シャルム・アインス
あれから、どれくらい歩き続けただろうか。
時間にして5時間か、もう少し歩いただろうか。
まぁ、休み休みだったから、ずっと歩いていた訳ではないが。
「さすがに結構離れたし、大丈夫だろう」
エルフの男たちは気絶させていただけなので、念には念をと、とにかく距離を取った。
他に追っ手がいないとも限らないし、懸命な判断だと思いたいところである。
ローブの子は相変わらず、気を失って寝息を立てている。
ここまでずっと背負ってきたが、体重が軽いからなのか、あまり苦にならなかった。
まぁ、今まで基礎体力作りを、毎日欠かさなかったからなぁ。
「日も暮れてきたし、この辺りでいいか」
適当に開けた場所を見繕って、腰を落ち着けることにした。
ローブの子は横にしたところで、目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃったかな」
「・・・誰?」
そういうとローブの子は、飛び退いて身構えてしまった。
「エルフの男三人を倒したあと、倒れちゃったからここまで負ぶって来たんだけど」
「なにが目的ですか・・・?」
「えっと・・・人助け?」
「意味が分かりません。貴方に私を助けてなんの利益があるんですか?」
なんだか壁を作られてしまった。
男三人に追われていたし、警戒しない方が不思議か。
「まぁ、主な理由は自己満足ですかね。それに困っている人を助けるのは当たり前ですし」
「・・・」
まだ警戒は解いてくれないようだ・・・。
「それに、君の敵だったらあの男三人に加勢して、君を捕まえていたと思うけど」
「なるほど。・・・シャルム」
「え?」
「シャルム・アインス。それが私の名前です」
「そっか、俺は海凪・・・神原海凪。よろしく」
やっと警戒を解いてくれたらしい。
「どっちが名で、どっちが姓なんでしょうか?」
「あ、そっか。海凪が名前だから、ミナギ・カンバラかな」
「ミナギ・・・君か、改めてよろしくお願いします」
そういってシャルム・アインスは、深く被っていたフードを取った。
「え・・・?」
綺麗で美しくて、とても儚げで。
透き通る様な白い肌、穢れを知らない白銀の髪、整っていて可愛げのある顔、真紅の瞳。
そして何よりも、長い耳。
そう彼女はエルフである。
「軽蔑しましたか?」
「やっぱり、そうですよね・・・」
は!思わず・・・
「あぁ、いや・・・すみません」
「いいんです、私を見た人は、みんな、そうですから」
「違う!そうじゃなくて、その・・・すごく、綺麗だったから」
「綺麗って、私が・・・ですか」
「うん。その、見蕩れてたといいますか。ごめんなさい!」
疚しい気持ちはないが、思わず謝ってしまった。
「いえ、あの・・・あ、ありがとうございます。ミナギ君」
俯き加減でそう言ってきた。
「あの」
「は、はい!」
「その、『君』ってやめてもらえませんか?。もうそんな歳でもないですし、恥ずかしいです」
俺の顔は童顔らしく、昔から幼く見られていた。
高校の入学式では、新入生の弟だと思われたこともある。
あれはちょっとショックだったなぁ。
「あの、ごめんなさい。ちなみに今幾つなんですか?」
「これでも18歳です」
「え!?。その、本当にごめんなさい」
「いいんです、いつものことですから・・・」
本当いつもだから、よかです・・・涙
「それじゃあ、ミナギさんって呼びますね」
「呼び捨てで構いませんよ?」
「いえいえそんな、お助けいただきましたし、このくらいは」
「うーん。失礼ですが、シャルムさんはお幾つなんですか?」
「私は、19歳ですよ」
予想より若いなぁ。
大人びてたから、20代中盤かと思ってた。
「それならやっぱり、呼び捨てにしてください」
「んー。・・・あ!それなら私のこともシャルって呼んでください!」
「シャル・・ですか?」
「はい!ミナギ」
「う・・・シャル?」
「ミナギ!」
「そ、そうだっ。そろそろ晩ご飯にしよう!」
微妙な空気に耐え切れず、逃げてしまった。
「そうですね。食料はどうするんですか?」
「歩いてる途中に見つけた、木の実くらいしか手持ちはないかな・・・。火があればもう少し何とかできるんだけど」
「火なら私が作りますよ!。助けて頂いた時に見たと思いますが、私火属性持ちなので」
たしかに、あの時火の魔法使ってたな。
焚き火程度の火も作れるんだろうか?。
神様から貰った知識って広く浅くだから、詳しく分からないんだよなぁ。
自分で学べって事だろうか・・・まぁ、分からないことは調べるしかないか。
「じゃあ、火はお願いできますか?。俺は少し狩りに行ってきます」
「分かりましたぁ。気を付けて下さいね、ミナギ」
「あぁうん・・行ってきます、シャル」
そう言い残し、獲物を探してその場を後にした。
気になってた事もあったし、ちょうど良いか。
彷徨うこと10分弱、探していたものを見つけた。
とはいっても、獲物自体を見つけた訳ではない。
「やっぱり・・・魔力が見えてる」
そう、シャルを助けた時に見えた魔力が、集中すると見えることに気が付いた。
シャルを背負って移動しているとき、何かが移動するのが視界の端に映ったので、意識を集中して見ると、尻尾が2本ある狐の周りとその狐が辿ったのであろう軌跡に、青白い光が見えたのだ。
ちなみに青白い光は、狐から出るオーラとそれが後ろに伸びている感じだった。
そして今もそれを見つけたと。
恐らくこれを追っていけば、目的に辿り着くはずだ。
「おぉ、本当にいた・・・」
光を辿って5分も掛からずに獲物に辿り着いた。
今回は角のある茶色い兎だった。
「これは食べれるみたいだな。よしっ」
まだ気付かれていないので、気配を消して死角に回り込む。
うわぁ、こいつ意外と大きいな。
60~70㎝くらいあるだろうか?、角も20㎝くらいと長い。
後ろから距離を詰めたところで、腰に掛けた脇差の柄に手を伸ばす。
脇差を抜き逆手に持って、残りの距離を一気に詰め寄り、勢いのまま跳躍する。
俺が飛んだところで、ようやく兎も気が付いて後ろを振り返る。
飛び退こうと体勢を変える兎。
「遅い!」
飛び退こうと屈んだ兎の首に、脇差が突き刺さる。
生き物に対して使うのは初めてだったが、あまり抵抗なく刃が入って兎の命を絶った。
その後は、血抜きして解体、必要な部位以外は土に埋めた。
食べられる肉は、適当に拾った木の棒に刺して運ぶことにした。
帰りは自分の魔力も辿ることができたので、それを辿ってシャルのもとに帰った。