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関わりシリーズ

関わるな

作者: 三月

横井夫人の名前は『まさこ』と読みます。




 妻の顔が見れない。

 根性を叩き直すため、イギリスに飛ばした息子が勝手に帰ってきた。しかも、接触禁止を言い渡した沙那ちゃんのところに。

 その上、自分勝手にも沙那ちゃんと自分は結ばれる運命だと主張している。

 その報告を聞いたとき、私はこう思った。勘弁してくれ。

 息子の行動はことごとく、かつての自分の黒歴史を思い出させるものだった。


 高校生だった当時、白井 深雪に夢中だった自分は、周囲の人間が何故彼女のことを悪く言うのかわからなかった。それどころか、目を覚ませという彼らに対し、今の自分こそが本来の自分の姿なのだと、彼女が気付かせてくれたのだと得意気に語っていた。



 あああああああああああああああっ!



 もしも過去に戻れるなら当時の自分をぶん殴りたい!

 何偉そうに語ってるんだと、罵倒してやりたい!

 この色ボケ小僧がああああああああ!


 あの後は大変だった。

 卒業しても、彼女は私達の中から1人を選ぶことはなかったが、それでも私達は信じていた。いつかは彼女の恋人になれるのだと。私達の中の誰が選ばれたとしても、恨みっこなしだと笑いあっていたのだ。

 しかし、そんな幻想は直ぐに砕け散った。彼女の被害者だと主張する人間が大挙して来たのだ。あまりの人数に、流石に放置しておく事はできず、彼女の身辺調査を行った。その時は、何も出て来る筈が無いと思っていたのに…。

 結果は散々だった。よくも今までバレなかったものだと、感心するほどの悪事の証拠が次々と出てきたのだ。

 この調査結果は、当然我々の両親にも報告された。事実を知った親たちの怒りは凄かった。私達は彼女の言い分を鵜呑みにして、多くの生徒を学院から追放していたし、当時の婚約者たちを晒し者にして、一方的な婚約破棄を言い渡していたのだから。

 彼女達の家もこの調査結果を知り、怒り狂っていた。理不尽に娘を傷付けられたのだから、当然だろう。そして私達は、許してもらえるまで帰ってくるなと、家を追い出された。

 それでも、愚かな私達はまだ事態を甘く見ていた。彼女達は、自分達を好きなはず。少し謝ってみせれば、直ぐに許してくれるだろうと。

 そんなわけがなかった。

 5人同時にという条件で、彼女達は会うことを了承してくれた。すまなかったと頭を下げる私達に対し、彼女達はにこやかな笑顔でこう言った。



 「あら、今何か聞こえまして?」


 「気のせいではありませんの?」


 「私には何も聞こえませんわ」


 「私もです」


 「きっと虫の声でしょう」



 その後も、私達が何を言おうと彼女達は一切反応することなく、穏やかなお茶会を続けていた。

 何度も何度も、私達が頼めば会ってはくれる。しかし、決して相手にはしてもらえない。そうこうしているうちに、私達の実家は別の後継者を選び始めた。もう、形振り構っている余裕は無かった。

 彼女達が会話の中で、反省して頭を丸めるのは潔くて良いと言えば直ぐに丸坊主にした。別の日には、土下座こそ最上級の謝罪の証だと言うのを聞いて、その日から毎日土下座をし続けた。まるで居ないもののように扱われながらも、必ず謝罪文は渡し続けた。読んでもらえたかはわからないが…。

 最終的には恥も外聞も捨て、涙ながらにすがりついて3年。どうにか再び婚約させてもらえた。勿論、次はないとしっかり念押しされたが。


 それから長い年月をかけて信頼関係を築き直し、息子も生まれて穏やかな日々を過ごしていたのに。

 まさか息子が自分達と同じ過ちを犯していたなんて、晴天の霹靂だった。

 最初に楠木から連絡を受けたときも、俄には信じられなかったが、現実は非情だった。次々と集まってくる証拠に、妻の微笑みが深くなる。

 それでも、沙那ちゃんのおかげで最悪の事態は回避できた。自分達の時よりかは軽い被害に安堵し、被害者達への賠償も済ませ、息子達を修行に出した。

 これでもう大丈夫だと思っていたのに、何故帰ってきたんだ馬鹿息子よ。



 「もう、去勢しかないのかしら…」



 妻が物騒なことを呟いている。



 「ま、真子。取り敢えず本人の言い分を聞いてからにしないか?」



 半ば本気で言っているであろう妻に、震えながら進言してみる。



 「それもそうですわね」



 頷いてくれた妻に安堵しながら、息子を連れてくるように指示を出す。願わくば息子よ、これ以上妻の神経を逆撫でしてくれるなよ。



 願いは叶わなかった。

 まるで反省の色が無く、沙那ちゃんへの愛を語り続ける息子の姿が、過去の自分と重なる。かつての自分達もこんなだったのかと思うと、顔から火が出そうだ。

 今になって、かつての自分達を無視し続けた妻たちの気持ちがわかってしまった。あまりにも相手が馬鹿すぎると、話す気力さえ奪われるのだと学んだ。

 取り敢えず息子よ、空気読め。笑顔の妻から尋常ではない量の冷気が吹き出ている。


 流石に去勢は不味いので、今度は簡単に出られないような厳格な寄宿学校に放り込もう。長々と喋り続ける息子と、徐々に微笑みを深くする妻を見ながら決意する。

 私の心の平穏と、妻との円満な夫婦生活の為にも、馬鹿息子よ、もう沙那ちゃんに関わるな!





一応これで終了です。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] シリーズ全部読みました。 親世代で既に似たようなことがあったっていうのは初めて読みました。 新鮮で面白かったですw [気になる点] ~です。」 みたいに、かっこの前に”。”をつけるのは確か…
[良い点] 親子ですねw 父親にこんな気持ちでみんな見てたんだよ!って身をもって黒歴史を再現してくれる親孝行な息子さんでよかったね! 父親視点だと3年間謝罪しつづけたのって後継者にもどりたいから婚約し…
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