そうしたいから
……なにやってんだよ、あいつ。
教室は少しの沈黙の後、ざわざわしている。誰も、なにも言わない。 言えない、ってのが正しいのか。 頭からお茶をかぶり、制服も濡れてしまった男子、一緒に本田をいじめてた奴らも突然のことにびっくりして、オロオロしてる。 なのに高橋はどこか満足したような表情で、ペットボトルをくるくる回してる。……やがて、お茶をかけられた男が高橋を睨みつけた。
「てめぇ、いきなりなにすんだよ! ぶっ殺すぞ!」
これでもかってくらいの大声。 教室の何人かはビクッと反応する。
「なにって…… 目覚ましがうるさいから止めただけだろ」
「まじふざけんなよ! 何様だよてめぇは!」
拳を握り、高橋の胸ぐらを掴む。 やばい、これは流石にマズイ。 こんな昼間に喧嘩とかダメだろ。 高橋、お前が謝れ。 それで住む話ではもう無いけれど、とりあえず謝っとけ!
「何様って言われてもな、俺は俺だ。 お前もお前だろ? お前はこの弱虫くんをいじめたいからいじめてた、それだけだ。 俺は目覚ましがうるさいから止めた、それだけ。 一体なにが違うんだ?」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!」
その瞬間、高橋の顔めがけて拳がとんだ。
「……いってぇ」
「は! てめぇみてぇなチビがでしゃばんなよ!」
その瞬間、見えた人には見えたんだろう。 高橋の顔が、見たことないくらい怒っているのを。
「チビで」
そう言って、高橋は両手でその男子の頭をつかんだ。 そして、そのまま下にさげて……
「へ?」
「悪いか‼︎」
おもいっきり、頭突きをした。 高橋の頭突きは相当なものなのか、食らった男子はヨロヨロしながらその場に倒れた。 まじかよ……
「あー…… くだらない、くだらない、くだらない」
高橋は突然黒板の前まで行き、全員に向けて話し出した。
「ひとつ言っときます。 俺は思ったことをすぐ言います、すぐやります。 なので今やったことは俺がやりたかったからやりました。 んで、皆に聞きたいんだけどさぁ…… この場合、本田をいじめたのって…… こいつらだけなの?」
そう言って、三人組を指差す。 誰も、何も言わない。 こんな空気で、意見など言えるはずもないんだけど。
「ま、そういうこと。 俺はナマケーワイなんて呼ばれてるそうですけど、どうぞご自由に。 俺もこの通り自由にやってますから。 そんでまたまた自由に言わせてもらうと、俺はこのクラスの人全員気に入らないわ」
そう言って、教室を出て行こうとした。 おいおい、この状態作っといてほったらかしかい…… どんだけやりたい放題だよ。
「あ、本田」
「は、はい⁉︎」
「助けてくれた、とか思うなよ? 俺はお前も気に入らないからな。 そのなよなよして他力本願な所。 腹ん中で悔しいとか思ってんなら行動してみろよ、弱虫くん」
「……は、はい」
「それと…… 偽善者〜?」
こ、ここで俺に振るか⁉︎ こ、この空気では勘弁してほしかったな……
「……なに?」
返事をすると、なぜかにやりと笑ってーー
「ははっ、自覚あるのな。 お茶、後で買って来るわ。それよりどうよ、スカッ! っとしたっしょ?」
そう言って、今度こそ教室を出て行った。
スカッと、した…… 確かに。 なんか、高橋の頭突きを見て、クラスの奴らに言ったこと聞いて、溜まってたものをようやく吐き出せた。 そんな気がした。
……ん? でも、さっきの言葉からしてさ。 別にあいつは、俺のことも気に入らないんだよな? まぁ、いいか。 今はそんなこと。 久々に、なんだか息がしやすい気がするから。