ファーストコンタクト
「だからさぁ、やっぱり女は顔だと思うのよ!」
「いやぁ、スタイルでしょ。それも細身じゃなくて、ちょいポッチャリの」
「「柾史はどんなのがいいん?」」
「んー…… 二人の意見がどっちもクリアされた女かな」
『理想たかぁ!」 なんてゲラゲラ笑ってる。 何がそんな面白いんだか。 適当にお前らの好みを肯定してやっただけだ。 別に女のタイプなんて無い、そもそも求めるだけ無駄だろ。 理想に叶う女なんてそうそう現れないし。 第一そんな女と釣り合いが取れる気もしない。
「でも。2組の岡崎、あれか〜わいいよなぁ。 まじタイプなんだけど!」
「うわぁ。 鮫川お前ロリ顔タイプなん? ひくわぁ」
「うっせぇし! 根本だって4組の矢崎良いとか言ってんじゃん! あーんな寸胴女!」
「ばっか! ちょっとだらしない方が色々楽しめんだって!」
くだらないなぁ。 もう少し話すことないのか、こいつらは。 品が無い、とはこの事だろうな。 まぁ、こいつらがそれでいいならいいのだろう。 別に俺には関係のないお話だ。
ガタン!
突然隣の席で大きな音が鳴り、自然とそちらを見てしまった。 小さな身体がぴくり、と動きだし、ゆっくりと頭が上がっていく。
「……朝ですか?」
眠そうな、気だるそうな声と顔。 頭をボリボリかきながらこちらを向いている。
「高橋〜、もう昼休み終わるぜ? どんだけ寝不足なんよ?」
「てか、寝癖やべぇぞ? どんな密林状態だよ」
「んぁぁぁーぁぁ! ……顔洗ってくる、ついでに髪も」
そう言って、高橋は教室を出ていく。 扉にゴン、とぶつかり『……痛え』と一言言い、扉に軽く蹴りをいれていった。 どんな八つ当たりだよ、お前が100%悪いだろ。
「……サメ、ネモ。 あいつ、いつもあんななの?」
「おお。 てか柾史、隣の席なのにしらねぇの? Mr.ナマケーワイを」
「……なんだそのあだ名。 何、あいついじめられてんの?」
俺がそう聞くと根本がメガネを指でくいっ、と上げて話し始めた。
「あいつはね、いじめというより嫌われてんの。 主に女子全般に。 ことの始まりはうちのクラスの伊藤ちゃん、あの子に向かって『鼻毛、出てるよ。それと眉毛、失敗した?』というど真ん中ストレートが伊藤ちゃんを二週間不登校に追いやったこと。 それを女子は宣戦布告と受け取り、男子はどこかで凄いやつ、と認識したのだ。そして、あのいつもやる気なさそうな雰囲気と、ズバッと空気を切り裂く一言からナマケーワイ、と命名されたんだ」
「ふーん……」
伊藤さんがしばらく学校休んだのって、そんな理由があったのか。 ナマケーワイ、ねぇ。 ナマケモノ……みたいってことか。 まぁ確かに、何にもしなそうだよな。 実際隣だけど、まともに会話したことなんかないしな。
§
「はい、授業始めるぞぉ」
ポタッ、ポタッ、ポタッ。
隣で水滴が落ちる音がする。 なんでだよ…… 普通そうはならないだろ。 なんで頭と顔がびしょ濡れのまま授業受けてんだよ。 先生も気づけよ。そんなに怠けたいのかよ。 このままじゃ気になって仕方ない。 ……しょうがないな。
俺は鞄から部活用のタオルを取り出す。 それを黙って隣の机に置いてやった。
「……なにこれ」
「使ってよ。 あ、まだ未使用のやつだから安心して。 汚くはないよ」
こんなもんか。 こう言っとけば、ありがとうの一言でも返ってくるだろ。 それを適当に当たり障りなく答えればいい。 こんなやつと交流なんて持ちたくもないが、まぁいつか役立つかもしれないしな。 一応隣の席だし、何度か関わらなきゃいけない時もあるかもしれないし。
「……お前さ」
「ん? なに?」
「……すげー。 気持ち悪いな」
そう言って、俺のタオルで顔と髪の毛を拭きだす。 その光景を、俺は思考が停止したかのようにぼーっ見ていた。
な、なんだこいつ……