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生と死の象徴  作者: 楠楊つばき
生と死の象徴
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利華

 施設のエレベーターは故障していた。先ほどのシャッターや防衛兵器といい、すでにこちらの動きはあちらに筒抜けだろう。それは凪人を連れてきた時点で予想していた。本当は白浜以外の一般人を巻き添えにしたくはなかった。他人に非情となれ、という教えが身についているからこそ、情に流される者は足手まといになるだけだ。それでも彼を同行させなければならないのは、裏当主の判断だからである。詩季を通じて伝わってきた意思を退(しりぞ)けられない。


「どうした?」と凪人に声をかけられた水車は腕を組み、()(おう)()ちしていた。


「電波を感じる。多分、私達宛()てよ」

『……ハァッーハッハッハ……歓迎するサ、迷える子羊ちゃんたち』


 高笑いで始まった放送は水車達への挑戦状だった。頭を掻く凪人の傍らで、子羊は余計だし、と利華がもらした。


『渡瀬利華、奥山凪人……そして白浜水車。オレは首を長―くして待っていたサ』

余興(よきょう)は要らない。〝南天〟、貴方は私の首が欲しいのでしょう?」

『……この十年間、行方をくらましていただけはあるな、〝マリーゴールド〟。白浜のデータベースにアクセスするだけで疲れたサ……なあ、オレの言いたいことの察しはつくよな?』


 利華の家に仕掛けられていた盗聴器。あれは彼か、その配下が設置していたのだろう。彼は私を狙うために、周囲から攻めたのだ。利華が巻いていた包帯から血を採取したのは彼――〝南天〟。それは彼が切れ者である証拠である。


「貴方に多大な栄光があるとしても、白浜の手の中で踊らされているような人間に興味はない」

『へぇ~、それはオレに対する侮辱か?』


 緊迫とした空気が流れる。利華と凪人は眉をひそめていたが、両者とも〝南天〟には適わない。私が堂々としていなくてはならない。


「勿論よ。私は初等部入学から貴方をマークし、貴方は中等部から水月と同じクラスになるように留年した。……(ちり)ほどの人間性で、貴方は水月が私である事実を心のどこかで否定していた」

『……あー、そうサ。オレは水月ちゃんを付け狙っていた。でもさ、おちびちゃんは器用なことができないと思っていたサ。まっ、それで先制を許してしまったが』


 水車は相手が言い終わったのを確認し、低い声で言い放つ。


「往生際が悪いわね……〝南天〟。私は身内でも残酷(ざんこく)になれる」

『そりゃあ君も次期当主候補だもんなー。生憎、オレは超心理学者で無神論だがなっ!』


〝南天〟の語尾に力が込められていたのは聞き間違いではなかった。耳元で「動けねぇ」という諦めたような声と、「許さないっ」という怒りに満ち溢れた声が弾けとぶ。


 一人ひとりの足元に描かれた魔法陣。白浜の最先端技術である、床に張られる拘束器具だった。遠隔操作が可能で、恣意的に発動できる品物だ。


「二人ともよく聞いて。これは拘束の役目だけでなく、脳に直接働きかけて特定時間神経を麻痺させる効能もある。それから瞬間移動をさせられるから……目が覚めたときには散り散りになっている。対応できるよう、二人にこの施設の地図を送る!」


 白浜の能力は超能力の一種とされている。予知、透視、念写などは(じょ)の口で、パイロキネシスや瞬間移動を習得した者達は高格として認められる。それ以外にも強化などもある。私は組織内では割と上位のほうでリモート・ビューイング――遠く離れた場所を透視できる。二人には黙っていたが、〝鹿の子百合〟と〝紫苑〟、そして事故を装って殺害された〝スノードリップ〟の位置も掴んでいた。


(利華と凪人ともう少し一緒にいたいなんて、願ってはいけないのよ……)


 二人の脳に地図を送りつけ、水車は静かに目を閉じた。

  


        *



 一瞬で移り変わる数字を利華は瞬きもせずに見ていた。


「1859……602……9852……8596……」


 暗室に飛ばされた利華を待っていたのは、一台のパソコンだった。室内に浮かび上がるそれは利華を待っていたかのように、ディスプレイを点灯させた。不審がった利華は眼帯を外して退路を捜索したが、平面な壁にそれらしき所は見当たらなかった。望んでいない情報を映している右目の方が憎らしい。観念した利華は大人しくパソコンと向き合い、力比べをしていた。


「47590……33……5938」


 桁数がばらばらなフラッシュ暗算。利華は二桁や三桁が標準なそれと機械に弄ばれているのが胸糞悪く、闘争心に火をつけた。


「よし、74470」


 答えを入力し、正解を知らせる音が鳴る。その音は鈴のようで心が和むが、安心している暇はない。小さくガッツポーズをする間も視線は外してはならない。やがて次の問題が始まった。


「405……3867……27548……756……9592……」


 光に貫かれている目の奥には痛みが走る。右目に苦しんできた利華にとって、それは注射針ぐらいにしか感じられない。刺された瞬間は耐えるが、その後は()を上げない。


「61……73。42302っ」


 エンターキーを叩いて答えを決定した。そして正解を知らされ、また次の問題に思考を塗り替える。白浜の能力なのか、正解する度に制約が解除されていることがわかる。シャッターが開く音、機械の起動音。このままいけば退路が出現するという望みをかけ、利華は解き続ける。


(未菜、あともう少し待っていて……)







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