狭間の世界 ヴァッへ
次に、俺が目覚めたのは、真っ暗な何も無い空間だった。
目を凝らしてみると、遥か遠くに点になった光が見える。
目が慣れてきたのか、それは1つではなく、無数に、無限に確認できた。
まるで宇宙の中心に来たようだ。
「綺麗だ・・・」
「そうですねぇ・・・」
「ですねぇ。・・・え?」
「こんにちは」
「っ!?・・・こん、にちは?」
突然かけられた声に驚きながら、隣を見たら
白い髪が腰まであり、優しそうな笑顔を浮かべた男の人が居た。
何時の間に・・・、そう思っていると彼(見た目30代後半の細身)の方から話しかけてきた。
「はじめまして、海凪君。僕の名前はヴァッヘといいます。以後、御見知り置き下さいませ。
天神様より貴方の導きを申し仕りました。」
「はぁ。これはご丁寧に、名前はもう知っているみたいですね。
改めまして、神原海凪と申します。よろしくお願いします」
「ふふ、そこまで硬くならなくても良いですよ。天神様からお話は聞いていますね?」
「えっと、はい。異世界に送られるというのは聞きましたが・・・」
「なるほど。またですか」
ヴァッヘさんは、なぜか苦笑交じりに呟いた。
またって、いつもあんなにセッカチなのか・・・。
「えーっと、ヴァッヘさんも苦労してるんですね・・・?」
思わず同情の声を掛けてしっまた。
「はは・・・。それでは改めて説明しますね。
時間もあまりありませんので、細かいことは省きますがご了承くださいね」
ちゃんと説明されていないのを悟ったヴァッヘさんは、送られる世界について説明してくれた。
というかまだ異世界じゃなかったのね。
ヴュースト・ヴェルトは地球に似た惑星で、そこには人間はもちろん、エルフやドワーフなどの亜人、リザードや猫人などの獣人、その他にも数多くの人種が共存しているそうだ。
世界には魔力が満ちていて、全ての生けるものは、それを用いて生活をしている。
魔力というのは地球で言うところの、酸素みたいなものだそうだ。つまりは生きるのに必要なんだと。
「とまあ、簡単に説明するとこんなところですか。時間が無いので本当に簡単で申し訳ないが」
「なるほど」
「細かく説明すると、世界の理に関わるので話せませんが、魔力のように地球とは違う形のものがたくさん存在しています。私達のほうで精一杯のサポートといいますか、力と最低限の知識を授けますので大丈夫です。天神様からも御力を頂けるので安心してください」
天神様からの力って・・・逆に心配になるな。
「あの、生きていけるだけの力さえ、与えて頂ければ大丈夫です。」
「謙虚ですね。しかし決まりですので、加護は享けていただきます。慣れるまでの間、大変かとは思いますが、少々我慢してくださいね」
「そうですか。では、御守のほど、よろしくお願いいたします」
「ははは・・、相変わらず謙虚ですね」
ヴァッへさんは苦笑いしていた。
天神様からの加護が心配だが、受けといて損はないだろう・・・たぶん。
「俺は何かすることはありますか?」
「特にありませんね。強いて言えば心の準備くらいでしょうか。時間もありませんし、海凪さんのタイミングで送りますから、いつでも仰って下さい」
異世界かぁ。
遣り残した事とか、心残りとか無かったかな?
なんか死ぬみたいだなー、と苦笑い。
まぁ元の世界から居なくなるから、似たようなものかな?
あぁ、1つだけ心残りがあったかな。
「1つだけ、お願いというか、頼みごとが・・・」
「何でしょう?私にできることならお聞きしますよ」
「俺を引き取って育ててくれた伯父さんに、何の恩も返せなかったので・・・俺のことは心配ないと、大丈夫だと安心させてあげて欲しいんです。お願いします」
そういって、俺は深く頭を下げた。
「分かりました。必ず果たしましょう」
「ありがとうございます。・・・もう大丈夫です、いつでもいけます」
「そうですか、急なことで色々苦労するかもしれませんが、貴方ならきっと大丈夫でしょう。
・・・なんて都合が良すぎますね」
ヴァッへさんは苦笑しながら続けた。
「ですが、なにがあっても自分から目を背けてはなりません。自分を信じなさい。さすれば、良いほうへと進むでしょう」
「・・・」
すごく真面目な顔と声で語りかけられて、思わず無言で頷いた。
「後のことは、私たちに任せてください。約束は必ず果たします、安心してください」
「はい、お願いします」
「では、送ります。神原海凪に天神の尊の御加護があらんことを」
そうして、本日2度目の深い眠りに、俺は落ちていった。
途中、ほんの少しの間、とても強くて大きな光に包まれた気がした――。
「よろしかったのですか?」
「不満かの?」
「いえ、不満というより、不安ですね。与えた力に呑み込まれてしまわないか、心配です」
「大丈夫じゃよ。我が見込んだ奴じゃ、安心せい」
「・・・そうですね」
「うむ。あやつにそっくりじゃ、心配あるまい・・・」
そう呟きながら天神の尊は、目を細めて遠い目をしていた。