつって、おもいながらも。

 だって、お兄ちゃんはピアス沢山、あけてるんだ。

 ―――それは、大切な証だから。

 僕は銀。

 お兄ちゃんは金。

 飛鳥は黒。

 ”海が銀で、俺が金で、飛鳥が黒。色のイメージ的にそうだし、その色のピアス、互いに持ちあおうぜ”って、笑ったんだ。

 そうだよ。ピアスは、僕と飛鳥とお兄ちゃんの絆の証。

 僕と飛鳥の耳にも銀、金、黒のピアスが光ってるんだ。

 それにお兄ちゃんは、

 ”何で、ピアス増えてんの?”って僕が聞いた時、”ん、これか?これは『RED』が俺の仲間だっていう証。とはいっても学達にはいってないけどな”

 ”どうせはずかしがってるんでしょ? お兄ちゃんってそういう事自分からいわなそう”

 ”…そりゃあ、仲間だと思ってるって、真正面から言うの、結構はずくね?”

 ってそんな風に笑ってたんだ。……だから、だから、少なくともお兄ちゃんの耳には四つのピアスが光ってるはずなんだ。

 僕の証である”銀”と飛鳥の証である”黒”とお兄ちゃんの証である”金”と『RED』の証である”赤”。

 偽物を演じるのに、そんな事も知らないんだ、この偽物は……。

 「なぁなぁ、小浜、やっぱ、俺飛鳥って呼んじゃ駄目?」

 「…駄目」

 「…嫌がってるのに、蒸し返すのやめない?」

 「だって、友達になりたいのに、上の名前じゃ、他人みたいだし…」

 「俺はダチになりたくない。海さえいればいい」

 飛鳥はきっぱりという。

 うん、それでこそ、飛鳥だ。飛鳥も怒ってる。

 なんだかんだいっても飛鳥にとってお兄ちゃんは親友だから。

 「な、何でそんなひどい事言うんだ」

 ああ、やっぱりお兄ちゃんとは全然違う。

 お兄ちゃんは、人に愛される事を嬉しいと思う。

 誰かに構ってほしいと願い、みんなと仲良くしたいと思う。

 だからこそ、お兄ちゃんは他人の嫌がる事はしない。

 「や、やめなよ! 小浜様が嫌がってるじゃん」

 思考していたら、霙がそういいながら偽物を咎めた。

 霙いい子だなあ、と思う僕である。

 「何だよ、お前! まさかお前親衛隊って奴か! そうか! はこいつらがいるから友達作れないんだろ

 志紀達がそういってたぞ」

 アホがいる。

 というか副会長…親衛隊がいるから友達作れないって何?

 飛鳥には聖一先輩やお兄ちゃんっていう親友いるし。

 「空也さ、霙の事苛めないでくれる?」

 「何いってんだ! こいつは親衛隊で!」

 「親衛隊でも僕のお友達なの。

 副会長が何て言ったか知らないけど親衛隊いても友達いる人はいるからね?

副会長が愛想笑いなんてして人と距離おいてるからいないんでしょ?」

 かばうようにそう言えば、偽物ににらまれた

 「嘘つくな! 親衛隊かばうなんて何やってるんだ」

 「え、だからお友達なの

 それに飛鳥の親衛隊って穏健派だし。何もしてない子に強くあたるのやめない?」

 「な――じゃあ志紀が嘘付いたっていうのかよ」

 「そんなの知らないよ

 僕、副会長と仲良くないし。

 ただ一ついいたいのは人によって物事の考え方とか違うわけ。一つ教えられたからって先入観で全部正しいってやめない?」

 もうね、霙がおびえてるじゃん。

 つか飛鳥のために頑張って咎めた霙可愛いよね。

 「海! 何で海は俺が悪いみたいにいうんだよ。そもそも海、難しい事言われてもよくわかんねえよ

 でも海が俺が悪いみたいに言った事はわかるぞ。

 なあ海、何でんな意地悪いうんだよ! 海と俺―――いっ」

 あ、 飛鳥の投げた教科書が偽物にぶち当たった。

 「海の名前連呼してんじゃねえ」

 ……この状況でそれを言うとか流石飛鳥だよね。

 「な、何すんだよ!」

 「俺の海の名を気安く連呼するな」

 「な、人の事をモノ扱いしちゃいけないんだぞ」

 「え、空也。何いってるの? 僕は飛鳥のモノだよー?」

 うん、僕は飛鳥のモノ。

 それ以外の何でもない。

 「って、小浜先輩も海も何でこんな場面でいちゃついてるんですか!?」

 そして、快人は、相変わらずつっこみ属性だ。

 てゆーか、本当この偽物お兄ちゃんと全然似てない。

 そんなんでお兄ちゃんを語るなんて、本当むかつく。

 僕は、笑いながらスマホを取り出す。

 そして、電話をかける、相手はお兄ちゃん。

 「もしもーし、お兄ちゃん?」

 『あ、何だよ、海。珍しいな。お前から電話って』

 「嬉しい?」

 『べ、別に嬉しくねぇよ!! まぁ、海から連絡あんまないから……。ちょ、ちょっと嬉しいけど』

 「お兄ちゃん…相変わらずツンデレ属性だね、それはいいとして、ちょっとこちらのお話に耳を傾けてもらえる?」

 『ん?』

 と、お兄ちゃんはいっているが、僕は飛鳥に目で合図する。

 飛鳥は、それに頷く。

 流石、僕の飛鳥。

 僕のやりたい事がわかったらしい。

 「なぁ、お前、『金姫』なんだよな?」

 「ああ、そうだ!!」

 『……』

 電話越しにお兄ちゃんが、何だか息をのんでるのがわかる。

 とはいっても、偽物にお兄ちゃんの声が聞こえないように、音小さくしてるけど。

 つか馬鹿だよね、偽物。

 『金姫』かもしれないってのは、ただの噂だったのに。

 先ほど僕は、小声で聞いて、転入生も小声で答えて、だからクラスメイトは知らなかったのに。

 わざわざ、自分からそんな風に変装しておきながら、通り名を誇示するあたり、アホだと思う。

 「で、何しに来たわけ?」

 「『RED』に会いに来たんだ! 俺に会いたがってるって聞いて。

 学も志紀も幹も秋も、春哉もすげぇ、喜んでくれてるんだ」

 転入生、は知らないんだろうな。

 ―――お兄ちゃんが、見つけられたら選んでやるといった約束を。

 そして、会長達はその約束を、覚えてるんだろうか?

 覚えてるなら、お兄ちゃんの性格を知ってるなら、偽物はお兄ちゃん何かじゃないって気付くと思うんだけど。

 「ねぇ、空也。空也は生徒会の人達の何処がいいの?」

 僕も、参戦して、問いかける。

 もちろん、電話は繋がりっぱなしのまま。

 「何処がって、俺に優しくてしてくれるんだ。それに皆いい奴だし!」

 兄ちゃんに昔『RED』の事言った時、お兄ちゃんは、一人一人の特徴をあげて、いいところをいってくれた。

 …それは、お兄ちゃんが、『RED』メンバーはよく見ている証。

 「ふぅん。生徒会の、人達の好き嫌いとか趣味とかわかる?」

 「皆俺の事が好きだぞ! あとは知っていけばいいだけだろ?」

 現時点では、知らない。

 それは、本物の、『金姫』ならあり得ないのに。

 お兄ちゃんっていう存在は、友人の事を凄く大切にして、よく見てるから。

 友人を喜ばせる事が、お兄ちゃんは好き。

 確かにお兄ちゃんは俺は愛されてるとか本気で言う人だけど、何だろう、もっといい方とか、喋ってる事とかが、偽物とお兄ちゃんじゃ違う。

 「へえ

 生徒会は空也が好きなの? 空也に優しくしてくれるの?」

 笑いながら問いかける。

 「当たり前だろ! 皆俺に優しくしてくれるんだ。俺が『金姫』なのもあるだろうけど」

 まるで自分が『金姫』じゃなくても愛されるとでもいう言い方にあきれる。

 本当になんていう馬鹿。

 『金姫』は、僕のお兄ちゃんは偽物なんかより断然愛されてるって断言できる。

 「ふぅん。そっか、生徒会の人たちとどんなお話したの?」

 「今まで何してたとかだ! そういえば約束がどうのこうの学が言ってたけど! んなの忘れたし」

 全部、忘れたですまそうっていうんだね。

 お兄ちゃんと『RED』の過去を。

 お兄ちゃんにとって見つけたら選ぶってのは大事な約束なのに。それを、忘れたですますんだ。

 「…その約束聞いてきたのは誰? 忘れたで皆どんな反応してた?」

 それに対し、偽物は馬鹿だから、話す、笑顔で。

 「なんだ! 海。俺と皆が仲良い様子を聞きたいのか」

 そんなアホな事を言いながら。

 「聞いてきたのはな、学だな!

 皆忘れたっていったら笑ってくれたんだ! あれから二年もたってるからって

 まあ学は何かちょっと変だった気もするけど照れたんだろうな」

 会長、だけか。

 ふふっと笑みが零れる。

 まあ転入生に聞いただけじゃわからないから、生徒会に接触して確かめるべきかな?

 「そっか。

 僕ちょっと今から用事あるから……。飛鳥、行こう」

 さてと、お兄ちゃんと話さなきゃね。

 お兄ちゃんがどう思うか聞かなきゃ。

 アホな偽物に優しくしている生徒会にお兄ちゃんはどう思うだろうか。

 何か喚いてる偽物をおいて僕は飛鳥とともに風紀委員室に向かった。

 さぼり、だけどまあ僕と飛鳥は成績優秀者として授業免除の特権一応あるし。

 風紀委員室には誰もいない。

 それを確認してスマホに耳をあてる。

 「お兄ちゃん、感想は?」

 『……俺の偽物?』

 「うん。そう馬鹿な偽物がお兄ちゃんの居場所を奪うつもりみたい」

 『皆、気づい、てないの…? 俺の事、あんだけ構ってた皆、が?』

 ショックを受けたようなお兄ちゃんの声が聞こえる。

 悲しいって、寂ししいってそうその声がいってる気がする。




 




 *新井空side




 何でだろう。

 ねえ、俺が、二年も見つからなかったから?

 だから、一年も一緒に居たのに。

 俺を間違えるの?

 『お兄ちゃん、馬鹿だね』

 海の、声が響く。

 『生徒会が、お兄ちゃんの大事な仲間が偽物にかまうのはあれがお兄ちゃんだって勘違いしてるから』

 そんな事を海がいうから思わずピアスに手が触れてしまった。

 右耳につけた、赤いピアス。―――学に買ってもらったピアス。

 誕生日何がいいか聞いてきたから、赤いピアスを頼んだ。

 事前に飛鳥と海と俺の色のピアスを俺はつけていて、『RED』の証がほしくて買ってもらった。

 学達に、ピアスの意味を告げた事はない。

 だって、何だか恥ずかしくて。

 ”仲間だっておもってる”なんて自分から言うのって、はずかしいもんだろ?

 右耳に光るのは、金と赤。

 左耳に光るのは、銀と黒。

 俺の色、『RED』の色、海の色、飛鳥の色。

 仲良い人間を、信頼できる人間を、大好きな人間を見つけると、俺はそういう証が欲しくなる。

 何て言うか、形として絆が残ってるなら、そういう絆が消えないようなそんな気分になるから。

 「……約束、について、覚えてないねぇ?」

 偽物をおもう。

 覚えてないで、済まそうとしている、その偽物をおもう。

 ―――見つけたら選んでやる。

 それは俺にとっても大切な約束。

 俺と全然違うのに、俺を名乗ってる人間が居る。

 そして、俺の大切な人達を騙している、人間が居る――。

 さて、どうしたものか。と俺はおもう。

 俺の偽物が居る、っていう点はまぁ、いいとして。

 問題なのは、俺の偽物を本物って、『RED』の奴らが、信じている事だ。

 『ねぇ、お兄ちゃん。見つけたら選んでやるって、言ったって事は、生徒会の中に気になってる人居るんでしょ?』

 「…う、海には関係ないだろ」

 そんな事直球で聞いてくるのやめてほしい。

 はずかしいし、どうして海も飛鳥も人前でいちゃつくなんて羞恥プレイできるんだか…。

 『だったら、僕と飛鳥が、生徒会と偽物を見ててあげる。生徒会のメンバーが、お兄ちゃんじゃないって気付いたら、僕のお兄ちゃんが『金姫』だって、言ってもいい?』

 そう言って、海は笑う。

 …電話越しでもわかる。海は偽物に、怒ってる。

 『ね、いいでしょ? もう二年もたったんだ。二年間も『RED』はお兄ちゃんを探していたんだよ。どういう気持ちでかはわからないけど。

 お兄ちゃんの事、大切におもってるんだよ、きっと。だから、そろそろ素直に会いにいっても、いいと思うんだ』

 見つけて、っていったのは、俺のただの我儘。

 だって、昔の彼女の時みたいになったら嫌だし。

 まぁ、きっと完璧にたった一年一緒に居ただけの皆の気持ちが、本物って信じられなかった、っていう俺が悪いんだけど。

 俺は別に鈍感じゃないし、皆が俺を好いていてくれるのはわかってた。

 そもそも、俺が、誰か一人を選んで、『RED』内で仲間割れとかしたらどうしようとかそういう事も考えてしまって。

 そうなったら、嫌だなって。だって俺は皆の、事好きで、だから仲良くしてほしくて。

 大人数で笑い合うのが、俺は好きで、皆でバカみたいに騒いで、そうやって過ごす日常が大好きで…。

 そんな事を考えて、結局二年間も俺は、逃げてた。

 「…そう、だな。そろそろ、会いにいっても、いいかもしれない」

 会いたいって気持ちは、確かに俺の中にあるから。








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