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魔物・魔法

 それは異形の存在であった。

 村中に広がる悲鳴。燃え盛る炎で村を染め上げる赤。あらゆる物が焼け焦げる異臭。

 それは恐怖の象徴であった。

 誰かが自分を担いで走っている。小さな納屋が崩れて出来た瓦礫。その隙間に自分を隠して言った。決してここから動くな、と。

 それは絶望をもたらした。

 誰かは自分を置いて走っていく。視界に映る何かの注意を自らに向けさせながら離れていく。自分からそれを離れさせる為に。

 それは――。

 誰かが叫ぶ。そしてそれは誰かに向かって腕を振り下ろす。

 ――振り下ろされる誰かの顔が見えた時、これは夢だと理解した。



 「おい、起きろ。朝だぞ」


 声と共に肩を揺すられてアニスは目を覚ます。日が昇りすっかり明るくなった空に、目の前には既に火消しされた焚き火の跡。どうやら夢を見ていたようだ。


 「今日中、遅くても夕方までにはエミルの村に着かなきゃいけないんだ。さっさと支度をしろ」


 アニスを起こした男、モーディがぶっきらぼうに告げる。あまりの態度に一言言おうと思ったが、モーディはもうこちらを見ていない。

 結局アニスは何も言わずに身支度を整える。元々荷物は馬車の荷台に置いてある。たいした時間はかからなかった。


 「よし。皆、準備出来たな。出発するぞ」


 部隊長であるカルカの号令で部隊は出発する。現在、この舞台はアニスを含めて四人で行動している。

 目的は王都ユグドラシルより北東の位置にあるエミルの村を拠点に、更に北に位置する未開の森の調査。そしてそこに潜むと言われている魔物の討伐である。

 王都ユグドラシルから出発して三日が経つ。何事も無ければ本日の昼過ぎにはエミルの村に到着するだろう。

 しかし、こんな時に何事も起こらないわけが無いのが世の常だ。


 「……総員、周囲の警戒を怠るな」


 カフカから警告が飛ぶ。理由はアニスを含め隊員全員が理解している。

 アニスは周囲を見渡す。アニス達の部隊は舗装された街道を荷馬車を引きながら歩いている。だが、街道から離れた場所は正に荒野と呼べる惨状だった。木々はなぎ倒され、大地は抉られ、砕けた岩石すら確認できた。

 ――魔物が近くにいる。

 全員がそう考えた時、東側を警戒していたシグが遠くに土煙が上がっているのを確認する。


 「隊長!」


 シグが叫ぶのとそれの姿が目視出来たのはほぼ同時だった。

 アニスがそれを見た第一印象は巨大な猪だった。だがその大きさは荷馬車を引く馬すらも超えている。体毛は体内から溢れ出る黒い物体に覆われ、牙は歪な形に伸びている。走るだけで地響きが感じられ、砂埃を上げて突撃してくる様は魔物と呼ぶに相応しい恐怖を与えてくる。


 「目視確認出来ました! 低級ボア種、アローボア一匹のみです!」


 「よし。シグは手綱を握れ。俺の合図でシグは荷馬車を前進。モーディとアニスは攻撃魔法を放て。ただし、魔物には当てず目前の地面にだ」


 カフカが全員に指示を出し、各々が簡素な装飾が施された杖を構えながら行動する。

 この杖は魔具と呼ばれている。魔具とは魔法を発動する際に必要な道具であり、魔法とはアレクシアには空気中や生物の体内にある、魔力と名付けられた比較的最近に発見された力を使用して自然現象を任意で発動、操作する技術である。

 魔法は大まかに分けて火、水、風、土の四つの属性に分かれている。そしてその分類された属性に則って自然現象を操るのである。

 モーディとアニスの持つ魔具の先に火が灯る。それは徐々に大きくなり、球状に固定させる。この火の球体をボア種と呼ばれた魔物に向けて発射して攻撃するのだ。

 シグが合図として手を上げ、モーディとアニスもカフカを見て頷く。カフカが二人の後ろで魔具を地面に当てながら準備が整った事を確認し、アローボアと名付けられている魔物との距離を測りつつ行動するタイミングを見計らう。


 「魔法発動後、モーディとアニスはアローボアの正面から散開だ。……三、二、一、今だ!」


 カフカの合図と共にシグが荷馬車を急発進させ、モーディとアニスが火球を発射する。それは放たれた矢の如く、アローボアの手前の地面に激突する。その瞬間、火球が接触した地面が爆発し、砂埃が舞い上がる。

 砂埃が煙幕になってアローボアの姿を隠す。火球を放ってモーディとアニスが左右に分かれた事を確認して、カフカも魔法を発動する。

 魔具が当てられた先の地面が高速に形状を変える。地面が抉れ、抉られた体積の分が前方に向けていくつもの巨大な針を作る。魔法の使用が終わってカフカが場所を離れるのと、アローボアが砂埃を突き抜けて姿を現すのはほぼ同時だった。

 アローボアが名前通り(アロー)の如く突撃してくる魔物だ。その巨体を活かしての突撃は人間にとって脅威の何者でもない。しかし、言い換えるとそれしか出来ない。目標を変えて進行方向を移動させる知能も無いのだ。砂埃を起こして煙幕代わりに使用したのは、魔物が知恵を持ち始めているという情報を考慮しての行動である。だが、このアローボアは以前より確認されている魔物と同様、煙幕を突き抜けて特攻する。

 その結果、カフカが魔法により作り出したいくつもの巨大な針と衝突した。アローボアから甲高い悲鳴が上がり、針はアローボアとの衝突に耐え切れず砕け散る。その先にあるのは、カフカの魔法によって抉られた地面である。それはアローボアの巨体以上の大きさであり、深さはアローボアの顔を隠す程度だ。


 「モーディ、アニス! 焼き尽くせ!」


 カフカの指示でモーディとアニスが魔具をアローボアへと向ける。再び火球を作り、発射する。炎による高熱よりも射出された時の衝撃を優先させており、火球が打ち込まれる度にアローボアが悲鳴を上げる。身を焼かれることで発生してしまう臭いを抑えるためだ。嗅覚や聴覚が強い魔物もいる為、魔物との戦闘に引かれて別の魔物と遭遇してしまう可能性がある。既にアローボアが悲鳴を上げている為、聴覚が強い魔物がいれば気づかれたかもしれないが、だからといって開き直るわけにもいかない。

 五つ、六つと火球を放ったところでモーディが荒く乱れた息を吐く。魔法は自分の中にある魔力を使用する為、技術力の他に集中力が物を言う。更に魔力の減少は当人に疲労と倦怠感を引き起こす。時には酸欠のような症状を引き起こす場合もある。モーディも同じような症状に陥り、集中力が途切れたのだろう。

 それを見計らったかのようにアローボアが落ちた穴の一部が弾け飛ぶ。アローボアが穴によって出来た正面の壁に向かって牙を突き立て跳ね上げたのだ。

モーディが倒れ、アニスが両腕で顔を庇ってたたらを踏む。二人とも破片に当たらなかったので怪我はしていないが、アローボアを押さえつけていた攻撃魔法が中断されてしまった。

 アニスが顔をかばっていた腕をどけると、アローボアと目が合った。アローボアの顔が見えるほどに落とし穴の壁が削れてしまったのだ。アニスを見つけたアローボアの目は正に獲物を見つけた狩人のようで、体中を傷つけられ、焼かれた者とは思えない。

 アローボアの目に呑まれてアニスは動くのが遅れる。その間にアローボアが頭を下げ、歪な牙を正面に向ける。そして今正に削れた壁から飛び出そうとした瞬間……誰よりも早く動いたカフカの魔法が発動する。

 落とし穴の壁の全方位から大量の針が形成され、一気に伸びる。それはアローボアの体中に余すところ無く突き刺さった。またも響くアローボアの悲鳴。身をよじって針を抜き折っても、また新たな針が飛び出す。針として使われた分だけ周りの地面が崩れていく。


 「シグ!」


 カフカがシグを呼ぶ。その間にもアローボアが暴れ続ける。それの足元からも針が飛び出し、突き刺されているにもかかわらず力尽きる様子は見られない。

シグがカフカの横に着くと、カフカと同じく魔具を地面へと向けて魔法を発動させる。

 シグが得意とする属性は水。アローボアの足元に水分が増え、崩れた土や砂利が泥になる。カフカが魔法によって足元から針を作る度に地面は更に脆くなり、アローボアの体重で崩れ、シグの水によって沈んでいく。それは底なし沼に飲み込まれていくかのようだ。

 アローボアも必死の抵抗を試みるが、体力が消耗している以外にも泥を飲み込んでしまって呼吸がままならないのか、まともに動くことが出来ていない。そのまま抵抗もむなしく、アローボアは泥に沈んだ。

序盤だからか説明が多くなって読み辛いと思います。すいません。

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