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体育祭にて 4

 *東宮学side



 ~~♪

 突然電話がなった。

 …それは、未登録の人間からの着信。

 不審に思いながらも、俺は春哉に一言いって電話に出る。

 『あ、会長さん? 僕新井海ですけど』

 「……新井か。何で俺の電話番号しってやがる」

 『通りすがりの情報屋に聞きました。あ、本題ですけど、副会長さん達、本物…とはいっても金髪でも何でもない黒髪の『金姫』ですけど、それ前にしても空也を本物だって態度で、『金姫』を傷つけました』

 志紀達が、本物を、傷つけた?

 『『金姫』が泣いてるんです。あなたたちのお仲間のせいで。

 …で、泣いてる『金姫』に会ってくれませんか?

 『金姫』が会いたがってるんで、もう会わせるんで、会計さんも連れて裏庭にきてください。ベンチの所に居ますから』

 『金姫』が、泣いた?

 それを思うだけで頭が真っ白になる。

 「わかった、行く」

 ああ、『金姫』。

 俺様の何よりも大事な奴。

 志紀達は、それを泣かせたのだ。

 目の前にいるのに気づく事もなしに。

 電話を切って、春哉のほうを見据えて、俺様は言う。

 「『金姫』に会いに裏庭にいくぞ、春哉

 あのバカどもが『金姫』を傷つけやがった」

 ああ、二年ぶりにあえるのだ。

 ―――俺様が求めた金姫に。

 裏庭へと到着する。

 その場には、小浜と、新井と、そして、俺様の親衛隊隊長と、――おそらく『金姫』であろう小柄な少年。

 ……何で親衛隊隊長が居るかってのはもうどうでもいい、それより、俺様は――、

 「『金姫』!!」

 ―――『金姫』の事が知りたい。

 「学…、春哉」

 俺様の名を呼ぶ、その声に、どうしようもなく、何かがこみ上げてくる気がする。

 目が赤い。

 ああ、志紀達が泣かせやがったから。

 そんな事を思いながらも、俺様は『金姫』に近づく。それは、春哉も同様だ。

 「久しぶり、学、春哉」

 そういって、『金姫』は俺様達の方へと笑いかける。

 そうして、その後、すぐに、『金姫』は悲しそうに言うのだ。

 「志紀達、俺の事、全然気付いてくれなかったんだ…。

 それに、俺の偽物が、居るとか、全然思ってなかった」

 ――ああ、俺様の『金姫』が、悲しんでる。

 「『金姫』、悲しまないで! 俺『金姫』に悲しんでほしくない」

 春哉がそう言えば、『金姫』は言った。

 「……俺、自分の偽物が居るなら、どうにか、したいって思ってるんだ。

 志紀達が、俺の事に気付かなくても、俺にとって皆大事な友人だから。 

 …協力、してもらっていいか? 学も、春哉も。

 ――そうして、全て終わったら、約束の、返事返すから」

 ”約束”。

 それは、あの事だろうと、すぐわかる。

 俺様達が告白した時に、『金姫』はいった。

 ”見つけたら返事を返す”とそんな約束。

 ああ、やっぱり、『金姫』は覚えてた。

 あの、偽物は俺様にとって大事なその約束を”忘れた”なんてほざいていたのに。

 「ほらほら、お兄ちゃん、そういう話の前に、自己紹介しなよ?

 会長さん達、お兄ちゃんの事すっごく探してたんだからさー」

 ……突然、新井はそういって、『金姫』に向かって笑った。

 「ああ、そうだな…」

 「ふふ、お兄ちゃんってば嬉しそうな顔してるね」

 「そりゃあ、嬉しいし…」

 ……今、新井は何ていった?

 ”お兄ちゃん”? は、お兄ちゃん? って、まさか……

 「海ちゃんと『金姫』って兄弟なのか!?」

 …俺の心を代弁してくれたように、春哉が驚いたように叫んだ。

 『金姫』は寧ろそれに驚いた表情をして言う。

 「…海、いってなかったのか?」

 「そりゃあ、僕のお兄ちゃんって一人しかいないんだもん。

 兄なんていったらすぐに会長さん達にお兄ちゃんの事ばれちゃうなーって思って隠してたんだ。ねー飛鳥」

 小浜に同意を求めるように腕をからませる新井。

 それに対して、小浜は笑って頷く。

 「ちょ、ブラコンなの、新井って。寧ろ兄×弟がいいよね!! まぁ、お兄さんが噂の『金姫』なら此処はやっぱ、生徒会フラグがたちまくってるんだろうけど

 つか、新井と小浜の溺愛半端なく萌える!!」

 ……こいつ、確か俺様の親衛隊隊長だよな?

 名前は、近衛明久だったか、何をわけのわからない事を言い出してるんだ。

 「新井……、こいつはどうして此処に居る?」

 「あー、なんか情報屋やってるらしくて、会長の番号調べてもらいました」

 「…というか、確か君、学の親衛隊隊長だよね? なんか見る限り変人なんだけど」

 「変人って、ひどいですねー、会計は!」

 「あーっと、会長さんと会計さん。この人って、多分腐男子っていう、腐女子の男バージョンさんだよ」

 なんだ、こいつは、という風に俺様と春哉が親衛隊隊長を見ていたら、新井がそんな言葉を放った。

 「そのとーり、というわけで、俺は萌えを見たいだけであって、親衛隊隊長でも、断じて会長には興味はないんで!!

 寧ろ、俺に萌えを提供していただければそれで、オッケーみたいな!!」

 ……とりあえず、こいつは無害なようだ。

 俺様はそれをおもって、『金姫』の方を見た。

 『金姫』は俺様と春哉を真っすぐに見つめている。

 「とりあえず、ちゃんと自己紹介するな。

 俺の名前、新井空アライソラっていうんだ。

 年齢は学と一緒で、海より一つ上」

 『金姫』―――空はそういって、俺たちに向かって笑いかけた。

 偽物なんかとは全然違う、何処までも温かい、笑み。

 「空…か、いい名前だな」

 「嬉しい、俺! 『金姫』の名前知れるとか、かなり嬉しい!!」

 新井空。

 やっと、やっと、『金姫』の名前を知れた。

 ずっと、聞いても教えてくれなかった、『金姫』の名前を。

 俺様は、それが知れただけで、どうしようもなく、嬉しくてたまらなかった。

 「会長さんと会計さんはお兄ちゃんの事大好きなんだねー。

 あ、ところで、お兄ちゃん、結局副会長さん達の事どうする?

 なんとかするなら僕手伝うし、飛鳥も手伝おうね」

 「ああ…」

 ―――志紀達の事を、どうするか、か。

 『金姫』―――空の方を俺はじっと見据えた。

 ―――そうして、空が口を開くのだった。





 *田中空也side



 「空也、どうしたんですか?」

 「…学は、何で俺の所にきてくれないんだ」

 不機嫌そうに俺が言葉を放てば、志紀の顔が歪む。

 それを見ると、俺って愛されてるなぁって嬉しい気分になる。

 俺が愛されるべきなのに。皆何で俺を一番にしないんだろう。

 俺が、皆に愛される、『金姫』だっていってるのに!!

 親衛隊の奴らもどうして俺を嫌うんだ。俺が『金姫』なんだから、俺が奴らのそばに居るのは、当たり前だろう?

 海も、小浜も、あの空って奴の事を優先するし。

 何で何だ。友達なのに!!

 「それにしても、新井は何をいっていたのでしょうね」

 「「そうだよねー。僕らにあの空って奴に近づかないで、とか当たり前だよね」」

 「『金姫』さえ、いればそれでいいですからねぇ」

 皆にそういってもらえて、俺はどうしようもなく嬉しくなった。

 やっぱり、俺は愛されるべき存在なんだ!

 俺は愛されて当然なんだ。

 そうやって、三人と一緒に歩いていたら、

 「あ、冬!!!」

 冬がいた。

 だから、俺は冬に話しかける。

 冬はこちらを見て、そうしてそのまま去っていこうとする。

 「待てよ、冬! 親友を無視したらいけないんだぞ」

 「誰が親友だ、邪魔だ、てめぇ」

 「な、何でそんな事言うんだよ!! 俺たち親友だろう!」

 「誰が親友だ。俺とおまえは同室者なだけだろうが、毬藻が」

 「何だよ、毬藻って!!」

 冬は最初、俺が『金姫』だって知った時、俺に優しくしてくれたのに。

 それなのに、どうして冬は今俺に冷たいんだ。

 何で、何で!?

 「照れてるのか?」

 「…その思考回路をどうにかしやがれ、クソが」

 俺の知らない間に風紀に入ってたりしているし、本当にどうしてなんだ。

 親友何だから、俺に秘密を作っちゃいけないのに! 冬は最近勝手にどっかに行くんだ。

 どうして…?

 「崎岡! あなた空也に何を言っているんですか」

 「「僕らの『金姫』に何いってるの? ウザイって感じなんだけどー」」

 そういって庇ってくれる皆。

 本当に、皆優しいし、俺の味方だし、大好きだ!!

 やっぱり俺が正しいんだ。

 そうおもって冬を見るけど、冬は不機嫌そうに眉をひそめて言い放つ。

 「それを追いかけてる時点で、本当あんたたちって馬鹿だ」

 俺に”それ”何て言う冬。

 どうして、俺にそんな風に冷たいの。何で、何で!!

 「なっ、あなた空也にそれとは何ですか」

 「それはそれだ。俺はそれとつるむ気は一切ねぇんだよ」

 睨みつけるように冬は俺の方を見てくる。

 「何でそんな意地悪言うんだよ!」

 「意地悪じゃねぇ、餓鬼が」

 「親友にそんな事言っちゃいけねぇんだぞ」

 「黙れ餓鬼。誰が親友だ」

 冬が、俺を睨む。

 どうして何だ、親友を睨むなんていけないのに。

 何で謝ってくれないんだ。

 「何で、そんな事言うんだよぉお!!」

 気付けば、俺は冬に殴りかかっていた。

 冬が悪いんだ、俺にそんな事言う冬が!!

 だから俺は殴りかかったんだ。

 なのに―――、冬は俺の拳をいとも簡単に止めた。

 「は、気にいらなきゃ暴力ってか? 何だその餓鬼思考は」

 「なっ、人に餓鬼とか言っちゃいけないんだぞ!」

 「うせぇえ、餓鬼が」

 どうして、どうして、どうして、そんな事を思いながらも俺はまた殴りかかる。

 だけど――、

 ボコッ

 という音と共に殴られたのは俺の方で、気付けば俺は殴り飛ばされていた。

 痛い痛い痛い痛いイタイイタイ!!!

 「弱すぎだろ。マジ、クソよえぇよ、お前」

 冬が、冷たい瞳でこちらを見る。

 その瞳が、何処までも冷たくて俺は思わずぞっとしてしまった。

 「弱すぎて、反吐が出る」

 「あなた、何をするんですか!! 空也に」

 「は、黙れ無能共が。こんなクソ弱い人間追いかけて何が楽しいんだか…」

 痛い痛いイタイ!!

 痛くて痛くて倒れたまま起き上がる気にもならない。

 だけど、俺は駆けよってくる秋達に縋りながらも、泣きながらも、冬に向かって叫ぶ。

 「なっ、弱いとかで人を判断しちゃいけないんだぞ!!

 そんなんだから冬は友達が出来ないんだ。そういう所直さないと駄目だぞ」

 「……いらねぇよ、てめぇみたいなダチは」

 「なっ、謝れよ。殴った事。それでそうやって強さで人を判断するとかやめろよ!!」

 「強さでじゃねぇ、お前が嫌いだから嫌いだといってんの」

 「なっ――」

 そういって、俺が何かを言いかけた時、

 「はいはいー、フユストップね。ちょっとこっちおいで」

 そんな声が響いた。

 振り向けば、そこには銀色の髪をなびかせた存在がいた。

 フードを深くかぶっているけれども、長い銀色の髪は俺の目に映っている。

 中性的な顔立ちをした、そいつを見るなり、フユは驚いたような顔をする。

 「う――いや、銀さん…」

 銀さん…? 冬の知り合いなのだろうか。

 「うんうん、こっちおいで、フユ」

 そんな言葉に冬は何処か嬉しそうに、そいつにかけよる。

 どうして、俺と一緒だとしない顔をそいつにするんだ!?

 俺は愛されるべきなのに!!

 「あなた…突然やってきて、誰ですか?」

 「私? 私は、『白銀』。はじめまして。『RED』の皆さん。

 本日はたーいせつなお仲間のために参上したんだよねー」

 『白銀』…!?

 『金姫』と仲が良かったっていう?

 いや、志紀達だって俺を『金姫』だって思ってるんだ。こいつだって俺が言えば信じるはずだ!!

 「『白銀』、久しぶり!」

 「ん? 誰、君」

 「俺だよ、『金姫』だよ」

 「えー、何その冗談」

 だけど、『白銀』は俺に冷たい目を向けたまま、笑ってそういった。

 「久しぶりだからわかんないのか?」

 「え、私『金姫』とは普通に仲良しだし、連絡だって知ってるし、最近会ったもん

 君こそ何言ってんの?」

 何処までも笑みを浮かべたまま、『白銀』はそういって、こっちを見る。

 「…何をいってるんですか。空也は『金姫』ですよ!!」

 「「あんたこそ『白銀』じゃないんじゃないのー?」」

 「ふふ、バカだね。本当あんたたちは、こいつが『金姫』だっていう、根拠は何処にあるの?」

 笑ってそういう、『白銀』の瞳は何処までも冷たくて、その冷たさに、思わずぞくっと背筋が冷たくなる。

 「空也は私の笑顔を見破ったんですよ!!」

 「「僕たちも見わけてくれるもんねー」」

 「そうだ、俺は『金姫』なんだ!! 俺が『金姫』じゃないとかいってきたこと許してやるから謝れよ」

 志紀達に便乗するように、俺はそういって、『白銀』を見た。

 これで、謝ってくれるはず、そうおもった。

 でも『白銀』は、

 「へぇ? それだけの理由であなたたちは『金姫』に惚れたの?ただ、見破ってくれた、見わけてくれたってだけで」

 何処までも冷たかった。


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