ヴュースト・ヴェルト
ここはどこだろう?。
人がいる。優しそうな女の人だ。
台所に立って楽しそうに何かを作っている。
誰かが座っている。優しそうな男の人だ。
何かを読んでいる。難しい顔をしている。
女の人が何か運んできた。おいしそうな匂いだ。
楽しそうに笑っている。温かい。
とても、温かい・・・
――頭が重い。
すごくだるい。
何か懐かしい夢を見ていた、そんな気がした。
夢・・・
起きなきゃ。
「――っあぁ!」
伸びをして、気だるい頭を覚醒へ向かわせながら、体を起こした。
まだ、ぼーっとしているのか視界が狭い気がする。
体を解しながら、辺りを見回す。
「何もないな・・・。一面草原じゃないか・・・」
かなり遠くに森が見えるくらいで、本当に何もない。
「ここが、異世界・・・」
地球とあまり変わらないな。
空があって、太陽があって、土があって、草がある。
「本当に異世界か?ここ」
「そうですよ」
「っ!」
「申し訳ありません。驚かせましたね」
びっくりした・・・。
最近驚いてばかりだなぁ。というか驚かされてばかりか・・・。
隣を見ると、金髪碧眼の美女・・・ではなく、何か変なお面を被った人が、隣に立っていた。
さっきまでは誰もいなかったはずだけど。
「あぁ、いえ・・・えっと?」
「かん・・・いえ、ヴァッへの使いのものです」
「そうですか。驚いてすいません」
「ヴァッへからの言伝です。ここから一番近い街が東、森のほうへ行けばあります」
「なるほど。ちなみにどのくらい掛かるのでしょう?」
「あまり助言を与えないように言われていますが、いいでしょう。大体、六日程度でしょうか、長くても十日あれば辿り着けるでしょう」
少し悩んで、お面さんは教えてくれた。
っていうか、えっ?そんなに掛かるの!?
サバイバルはまぁ、レンジャー部隊とかに憧れて学んだから、できないことはないと思うけど・・・。
それでも、まったく知らない地で一週間以上・・・一人・・・。
寂しすぎるっ。
さすがに不安です。
おそらく食料になるものだって、地球とは違うわけで、その知識もないわけで。
俺はのたれ死ぬ運命なのか!?
「そんなに掛かるんですか・・・?。森ってあの森ですよね?、日程からしてあの森をぬけるんですか・・・?」
「そうです。そうなります」
「でも俺ここの言葉とか・・・」
「問題ありません。大まかな知識はすでに授けてあります」
問題なかったようです。
「それとこちらを」
そういうと何もなかったはずの空間から・・・脇差?が出てきて、手渡してきた。
「これは?」
「ヴァッへから預かったものです。『最低限の武器がないと生きていけないので、渡しておきます』だそうです」
「えっと、抜いてみても?」
「どうぞ」
柄と鞘に手をかけ、ゆっくりとその綺麗な刃を・・・
綺麗な刃を・・・
刃を――――抜けないっ!!
どうやら俺はこの刀?に嫌われたようだ・・・。
「抜けないです・・・」
「えぇ。その刀は海凪殿の魔力に反応して抜けるそうです。ですのである程度の魔力操作ができるようにならなければ、抜けないそうです」
嫌われたわけじゃなかったようだ・・・、よかった。
「そう、ですか。魔力操作ってどうすれば・・・」
「申し訳ありませんが、これ以上は申し上げられません」
「そうですか・・・分かりました」
聞くより慣れろってことか・・・。
「最後に、『君の思うように自由に生きなさい、縛るものはもう何もありません』とのことです。確かにお伝えいたしました。それではこれで失礼します」
「えっ・・・どういう――」
言い終わる前に、空間が歪んだかと思うと、お面さんの姿はもうなかった。
どうしてみんな、こうせっかちなのかね。
というか、俺どうすれば・・・、ぽつーん。
ここまで来てなんだけど、目的もなく一人異世界に放り出されると、なにをしていいかも分からないし、ただただ不安しか残らない。
「はぁ、どうしよう・・・。」
残ったのは、ぼーっと突っ立ったままの自分と、脇差だと思われる刀。後は今着ている下は黒の馬上袴に白た・・・び?
「なんで弓道の格好!?」
あぁ、神様のセンスが分かりません・・・。
「街、探すか」
溜息混じりに、俺はまだ見ぬ街に向かって歩き出した・・・。