掻く
中学生の時の妄想をちょっと膨らませたら、こんな変な風になりました。
陶磁器のように白い左腕から、真っ赤な血が流れていた。
とある高校の教室にて。
四時間目が始まった頃からだろうか。突然、何かをかきむしるような音が、教室中に鳴り響いた。
音のするほうを向くと、学校一の美人である吉岡が、左の二の腕を掻いていた。
始めのうちは、あの完璧超人の彼女にも、人間らしい部分があるのだな。と思っていただけだったが、次第に違和感を覚えるようになった。
いつまで経っても止めない。
ついに、皮膚を裂き、血が流れ始めた。
先生が、さすがにまずいと判断して、
「吉岡、早く保健室に行きなさい!」
と、夢中で掻き続ける彼女をなんとか抑え、保健室に連れて行った。
放課後。
吉岡のクラスメート、飯田が忘れ物を取りに教室へ戻った。
学校は静まり返り、全く人の気配がしない。
しかし、教室に人がいた。
一人は吉岡。
もう一人は…
「木村…」
飯田は呟いた。
彼は、同じく飯田達のクラスメートだった。
木村は倒れていた。床は血まみれで、しかも、左腕がなかった。
そして、吉岡は自分の左腕を、持っていたナタで叩き切り、木村のをくっつけようとしていた。
しばらく悪戦苦闘をしていたが、やがてピタリと自分の体とつながった。
そして、ちゃんと指先が動くかどうか確認をしていた。
彼女はまだ飯田の存在に気付いていないようだ。
飯田はこっそりと、鞄から肉切り包丁を取り出した。
飯田は廊下を歩いていた。
危なかった…
彼は微笑んだ。
吉岡が腕を掻いているのを見て、こっちも右足が痒くなってしまったじゃないか。
吉岡が、俺と同じ体質だとは思わなかったが。
まあ、ちょうどよく、素材があったから助かった。
それにしても…
彼はまだ元の持ち主の面影のある、白くすべすべの右足に触れながら思った。
この素材が俺に馴染むまで、何日かかるのだろうか。