ローブと魔法
「ふぅ、結構歩いたな」
異世界に来てから二日目の朝方。
一番の心配だった食料は、神様から貰った知識でカバーできた。
一日目で何とか森まで辿り着いてから、野宿となった。
サバイバルを学んだとはいっても、さすがに火をつけるまでは至らず。
主になった食料は、木の実やキノコで、そのまま食べられるものだけだった。
途中何度か、食料になる小型の魔物を見かけたが・・・
「なんで抜けないんだぁ!」
得物がないので仕留められず。
魔力操作って言われてもなぁ・・・。
何度か瞑想したりして、感じ取ろうとしたが、感じたことのないものを認識するのは中々に難しいことなわけで。
「これさえ抜ければなぁ・・・、はぁ」
脇差?さえ抜ければ、それなりの道具も作れるし、狩りだってできる・・・と思う。
見た目、兎に角が生えただけだし狩れるよね?。
しかしあの角で刺されたら・・・痛そうだな。
むしろ、痛いで済めばいいが・・・。
「遭遇しないように気をつけよう。危険な生き物だったら目も当てられない」
それから暫く歩いて、恐らく昼頃。
「歩き疲れてきたし、休憩がてらお昼にしますかぁ」
まぁ、お昼って言っても、さっき採った木の実なんだけどね。
これがなかなか、甘くておいしいのだ。
見た目は黒い林檎みたいで、最初は食べるのを戸惑った。
少し開けた場所を見つけて、木の根元に寄りかかる。
鞄も無いので、二つだけ採っておいた黒い林檎モドキに噛り付く。
「シャク、シャク、シャク」
「甘いもの食べたら、しょっぱいものも欲しいなぁ。」
一つ目を食べ終えて、そんなことを考えていた時だった。
『ドゴォォォン』、と何かとてつもない爆発音が辺りに響き渡った。
「っ!近いな。行ってみるか」
今さっき気をつけようとか思ったのにもかかわらず、足は既に音源に向かって歩みを進めてた。
正直、危険だとは分かっていても、もしかしたら人が居るかもしれないと思ったら、足を止められなかった。
速まる動悸を抑えながら、小走りで目的地に駆ける。
「あそこか!」
少し離れたところから、土煙が上がっている。
そこに向かって、なるだけ気配を消しながら近づいていく。
ある程度離れた木の陰から、辺りの様子を窺う。
場所は開けていて、陽の光が差し込んでいた。
あれは・・・人だ!。
異世界に来て二日、やっとこ第一村人発見・・・森だから森人か。
だがしかし、何か不穏な空気が漂っている。
黒いローブを頭から着込んだ人を、三人の男が距離を取って囲んでいる。
囲んでいる方、あれはエルフか!?、耳が長いから多分そうだろう。
最初に出会ったのがエルフとは、異世界感でてきたなぁ。
しかしこの状況は感動できないな。
なにせ男三人、みんな剣を持ってるんですよ。
どうするべきか・・・。
「ここまでだ、動くんじゃねぇぞ」
「小娘が手こずらせやがって」
「今すぐ両親の所に送ってやるぜ」
男三人が、いかにもな悪役じみたセリフを言っている。
話の流れから、ローブを着ているほうは女の子らしい。
そして両親、か・・・。
理由はどうであれ――
「決まりだな・・・」
「っ!、誰だ!」
「そこにいる奴、出てきやがれ!」
俺はそこから、ゆっくりと前に出ていく。
「大の男三人が、一人の女の子囲んで恥ずかしくないのかねぇ」
「あ?よそ者はすっこんでろ」
「しかも、よく見りゃあこいつ、人間じゃねぇかよ」
「はっ、人間如きがエルフに逆らおうなんて百年早――」
エルフの男が言い終わる前に、その男に向かって50cmくらいの火球が飛来した。
「なっ、やりやがったな餓鬼がぁ!」
「まだ魔力が残っていやがったか」
俺に向かって罵倒の言葉を吐いてる隙に、ローブの子が放ったらしい。
しかし、そうか。
今のが魔力か。
何でかは知らんが、ローブの子が火球を放つ前に、魔力らしき流れが見えた。
今なら、やれるか?。
脇差を取り出し、左手で鞘を、右手で柄を握る。
さっき感じたものを、自分の体の中心から右手に、そこから刀に伝えるように意識する。
そしてそれを、ゆっくりと抜いていく。
「抜けた・・・」
抜けた刀は50cmくらいの中脇差だった。
刀身は美麗な銀色で、光に反射して僅かに黒く見える。
柄と鞘、鍔も黒色なので、名前は漆黒の脇差とかだろうか。
「なんだてめぇ、やる気か」
そう言って一人のエルフがこっちに向かってくる。
さっきの火球で一人が動かなくなっているので、残りは二人か。
「はっ、そんな短けぇ剣で、俺に勝てるわけねぇだろうが」
「どうでしょう。身の丈に合わないものを振り回すあんたよりは、マシだと思いますけどね」
「んだとこの野郎。おらあぁぁぁっ」
こんな軽い挑発に乗るとは、なってませんな。
どこまでやれるか分からないけど、あの伯父さんの扱きに耐えてきたんだ。
やれるだけやってやる。
「一刀流は得意じゃないんですけどね・・・」
脇差を右手で持って、左手は自由に。
男が上段から振り下ろしてくる剣を、脇差を斜めに構えて左に受け流す。
隣に出た男の下腹部辺りに、左手を入れて右足を掛けて――
倒れる男の首、頸部に渾身の力で柄頭を叩きつける。
「っかはぁ!・・・」
思ったより綺麗に入ったなぁ。
エルフの男、半目になって失神しちゃったよ。
伯父さんに叩き込まれたことを、思い出しながらやっただけだけど、伊達ではなかったらしい。
「さて、あと一人か・・・」
「チッ、どいつもこいつも役にたたねぇ」
「ふーん、逃げないんですね」
「手前みたいな餓鬼一人に、どうして逃げなきゃなんねえんだよ」
一気に二人も無力化されたのに逃げてくれないらしい。
俺だったら逃げ・・・ないか。
さすがに仲間を置いて逃げたりはしませんね。
だけどお兄さん、戦いの最中に余所見はいけません。
「ぎゃあぁぁぁ!」
「さっき学んだばかりでしょうに。全く」
またしても、ローブの子が放った火球にやられた三人目の男。
異世界初の戦闘は、こうしてあっという間に幕を閉じた。
「大丈夫ですか?」
一段落ついたところで、ローブの子に歩み寄りながら声を掛けた。
「はい・・・。もう・・・平気です・・・から、それでは」
「平気って、息だって上がって、それにこの手!」
踵を返して歩き出そうとするローブの子を、腕を掴んで制止させて言った。
呼吸は荒く、肩で息をしていて、右手には逃げてる時に負ったのであろう傷があった。
「やめてっ、放して・・・くだ・・・さ・・・い」
ローブの子は、俺の手を振り解こうとして、気を失ってしまった。
「おっと。疲れた、のかな?」
「このままここに居るのも不味いか、先を急ごう。よっと」
ローブの子を背負い、街のほうに向かい歩き出した。