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イノセント  作者: ゆら
第一章
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第一話

 遠い昔、天使と人間は共に共存していた。天使は人間に魔法を教えた。天使の力を借りて自然を操る魔法である。しかし、人間はその力を使って争いを起こすようになってしまった。人間が魔法を使って同じ人間を殺めてしまうのである。天使たちは嘆き悲しんだ。しかし、全ての想像主である神は人間をとても深く愛していた。天使たちは神をとても愛し慕っていた。神が嘆く姿を見たくないと思った一部の天使たちは、神から授かった掟に背こうとした。天使は人間を殺めてはならないという掟である。それを知った神は、天使に人間の命を奪うことができないようにしてしまった。そして新たに「天使たちは人間たちを見届けよ」という掟を与えた。その掟を与え、新たに天界を作り、そこに天使達を住まわせたのである。

 時は経ち、天使と人間が共に共存していた時代は遠い過去であり伝説として語り継がれていた。だが、人間の思いや感情は天界に住む天使たちに流れ込んできていたのだ。天使たちは人間のように優れた感情は持たない。だが、何百年も蓄積された思いや感情が天使たちに大きな影響を与えるようになってしまったのであった。


 左右に巨大な柱が経つ宮殿のような建物の奥に白く大きな翼を持つ者が座っていた。髪は黒くとても長い女の容姿をした者。白い衣を纏い、片膝を椅子の上に乗せながら優雅に座る女の膝の上で小さな蒼白いドラゴンが蹲って眠っていた。そのドラゴンをそっとなでながら口元に薄っすら笑みを浮かべていた。辺りはとても薄暗く閑散としていた。すると遠い空から小さな光がこちらへ向かって飛んで来た。その光は彼女の前で宙に浮いたまま静止した。彼女はその光を見つめると目を見開いた。


「神・・・!?」


 彼女は慌てて膝に乗せていたドラゴンを肩に乗せて両膝を地面についた。するとその光の球は何回も小さく光り始めた。


「久しいの・・・。お前をここに置いたことで、辛い思いをさせてしまった。」


 光の球から聞こえてくる暖かく懐かしい老人のような声。彼女は求めるようにその球を見つめた。


「いいえ。神のご命令とあらば、私は何でもいたします。」

「来るべき時が来た。再び我が子等が危険に晒されておる。じゃが、我が子等の中にも、ささやきによって我が身を捧げる者たちが現れた。」

「ささやき・・・でございますか・・・?」

「我が子等の選択が始まる。なんとしてもそれを阻止してもらいたい。」

「かしこまりました。ということは、私は天使を・・・」

「そうじゃ。お前しかできぬことじゃ。全てが終わったら、お前をわしの所に迎え入れよう。」

「わかりました。神の為・・・この身を捧げましょう。」


 彼女はそう言って両手を胸の前で十字にあてて頭を下げると、小さな光の球はゆっくりと消えていった。消えたのを見届けると、彼女は大きな翼を羽ばたかせ外へと飛び出した。肩にいる小さなドラゴンは必死に肩にしがみついていた。


「地獄へ行くわよ。」


 彼女はそのまま深い深い崖の底へと堕ちて行った。崖の入り口が小さく見えるほど底へ降り立っったその場所にはマグマが川となって流れ、岩から噴出す場所であった。彼女はそのマグマの上に浮きながら止まっていた。そして彼女の肩に乗っているドラゴンを見た。


「あいつを呼んで来て。」


 彼女がささやくように言うと、そのドラゴンは肩から羽ばたきマグマの川が流れる川上の方へと飛んで行った。それを見届けると彼女は辺りを見回した。


「さて・・・協力してくれるかしら・・・」


 彼女はそう言うと口元にそっと笑みを浮かべた。すると奥からマグマや岩を振るわせるほどのドラゴンの叫びが聞こえた。彼女はドラゴンの叫びが聞こえる方を鋭い目つきで見た。とてつもない速さでこちらへ飛んで来るドラゴンは口を大きく開けて彼女に食いつこうとした。彼女はそのドラゴンの首を掴むとそのまま壁へと叩き付けた。


「私と戦ってもお前は勝てない。」

「そうだろう。貴様がドラゴンを殺す剣を生み出した張本人だ・・・」

「ええ。でも殺しに来たわけじゃない。取引をしに来たのよ。」

「取引だと・・・?」


 彼女はそう言うと首から手を離した。ドラゴンは壁に足をかけて体を固定するとまた彼女を見た。


「神からのご命令だ。神の子等が危険に晒されている。それを阻止しよと仰せられた。」

「敵は我等の中にいるというのか・・・?」

「いいえ。・・・・敵は天使。」


 彼女の言葉を聞いたドラゴンは怒りを露にするように大きく吼えた。


「天使の戦いに我等を使おうというのか・・・!?」

「その通り。」

「天使の戦いにドラゴンは参戦しない。」

「参戦しろとは言っていない。」

「・・・・何が言いたい」

「天使が人間にささやいた。そのささやきに賛同する子等が現れた。天使も馬鹿ではない。人間の中に入り込んでいる可能性が高い。」

「どの天使だ・・」

「それはわからない。けれど、そこで選別がされると神はおっしゃった。天使が神の真似事をはじめたということだ。」


 それを聞いたドラゴンは彼女を見つめた。


「ということは・・・いずれは我々の所にも・・・」

「・・・その通り。神は全てを見通された。我の気性も、お前の気性も・・・だから我は何百年もここにいた。天使がここへ降りたら・・・お前たちもただでは済まない。」

「だが、天使たちもただでは済まない。」

「大戦争したいのかい?未然に防ぐことができるのにもかかわらず・・・」

「・・・・どうしろと言うのだ」

「天使は人間を殺せない。傷つけることも。それができるのはお前達だ。だが、天使を殺すことは、我にしかできない。堕とされたからこそできること。首謀者の天使を見つけるまで、人間の力を借りねばならない。」

「・・・我等ドラゴンは誇り高き戦士だ。戦うなら人間の力など借りずに堂々と正面から戦う。」

「わかっている。だが、その戦士を統率する者として、簡単に戦士達を戦わせて傷つけることが望ましいことなのか?」

「人間に従えと言うのか・・・?」

「気に入らないのもわかっている。取引はここからだ。無事この戦いを終えることができたら、我の左腕をやろう。」

「左腕か・・・。ドラゴンスレイヤーを生み出した腕か・・・」

「その通り。」

「だが、途中で貴様が死んだらどうなる。」

「そうならないよう、お前に守ってもらわねばな。」

「・・・相変わらず都合がいいな。貴様は・・・」

「そう言うな。小さいドラゴンに変身してもらう。私も力をしばし分散させねばならない。同じ人間のように振舞わねば。」

「ならば食い時だな・・・」


 ドラゴンが低い声で言うと、彼女は鋭い目つきでドラゴンを見た。


「これは遊びではない。貴様も統率者なら仲間を危険に晒す前に戦え!」

「・・・フン。我等は約束は違えぬ。例え死のうと約束は果たすのが我等誇り高き戦士だ。」

「私も約束は果たす。」

「・・・だが、天使と戦えば、貴様もただでは済まない・・・」

「この命を終えたら私はここから神のお側へお連れくださる。つまりは、形としての存在はなくなり、神の中へと還るのだ。」

「消滅するということか・・・・」

「神のお側にいられるなら構わぬ。」

「・・・・お前は・・・変わった天使だな。」


 ドラゴンがそう言うと、彼女は口元に笑みを浮かべた。


「よかろう。大天使セラフィナイト。お前の役目が終わるまで、我はお前に従おう。」

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