体育祭にて 8
*河野幹side
…ああ、僕は何をしていたんだろう。
『白銀』と『黒帝』。
そう呼ばれる存在を追いながら、僕は思う。
空也は優しかった。『金姫』だと思った。
だから、何が何でも守ろうと思った。
『金姫』は愛される人間だった。だから、『金姫』を愛さない人間が悪いんだっておもった。
それは、片割れである、秋も思っていた事だ。
空也は『金姫』なんかじゃなかった。
僕は、いや、僕らは―――『金姫』が大好きだったのに、『金姫』を間違えた。
………大好きな『金姫』を傷つけてしまった。
僕らは『金姫』を間違えたんだ。
……だから、『金姫』が選ばないのも、きっと当たり前の事なんだろう。
『白銀』と『黒帝』が寄りそうように座る。そしてその隣には、普段とはかけ離れたような笑顔でキラキラしたように彼らを見る崎岡冬が居る。
……そういえば、崎岡冬は途中から空也から逃げていた。それは、何故なんだろう?
「さて、副会長さんも、双子君も、しばらーく、『金姫』に近づくの、僕許さないからね?」
いきなりガラリと変わった口調に僕らも、志紀さんも驚く。
――それに、いつ僕らが近づかないと言ったのだろうか?
「…私たちが、『金姫』に近づかない、って言った?」
「うん、言ったよ。
あ、てか気付いてないかなー? 僕、あれだよあれ、新井海だよ。『白銀』って昔呼ばれてました―って事です」
「「へ?」」
……こ、小浜の恋人の新井海!?
「ちなみに、『黒帝』は僕の大好きな飛鳥です!!」
ああ、学さんが喧嘩でも勝てなかったのに何だか納得した。
『黒帝』ってこの辺最強って言われてるからな。
「ちなみにー、体育祭が始まる時に僕と飛鳥と一緒にいた、空って、僕のお兄ちゃんなんだよねー。
それでね、空が『金姫』なんですよねー。あはは、目の前にいても気付かない何て、僕呆れちゃったんですよ?」
「「え?」」
確かに…そんな存在を紹介された気もした。
………ああ、僕らは、僕らと志紀さんは、何ていった?
空と呼ばれた、『金姫』に何ていった?
…敵意丸出しで、そして、近づかないって言ったじゃないか。
ああ、僕は何を言ってたんだろう。
優しい、『金姫』が、傷つかないはずないのにっ!!
「今更後悔しても遅いからねー? お兄ちゃんは許す気満々だからしばらく会わないだけで許してあげる。
でも、本当しばらく近づいちゃだめだから。僕はね、お兄ちゃんを傷つけたあんたたちの事好きじゃないんだ」
にっこりと笑う、海ちゃん。
……海ちゃんは怒ってるらしかった。
当たり前だと思う。僕も秋がもし傷つけられたら相手に怒る。
それと一緒なんだろうと思う。
「………すみません、でした」
「副会長さん、謝るのは、お兄ちゃんにしてね?
本当、お兄ちゃんをあんな偽物と間違えるなんてさ…。信じられないよねー、会計さん」
そういって、海ちゃんは春哉さんを見る。
学さんや春哉さんは、『金姫』に気付いてた。
……何て俺と秋は情けないんだろう。
好きだ好きだっていってるくせに、気付かないなんて――っ!!
「…うん」
「会計さん、可愛い人だよね。お兄ちゃんに一途で」
「海」
海ちゃんの一言に反応したのは、小浜だった。
「飛鳥ってば、嫉妬しなくていいよー。僕は飛鳥だけしか好きじゃないからね! 会計さんの事は、フユと一緒でペット感覚の可愛さだから!!」
ええー、こんな時までいちゃつくの?
というより、崎岡冬ってペットなの?
色々と疑問を持ちながらも僕らは彼らを見つめるのだった。
*新井空side
――顔が、真っ赤に染まってるのがわかる。
ああ、俺はずかしすぎる!!
学の事とられたくないって思って、思わずいっちゃったけど、はずかしすぎる!!
俺マジ、何やってんの。
何てはずかしい事をしちゃったんだろう。
逃げるように走り出しながらもそれを思う。
……飛鳥と海の事いえねぇじゃん!!
普段、俺二人に人前ではずかしい事すんなっていってんのに。
人前で、あんなところで告白するとか、俺のがはずかしい…。
「空!」
後ろから、学の声が聞こえる。
…俺を追いかけてきているらしい。
正直恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なくて、だから、思いっきり走る。
そうして、不慣れな場所を全速力で駆けていれば、行き止まりに到達した。
「あ…」
「空、いい加減、とまれ!」
息を切らしながらそういう、学が後ろにいるのを感じた。
俺は学の方を振り返る。
「空――」
俺を真っすぐに見たまま、近づいてきた学は俺の頬に触れる。
「俺様も、好きだ。
二年も放っておいたとか関係ねぇ、俺様はずっと、空だけが好きだ」
そんな事を言われて、カァアアと顔が赤くなるのがわかる。
「赤くなって可愛いな、空は」
「か、可愛いとか言うな!」
好きな奴に可愛いと言われるのは一応嬉しいが、男としてかっこいいって言われたいんだ、俺は!!
「可愛いもんは可愛い」
「…は、はずかしいからそんな事言うな」
真剣な顔で可愛いなんて言われて、何だか恥ずかしくなる。
うー、はずかしい。マジ、はずかしい。
そんな、じっと見つめるな。
俺、絶対顔赤い。
大体、あんまり恋愛経験ないんだ、俺は。
「本当、可愛い」
そんな事を学は言ったかと思えば、顔が近づいてくる。
―――そうして、俺の唇と学の唇が、重なった。
「な、なななななな―――っ!!」
唇を離して、にやりと笑う学を見ながら、俺はそんな声を上げる。
前の彼女飛鳥目当てだったから、キスさえしてないんだよ、俺は。これが、ファーストキスだし。はずかしすぎる。
「顔、真っ赤だぞ」
「……っ」
至近距離で微笑まれて、ますます顔が赤くなるのがわかる。
くそ、何でこいつこんなにかっこいいんだ。
あー、俺もかっこよくなりたい。学を見ながら、俺はそんな事を思うのだった。




