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音のある世界  作者:
6/6

合わせる、合わせない、合わさって……





「柾史、部活行かねぇの?」

「うーん。 ちょっと今日はな。 部長に休むとは伝えてんだ」

「そうなん? なら、久々に三人で帰れんのか?」


「あー…… いや、悪い。 予定があるから、ごめんな」



そう言うと、 鮫川と根本は少し不満そうに帰って行った。 「女か? 女の子なのか? そう言う裏切りとか嫌だからな⁉︎」 と鮫川が妬むようにこぼして行った。 そんなんじゃねぇっての。







放課後の教室。 あんまり残ったことはないのでなんだか新鮮な気分だ。まだ何人か教室で談笑してる。 なるほど、部活してない人って、こんな感じなのか。 珍しいものを見た気分だ、なんかよく分かんないけど面白いな。このまましばらく眺めてようかな。 多分、まだ時間はかかるだろうし。 チラッと、隣の席にかけたままの鞄に目を向けた。





§





時計を見れば、5時半。 流石に教室にも誰もいなくなってしまった。 まだか、どんだけ待たせるんだよ……



ガラッ。 扉の開く音に少しドキッとした。 ……ようやく来たか。




「ん? 偽善者、なにしてんの?」

「……お茶、返してもらってねぇからさ。 待ってた」

「うわ、全然嬉しくない行動だな。 てかあんた、意外と現金なやつだな」

「うるせぇ。 そもそもお前が言ったんだろ」




そう言うと「確かにな」 と言って、こちらへと歩いて来た。 そして、鞄の中から財布を取り出し、小銭を俺の机に置いた。




「ん。 ありがとな」

「おう。 ……高橋、もう帰る感じか?」

「うるせぇ担任からぐちぐち言われて疲れたからな。 たかが頭突きの一発二発でうるせぇやつだよ」

「いや、頭突きはやり過ぎだったろ。普通しないね、普通は」


「そうか? まぁいいや、それで何の用なの?」



そう言われて、ちょっと緊張してしまう。 まぁ、当然こいつなら勘付くと思ってたけどさ。



「あのさ。まぁその…… ちょっと、話さね?」

「何故」

「いやまぁその…… 仲良くなりたいなとか思ってさ」

「そうか。 悪い、そういうのは間に合ってるから」




そう言って、高橋は鞄を片手に扉の方へと歩いて行く。 簡単にいくとは思ってなかったけど、ここまであっさり断られるとは。 ……あー、もう! こうなったらーー




「っ! そういうの、辛くねぇの!」



俺は引き止める気持ちで、大声でそう言った。 高橋はこちらに振り返り、いつもと変わらない様子で答える。



「そういうのって? てかあんたさ、やっぱそっちが本性? いつも落ち着いてるように見せてるけどさ、やっぱ作ってたか。 なんか言葉もくだけた感じになってるし」


「い、いいだろ。 ああいう方が合わせるの楽なんだよ。 ……じゃなくて! その…… お前はさ、そうやって自分勝手に行動してさ、辛いってか…… 寂しかったりしねぇの?」



とてもじゃないが俺には出来ない。 本音理解できるのは本人だけ。 それでも本音を貫き通すには、他人の意見との衝突は避けられない。喧嘩して、傷つけて傷ついて。 そんなわがままな生き方、疲れないのか? 痛くないのか? 寂しくないのか? 怖く…… ないの?




しばらく黙っていた高橋は、大きな欠伸をした後。 ゆっくりと話し始めた。



「合わせろって誰かが決めたのか? 合わせないのは罪って法でもあるのか? 人と争ってはなりません、なんて誰も言ってないだろ。 俺から言わせたらあんたの方が辛そうに見えるけど。 腹ん中に溜まったもん吐き出せなくてモヤモヤして。 それさ、いつ消化出来んのよ。 俺は俺として生きてたいからな。 反省はたまにするけど、後悔はしたことない」



「そっか…… ははっ! ちょ、ごめん」



なんか、よく分かんないけど笑えてきた。 でもなんか目頭も熱くなってきた。 あれ、なんか涙出てきた。 あれっ、なんだこれ? ま、いいや。 とりあえず…… 笑いたいから笑おう。 泣きたいなら、泣いてみよう。 そうして俺は、笑いながら泣いたんだ。






§





「あんた。 情緒不安定なの?」

「……かもしれない。 ごめん、変なもの見せちゃって。 反省してる」



あの後、高橋は「お茶買ってくるまでに終わらせて」 そう言って、教室を出て行った。 そして俺は、高橋が戻ってきてもしばらく笑い泣きしていた。 で、今に至る。




「高橋くん…… このことは誰にもーー」

「言わないから安心しろ。 そもそも言いたくない」



そう言って、高橋は心底嫌だという顔をした。



「てか。 また丁寧語風になってるけど」

「ああ。 まぁもう5年以上こんな感じだからね。 癖みたいな」

「ふーん」




「……それで! た、高橋くん。 そのさ、俺ら…… 友達、ならないですかね?」

「ならないな。 うん、ならない。 無しの方向で検討してくれ」




そう言って立ち上がり、今度こそ扉に手をかけた。



「は、話しかけるくらいなら! いいかな?」



確信があった。 高橋と仲良くなることで、俺は今の俺自身を、変えられるって。







「……敬語なし。固いの嫌いだから。 それなら良いんじゃない」







それだけ言って扉は閉まった。










これが、俺と直人の『始まり』






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