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刻印と半分のエルフ




「ただいまー」


兎の肉を刺した木の棒を肩に担いで、火を囲んで座るシャルに、声を掛けた。


「あ、お帰りなさい。よかった・・・」


そう呟いてシャルは、『ほぅ』と息を吐いて心底安心した顔をしている。


「遅くなっちゃったかな」

「そんなことは、ただ・・・帰ってこないんじゃないかと・・・」

「ごめん、心配かけたね。でもせっかく友達になれたんだから、必ず戻ってきますよ」

「友達・・・」

「そうだ!これ見てよ!」


担いでいた兎の肉を見せた。


「わあ!すごいです!。なんの肉ですか?」

「それが名前分からないんだよね・・・、茶色くて角のある兎なんですけど」

「ブラオンラビットですね」

「へぇー」

「なかなか美味しいと聞いたことがあります」

「なら良かった。それじゃあ晩ご飯にしましょう」

「はい!」



肉を適当な大きさに切って木の棒に刺し、火の近くで炙る。

後はシャルが拾ってきてくれた、木の実が幾つかある。


「そろそろいいかな」


表面から脂が落ち、いい感じに焼けたのでさっそく食べてみることにする。


「それじゃあ、いただきます!」

「い、いただきます!」


シャルにも肉を渡して、肉にかぶりつく。


「ん!美味いっ」


牛肉に近い味で、脂がのっていてすごく美味しい。兎なのに。

さすが異世界である。


「お、お」

「お・・?」

「美味しいです!」


恐る恐る口にしたシャルだったが、目を輝かせていた。


「口に合ってよかった」

「こんな美味しいお肉。初めて食べました!」


塩も掛けていないが、本当に美味しい。

シャル程ではないが、これなら文句はないな。




「しかし、魔法ってすごいね」


肉を齧りながら、そう口にした。


「ミナギは、属性は持っていないんですか?」

「持っていないというか、魔法自体使えるか分からないんですよね」

「?、どういう事ですか?」

「うーん、そもそも魔法はどうすれば使えるのか、どう使うのかという根本的なところから分からないんですよ」

「んー?」

「つまり魔法の知識そのものが皆無なんです」

「あ!なるほど!」


要領を得なかったが、何とか伝わったようだ。

如何せん、ヴァッへさんから授かった知識に、魔法の知識が全くと言っていいほど無かったのだ、説明のしようがない。



「どうすれば使えるんだろう」

「刻印があれば使えます」

「刻印?」

「はい。生まれたときから体に刻まれているそうです。刻印というのは――」



刻印というのは、体の一部に刻まれていて、生まれたときに確定するそうで、それ以降に出ることは無いそうだ。

刻印の出る場所は、上半身(首から上と両手両腕を除く)に浮き出るそうだ。

また刻印は、扱える属性によって違って、対応する属性の大精霊の紋章なんだそうだ。



ということは、俺は魔法は使えないのか・・・?

がーん。期待していただけにショックである。


「そっか・・・」

「ミ、ミナギ、体見てみましょう!刻印あるかもしれません」



しかし、体に刻印なんて見たことがないんだけどなぁ。

でも異世界にくるときに、ヴァッへさんがくれているかもしれないし、見るだけ見るか。

残りの肉を一気に食べきる。



「じゃあ・・・」


あまり気乗りしないまま、上着の袖から両腕を抜いて、肩にかかる上着を下ろした。

おうおう、見せてやるぜこの刻印を!・・・。



「わあ!意外と鍛えてるんですね!」

「え?あぁうん。日課ですから。でも無かったですね・・・」



自分の体を見下ろすが、それらしいものは無く、日々の鍛錬で鍛えた実用的な筋肉しか見当たらなかった。

諦めて上着を着ようとしたところで、シャルに止められた。


「待ってください。一応背中も見てみましょう」

「あぁうん、よろしく」


俯きながら後ろに振り返る。


「どうですか?」

「・・・」

「あのぉ?」

「・・・・・・」

「シャル・・・?」

「え!?あっ、すみません!」


なぜか沈黙してたシャルが慌てた様に返してきた。


「それで、どうですか?」

「そっ、その・・・すごいです」

「へぁ?」

「すごく・・・綺麗です」


え?、綺麗って俺の背中がか?。

まじまじ見たことは無いから良く分からないが、綺麗な背中らしい。


「上着、着ますね?」

「待って!」

「は、はい・・・!」

「ミナギ、ありました」

「あったって、なにが――」

「刻印ですっ!」


あったらしい。

半ば諦めていたが、すごく嬉しい。

そしてなぜか、俺よりもシャルの方が興奮している様子だ。


「そうですか・・・良かった。それで属性はどうですか?」

「大変なことになってますっ!」

「・・・」


シャルの方が大変なんだが・・・。


「あのシャル?、少し落ち着いてください。よく分かりません・・・」

「へぁ?あっ、ごめんなさい!つい」

「どうなんでしょう?自分では見れないので、教えてくれませんか?」


ようやく落ち着いたらしいシャルは、説明してくれた。



「私もそこまで知識があるわけではないので詳しくは分かりませんが。恐らく・・・殆どの属性に適正があるんだと思います。それと私の持っている刻印と違うところもあるので、もっと詳しい人に診てもらった方がいいと思います」



詳しいことは分からないか・・・。

まぁでも、魔法は使えるらしいので、よかったよかった。


「ありがとうシャル。上着、着てもいいですか?」

「はい。ありがとうございました」



「あ、そうだ!」


袖に腕を通し終わって上着を正していると、後ろから何か閃いたらしいシャルの声がする。


「どうしまし・・・た!?」


振り返ると、ローブの裾を胸の下まで捲るシャルが立っていた。

下は黒い革のハーフパンツを履いていた。


「シャ、シャルさん!?」

「これが私の刻印です」


指された所を見ると、おへその周りを囲む様に3つの刻印があった。

刻印は黒色で5,6㎝の円の中に、紋様の様な文字が描かれていた。


「これが火でこれが水、これが風です」


一つ一つ指を指しながら教えてくれる。



「なるほど。ということは、シャルは三つの属性持ちってことなんだ?」

「はい、そうです。これでも属性の数は多いそうです」

「え、じゃあ俺って・・・」

「まだ分かりませんが、とても多いかもですね」


と話している途中に、シャルはローブを正していった。

ちょっと色っぽかった。



「何はともあれ、使えるかもならよかったです。せっかくだからシャル、明日魔法の使い方を教えてくれませんか?」

「もちろんいいですよ!」

「ありがとう。よろしくお願いします、シャル先生」

「わ、私が先生ですか?。あまり期待はしないでくださいね?」



魔法を教えてもらう事を確約して、しばらくの間、他愛も無いことを話して過ごした。





「そういえば、聞いておかなければいけない事がありました」



雑談が一段落したところで、新たな話題を切り出した。

確認しておかなければならない、大切なことを。


「なんでしょう?」

「答え難ければ、話さなくてもいいことですが、俺はそれを聞かなければなりません。できる限りでいいので答えてください」

「はい」


今シャルと一緒にいる原因、延いてはシャルが追われている原因を。



「シャルは何故、あのエルフの男たちに追われていたのですか?」

「・・・っ」


ビクッと震えて、シャルは俯いてしまった。


「もちろん、無理に話さなくても構いませんからね」

「・・・」



それからしばらくの間、沈黙が続いた。

シャルは俯いたままで、その場には焚き火にしている木の燃える音だけが鳴っていた。




どれくらい経っただろうか。

俺が新しい薪を組み終わったとき、シャルは呟くように語り始めた。


「私が・・・エルフとダークエルフのハーフだから、です」

「え?そうだったんですか」

「知らな、かったんですか?。だから・・・軽蔑も・・・」


エルフとダークエルフのハーフだと軽蔑されるんだろうか?。



「んまあ、知っていても軽蔑なんてしませんがね」

「でも・・・私っ!」

「俺はそんなこと気にしませんし、それにシャルはシャルです」

「私は私・・・」

「できればその、何で軽蔑されているのか、から説明していただけると助かります」


シャルは少し悩んだ後、言葉を選ぶように話し始めた。



「知っていると思いますが、ダークエルフは疎まれている存在です」


もちろん知らないが、頷いて先を促す。



「特にエルフからのそれは、人間族の比ではないくらいに強いと聞きました。ダークエルフは他のエルフ種を汚す存在だと、エルフは考えているそうです。ダークエルフは昔、悪い存在だったとされているそうなんですが・・・すみません、詳しくは聞かされていません」



うーん、ダークエルフは過去に何かしたんだろうか?。

歴史を調べてみる必要がありそうだ。



「さっきも言いましたが私はハーフで、父がエルフで母がダークエルフです。父はダークエルフのことを差別視していなかったようで、偶然出会った母と結ばれ、お互い村を捨てて一緒に暮らしたそうです」

「エルフの気持ちは分かりましたが、ダークエルフから見たエルフってどうだったんですか?」

「ダークエルフは特別な感情は無かったそうですが、エルフ達からの差別や迫害を恐れて、エルフの近づかない場所に村を移したそうです」



なんかイメージが全く逆なんだが。


「ありがとう、続きをお願いします」


シャルは頷いて話を戻す。


「なんとか暮らしていた2人の間に、新しい命が芽生えたそうです。出産は色々と大変だったそうですが無事生むことができたそうです。そのとき生まれたのが私でした」


そりゃ大変だよな。

ダークエルフが差別を受けてるのに、出産を手伝ってくれる人なんて、なかなかいないだろう。



「細々ではありましたが、私たち3人は幸せに暮らしていました。私が19歳になって間もなくのことでした、父が慌てて家に帰ってきたのです。体は所々出血していて、私も母も慌てました。そんなか父は私にすぐに着替えるように言いました」


大体読めてきたが、シャルの話を黙って聞くことにした。


「私は自室に行って着替え、居間に戻ると母にローブとフードを着せられて、裏口まで連れて行かれ、2人にこう言われました。『すぐにここから離れなさい。なにがあっても戻ってきてはいけない。すぐに私たちも貴女を追いかけるから、心配しなくて大丈夫だよ』そういって2人は私を抱きしめて、裏口から外に出しました」



シャルの声は震えてきていたが、それでも続けてくれた。


「でも私は、2人の言いつけを破りました。裏口を少し開けて、そこから中の様子を窺っていました。しばらくすると家の中から、けたたましい量の人の声が聞こえてきました。私は気になって、音を発てないように家の中に、忍び込みました。そこで・・・私は・・・」


シャルは目に大量の涙を浮かべながら、それでも話を続けようとした。



「私は、父・・・と、母が・・・殺さ・・・れるのを・・・!」


全てを言い終わる前に、シャルの瞳から大量の涙が零れ落ちた。

どうしていいか分からなくなった俺は、シャルを両手で抱き寄せていた。



「わた・・・し、私っ!」

「辛かったね、怖かったね、シャルはよく頑張った」

「で・・・もっ、でも!」

「いいんだよ、もう、大丈夫だから」


子供をあやす様に、背中を軽く叩きながら、頭を撫でてあげる。

伯父さんが俺に、そうしたように。



シャルは声を上げて、胸の中で泣いていた。




20分、いや30分もこうしていただろうか。

シャルはその後、泣きながらもどうなったのかを、必死に伝えてきた。


シャルは目の前で両親を殺されて、思わず声を上げてしまい、エルフの集団に見つかったそうだ。

頭が真っ白になり動揺していたところに、まだ息のあった父が『逃げなさい』と言ったところで、現実に引き戻されて必死で逃げてきたらしい。

その後はとにかく必死で、記憶が曖昧みたいだ。



落ち着いたのを確認して、シャルの体を起こしてやる。


「あら、寝てらっしゃる」



泣き疲れてしまったらしい。

起こすわけにもいかないので、木の根元まで運んで寄りかかり、膝を貸して俺も寝ることにした。



寝息をたてているシャルの頭を撫でながら、闇の中へと堕ちていった。





ここからは少しペースを落とします。


そしてここまで自信がありません!。

天神様よ、私に文才を授け給えっ!。


良いところ、悪いところ、どんな事でもご感想頂ければ嬉しいです。

まだまだ未熟ですが、お付き合い宜しくお願いします!。


皆様に天神様のご加護があらんことを^^

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