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先輩と私  作者: 柊さん
ファミレス
2/6

ファミレス(2)


          ―2―


 本当はイタリアンのお店に行く予定だったんです。国道沿いにあるお店なんですけど、先輩は知ってます? そうです、そうです。ピザ食べ放題の。結局そのお店に行かなかったのは、もの凄く込んでいて店員さんに一時間以上待つかも、と聞かされたからでした。

 ファミレスは家の近くにあるお店です。中はそこそこ混んでましたが、待たされるほどではなかったです。案内されたのは、窓際のソファ席でした。

 で、問題のカップルはその斜め前、ちょうどお店の一番奥にある角の席に座っていました。

 慎み深くて遠慮深い私はペペロンチーノを頼みました。もちろん小食ですから「小盛りでお願いします」と付け足すのも忘れません。ちょ、いたいですっ! 冗談ですってば。ええ、そうです。本当はチーズインハンバーグの和食セットです。

 ……もう、本当に先輩は冗談が通じないですね。女の子にグーはないと思います。


 注文を終えた後、ドリンクバーに飲み物を取りに行きました。ドリンクバーは私たちが座った席から一番離れたところにあって、ちょうど問題のカップルの横を通ることになります。

 男の人の方は眼鏡を掛けた、ちょっとやせ気味の神経質そうな感じの人でした。どうしてそう思ったか、ですか。えと、その男の人、お冷やの下に紙ナプキンを敷いてたし、割り箸の袋を折り紙にして箸立てを作っていたので。

 女の人の方は逆に、ウェーブのかかった髪に派手目の服を着た、いかにも我が強そうな雰囲気です。

 二人が付き合い始めたばかりで、その日が二回目のデートだというのは、漏れ聞こえてきた会話から察することが出来ました。


 二人の、というか男の人の様子がおかしいな、と思ったのはちょうど私たちの頼んだ料理が運ばれてきた後のことでした。私の座っていた位置からは二人の様子が分からなかったんですけど、女の人がお手洗いに立ったので男の人が正面に見えるようになったんです。

 私は目の前に置かれたハンバーグのプレートに取りかかろうとしました。ジュージュー音を立てて食べ頃な感じです。でもその男の人がしきりに首を傾げるんです。今にもナイフをハンバーグに突き立てようとしていたのに、どうしてもその仕草が気になります。

 一旦手を止めて、座ったまま首を伸ばしてみます。

 男の人の前には二人分の鉄板がありました。当然片方はその男の人が食べたもの。もう片方は、女の人が残したと思われます。というのも、その鉄板は男の人から離れてましたし、まだ人参とインゲンがそのままになっていたからです。

 まあそれだけなら別に不思議ではないです。

「もうたべられなーい」

「いいよいいよ、あとは僕が食べてあげるから」

 そんな腹立たしい……もとい、羨ましいやりとりがあってきっと男の人は女の人から鉄板を受け取ったと思うのです。ならばさっさと平らげればいいだけです。

 でもどうしてか、男の人は苦笑いを浮かべたまま、腕を組んで右に左に首を捻るばかり。

 どうしてそんなことをしているのでしょう。


 私はさっさとハンバーグを綺麗にして、ドリンクバーのお替わりにいくことにしました。どうせなら近くで男の人の様子を見てみよう、と思ったのです。

「おっかしいなぁ、僕が間違ってたのかな……」

 通りかかった時に男の人が呟くのが聞こえました。

 間違っていた? 一体何のことを言っているのか。ますます気になります。

 私はなみなみとメロンソーダを注いで、席へと戻りました。こうすれば、ゆっくり歩いていても問題ありません。不可抗力です。

 男の人は今度はメモ帳を取り出して、何かを懸命に書き込んでいました。小さな字がびっしりと並んでいます。私なんか細々した作業をしてると、こうなんていうか、無性に大声で叫びたくなるんですけど、その男の人はメモ帳一杯に隙間が無いくらい字を埋めていました。まるで先輩みたいな神経質っぷりです。

 ……すいません、嘘です、冗談です。だからグーもデコピンも勘弁して下さい。


 私がお姉ちゃんのサラダを取りに行っている間に、女の人がお手洗いから戻ってきました。ここでも山盛りにして時間稼ぎです。きっと周りの人には、どれだけ食べるんだよ、と思われていたでしょうが、仕方ありません。時には代償が必要となることもあるのです。

 ……大丈夫です。悲しんでなんていません。本当です。目尻に浮かんでいるのは、単なる汗です。心の汗です。気にしないで下さい。

 話を戻しますね。よっこいしょ。

 女の人が席に着いたタイミングで男の人がテーブルのベルを押しました。すぐに店員さんが二人のテーブルに注文を採りにきます。

 男の人が指を二本立てました。「コーヒーを二つ。ホットで」

 店員さんが「かしこまりました」と頭を下げて、空いたお皿も一緒に厨房へと引っ込んでいきます。

「コーヒーでよかったよね?」

「え、あ、うん。そうね」

 ちょっと得意げな男の人に反して、女の人は生返事。そこでまた男の人がわずかに首を傾げます。何か違ったかな。そんな声が聞こえてきそうな仕草です。

 ほどなくしてコーヒーが運ばれてきました。それと同時に私はパパのフルーツ盛りを取りに席に立ちました。

「あれ、砂糖は?」男の人がシュガーポットに伸ばしかけていた手を止めました。

 女の人が指先に髪を絡めながら答えます。

「コーヒーはブラックじゃないと」

 それにまた男の人が首を捻りました。

 それからそのカップルはファミレスを出て行ったんですけど、私たちと帰る方向が同じだったみたいで、帰りの車の中から男の人が一人でとぼとぼ歩いているのを見かけたました。その時も男の人はずうっと腕を組んだまま首を傾げているんです。

 ね、先輩はおかしいと思いません?

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