第二話 ~残されたもの…残したいもの編
ナリア王国物語 アナザーエピソード2 第二話
~残されたもの…残したいもの編
「で、その後どうなの?」
アクアリンクのギルド社屋内、テーブルの椅子に座りくつろいでいたリオ、ロイド、ヴァル。
「どうって言われても…なにもないのよ」
リオの問いに、そう答えたヴァル。
「何も無いって…だってジンジンよ? あの正義感のかたまりが仕事途中で放り投げちゃったワケ?」
「うん…ほら、血まみれのジンさんを見つけたときにカイルって王宮からきた人がいたって言ったでしょ? あとはあの人に任せておけば大丈夫って」
「ジンらしくねえな。まさか臆病風に吹かれちまって…で、あのザマか?」
そう言って窓の外へ親指を向けるロイド。
「ロイド! それは言いすぎだって。でも…正直、見てられないのよね…」
窓の外のジンとリエッセ。
「メテオインパクトーーーっっ!!」
「遅いっ!!」
体を一回転させ、遠心力とともに繰り出されたリエッセの杖を、いとも容易く木刀で弾き落としたジン。
「もっとだ。もっと速く。その技はスピードが命だからな。だが正直なところ、プロフィアのやつは、よく、そんなスキだらけの技を必殺技にできたと思うが…利にも適っている。非力で小柄な女の子が男より優れているところは、スピードしかないだろう。ちょっと立ったままの状態で真正面を向いたまま脇の下を見てごらん」
「あ、はいっ。えっと…真正面ってことは、頭を動かしちゃダメですもんね…じゃあ何にも見えないですね~」
「まあ、そうだろう。戦いの最中、真正面に敵がいるのに違う方向は見れないだろ? プロフィアは、敵の一瞬のスキをついて、そのスピードと小柄な体を利用して敵の脇の下を抜けるんだ。すると視界からプロフィアが消えたように見え、一瞬見失ってしまう。そのスキを利用して背後に回り、体を一回転する機会を作っているんだ。その桁外れのスピードによって遠心力の加えられた一撃は足りないパワーを補うに余りあるだろう。まさに一撃必殺だな」
「へえ…さすが先生だなぁ…私も頑張らなきゃっっ!!」
再びギルド内に戻って…。
「あの二人…どうにかならないの? ロイド。得意でしょ? そういうの」
「得意って、そりゃないってリオさん。大体、どうしようもないんじゃないの? 二人の問題だろ? そんなのはさ」
「そうだけどさ…ホント見てられないのよ。ジンジンってば、なんかあの一件以来、妙に本腰入れてあの子に戦い方教えてるじゃない? あれってさ、あの子にプロちゃんの姿を重ねて現実逃避してるように見えちゃうのよね。で、あの子はあの子でさ、そんなジンジンに惹かれてる…あの二人、このままだとダメになっちゃうんじゃないかって。ヴァルちゃんは、どう思う?」
「えっと…私は、そういうの疎いからなぁ。でも、リオさんの言う通りだと思うよ。ジンさん、普通に振舞ってはいるけど、今でも、あの時プロさんを守れなかったこと後悔し続けてるんだよ。だからね、リエッセがきた時、プロさんが戻ってきたみたいで嬉しそうだったんだ。私は、ジンさんが元気になるならそれでもいいと思ったけど…リエッセは辛いかな…」
「なあキース。何か分かったのか?」
王宮の書物庫内、いくつも山積みになった書物が置かれた机の椅子に腰掛け、分厚い書物に目を通していたキースに、そう話しかけたカイル。
「ええ…ただ、暗黒魔術に関する本はすべて無くなってしまったので、ほとんどが憶測になってしまうのですが、多分、その男がやろうとしていることは、何らかの方法で、この人間界と魔界との間に穴を開け、繋げようとしているのではないかと思われます」
「そうすっと…どうなるんだ?」
「魔界のものが、この世界に自由に行き来できるようになるんですよ? 終わるでしょうね。この世界は」
「止める方法はないのか?」
「その儀式というものが終わる前に術者を見つけて止めるしかないでしょうが…カイルの話だと、間違いなくその男はザイートよりも遥かに高い力を持っていることになるでしょう。止められますか? 彼を…」
キースの言葉に口を紡ぐカイル…。
「すみません…こんなこと言いたくはなかったのですが…これも憶測になりますが、多分、もうその儀式を止めることは出来ないでしょう。それが分かっていたから、その男もそんなことを口にしたのでしょうし、事実を知ったあなたと、その一緒だった方を殺さなかったのでしょう。憶測ばかりで申し訳ないのですが…その男は聖職者を媒体にして魔界のものを召還したのでしょう。そして、その力を自らに取り込んでしまった。異常な力は、そのためでしょう。そして、彼は、その力を利用して…魔界へと向かったのでしょう。今現在、魔界からコチラへ繋がるゲートを開ける何らかな儀式を行っている…我々にそれを止めることは不可能です。儀式の失敗を祈るしかありませんが…それも絶望的でしょうね」
「クソっ…もうどうしようもないってのかよ…」
「いえ、まだです。最後のチャンスは、ゲートの開いた瞬間。我々は、整えられる限りの兵力を用意し、魔界からの来訪者をすべて倒します。開いたばかりのゲートからいきなり最悪の厄災が訪れることはないでしょう。人間が魔界のものに太刀打ちなどできませんから…そこが唯一の勝機です。ゲート内に侵入し、術者を倒し、ゲートを閉じる」
「あいつを倒さなきゃなのか…そりゃ絶望的だな」
「まさかカイルから、そんな弱気な言葉を聞くとは思いませんでした…いつもの強気はどうしたのです?」
「わかってるさ…次は必ず倒す。この世界が無くなっちまったらさ、リリスのやったことが無駄になっちまうからな…」
「ええ。我々は負けられないのです。リリス様のためにも」
「あ…起こしちゃいましたか?」
真夜中、綺麗な星空の夜、屋根に上り、膝を抱えて星空を見上げていたリエッセ。そんなリエッセに気づき、窓から顔を出して見せたジン。
「いや。俺もなんだか眠れなくてな。そこ、いいかい?」
「あっ、はいっ!」
リエッセの横に腰を落とすジン。
「あのっ! えっと…綺麗な星空ですねっ!!」
「ん、ああ。そうだな。くくくっ」
「えっ? 私、何かおかしなこと言いましたか?」
「いや。やっぱり似てるなと思ってな」
「先生…プロフィアさんにですよね」
「ああ。なんだかその、いつまでも、かしこまった感じとか、そっくりだな。俺は、別に、もっと普通にしてくれても構わないんだが…俺って、そんなに偉そうか?」
「いえっ! そんなことは…でも、尊敬してますからっ! だからっっ!!」
「やっぱり似てるな…俺なんて奴は、キミが思ってるような奴じゃないさ。今も昔も、何も変わらない、たった一人の女の子すら守れなかった、ただのヘタレさ…」
「プロフィアさんのこと…ですよね? 何となくは聞かされているんです。でも、詳しくは知らなくって…聞かせてくれませんか? プロフィアさんのこと…嫌ならいいんですっ! でも…」
「いや、キミには知る権利があるさ。なんたってプロフィアの弟子なんだもんな」
時に楽しそうに、時に辛そうに語られるプロフィアの過去に耳を傾けるリエッセ。
「やっぱり敵わないなぁ…先生には…。私の家でね、こうやってね、屋根の上でね、先生と話したんです。先生ね、杖なら誰も傷つけなくて済むから不利だって分かってて僧侶を選んだんだって。守ることのできる全ての人を守りたいから戦っているんだって。私、すごいなって、素敵だなって思った。そして、それを貫き通して…自分の命を犠牲にしてまで…やっぱりすごいです。敵いっこないです…私なんかじゃ、やっぱり…」
「そんなことないさ。キミは。プロフィアとは違う」
「分かってるんです。私は、プロフィアさんとは違う…代わりになんてなれっこないんだって。でもっ! 私はっっ!!」
なんだか辛そうに…悲しそうに瞳を潤ませ、そう言ったリエッセは、突然ジンに口づけをする。
「なっ!? なにを…」
「私、ジンさんが好きですっ!! 分かってるんです。ジンさんにとっての私は、きっとプロフィアさんの代わりなんだって。それでも構わないっ! だからっっ!!」
「キミ…違う…違うんだ。いや…違わない…か。確かにキミにプロフィアの姿を重ねていたことはあった。だが、今は違うんだ。俺は…多分生きては戻れないだろう。だから残したかったんだ。プロフィアが残したものを、残されたものとして。一生懸命で、直向で、そんなキミだから…残したいと思ったんだ」
「だから…時々、思いつめたような顔してたんですね。話してくれないんですよね。だけど…だからっ! 私にも残して下さいっ!! ジンさんのこと、私にも残して下さい」
「キミ…」
「キミじゃ嫌です…名前で呼んで下さい。私を見て下さい。私を、私として…これが最後でも構わないです。プロフィアさんの代わりだって構わないです。だから…」
「リ…リエッセ…」
「ジンさん…」
悲しげに見つめあった二人は、そっと口づけを交わすと、ギュッと抱きしめ合う…。
つづく