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Snow Story  作者: 雛雪 小鳥
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第一章

 今日も空からは白い雪が降っている。色んな色の傘を差して人々が過ぎて行く。きっと、空から見たら白いキャンバスに、適当に色をつけたみたなんだろう。

 俺は、そんな人混みの中を傘も差さずに歩いていた。だから、頭には少し雪が乗っている。俺の銀髪に雪が乗ってもあんまり目立たないと思う。それとは逆に、黒いダッフルコートの肩に積もった雪はよく目立つ。横目でチラリと見ただけでも白い雪がよく見えた。

 暫く歩いて着いた先は、都市・ネージュアにある学園都市内で最も大きい学園、「聖シャルギエル学園」。俺はそこの高等部二年に所属しているが、サボりまくっている。それでも、テストで点数取ってれば留年とかはない。

 学園の無駄にデカイ門を通って中へ入る。でも、校舎には入らない。だだっ広い門の内側にいるだけだ。学園は、例えるならベルサイユ宮殿。それだけデカイ。そして、庭もある。俺がいるのはその庭だ。

 図書塔と呼ばれている建物の近くに立つ木の下に座って、校舎へ向かって行く群れを見て「馬鹿らしい」と呟く。誰に言ったわけでもない。ただ、呟いただけだ。学校に行ったって、自分達の求めるモノなんてきっと見つからないのに、行っているなんて、しゃらくさい。億劫なだけだ。

 「赤ずきん…」

歩いて行く、制服の上に好きな上着だのマフラーだのを着ている生徒の群れの中に、赤い奴を見つけた。そいつは、背の高い男子二人と、白いコートを着た女子と歩いていた。ただ、そいつが目に留まったのは、周りの奴等と違って本当に赤い物で自分を覆っていたから。フードの着いた赤いケープ付きトレンチコートに、赤い…滅茶苦茶長いマフラー。どんだけ好きなんだって聞きたくなるくらい赤い。フードには猫かなんかの耳も付いている。鞄は焦げ茶色の革製リュックだ。本当に、赤ずきんって呼ぶに相応しいくらいな赤さ。

 「狼に気をつけて」

冗談を呟いて、木にもたれ掛かると、顔をマフラーに半分くらい埋めて目を閉じた。冷たい風が顔を撫でて行く。凄く冷たい。でも、もう冷たさには慣れた。


 それから暫くして、俺は図書塔に入って、学校が終わる頃にまた外の木の所へ戻った。何度見てもカラフルな傘の光景だ。そういえば、あいつは傘も赤だったか。本当に赤が好きなんだろうな。変な奴。

 「ねぇ、どうしていつも学校に入らないの?」

木の下に腰を下ろして、さっきみたいに目を閉じていると、そう声がした。可愛い声だと思う。

 「雪の上に座ったら、服が濡れちゃうよ?」

顔を上げると、赤ずきんが傘を差してそこにいた。男は狼なんだと、誰かに聞いたりしなかったのか。この赤ずきんは。知らない野郎に無邪気に笑いながら声を掛けてくるなんて。

 「学年どこ?」

質問に、左手の人差し指と中指を立てて「二」と示した。近くで見ると、瞳も赤なんだな。コイツ。

 「あ、じゃぁ、誓お兄ちゃんと同い年だ」

その言葉を立ちあがりながら聞く。立ってみて分かったが、身長がかなり低い。俺がデカイのか…?たしかに、百八十あるからデカイ方なのかもしれないが…。

 「私、癒祈って言うの。高等部一年生」

一瞬、「高等部一年生」という言葉を疑ったが、嘘をついている様子もないので本当なのだろう。小さいなぁ…。

 「君は?名前」

危ない赤ずきんだな。いつまで狼に余裕で話かけてるつもりなんだ。

 「アルフェウス」

一言だけ答えると、寒さで少し赤くなった頬を嬉しそうな色に染めてにっこりと笑った。赤ずきんの名前はユキ、か。漢字は分からんが、ユキか。色がユキじゃないけど…。

 「アルフェウス…先輩、誓って人知ってる?」

先輩…?学校サボりまくっているのに、先輩なのか?

 「知らない」

そう返すと、少し残念そうに「そうなんだぁ…」と言って俯く。セイって、さっきお兄ちゃんって呼んでた奴か。同じ学年か。

 「アルフェウス先輩、あ…」

「先輩付けなくていいから。学校サボってばっかだから。」

言葉を途中で遮りそう言うと、瞬きを何回かした後、こくりと頷いて言葉を続けた。

 「あの、一緒にパフェ食べに行こう?」

何で突然パフェ。高校一年が随分幼い口調で、幼く誘って来るんだな。

 「何で…」

「狼さんとも仲良くしなさいって、翠お兄ちゃんが」

狼さんには気をつけなさい、じゃないんだな。というか、どう育てたらこんな幼い口調の高校一年生になるんだ。どんな家なんだ。

 「狼さんには気をつけないと食べられますよ、赤ずきんさん」

そう言うと、ころころと楽しそうに笑った。笑顔も幼い。童顔なんだな。

 「みんなね、わたしの事、そう言うんだよ。赤ずきん、って」

周りと同じことを言うからおかしかったのか。嫌だとは感じないんだな。そんだけ周りから言われて。

 「でもね、同じ学校の狼さんはきっと良い狼さん達だから仲良くしなさい、って翠お兄ちゃんは言うの」

そのお兄ちゃんが、この赤ずきんをこんな風に育てたのか?危ないだろ。下心ありありな野郎だっているわけだし。

 「さっき、銀狼(ぎんろう)さんがいるって話してたら、誓お兄ちゃんがあの狼はワルなんだって。でも、翠お兄ちゃんが、一人はきっと寂しいから仲良くしてあげなさいって」

スイお兄ちゃんさん。よくない教育はしちゃ駄目だろ。俺がどっかに連れ込んで事件起きたらどうするんだ。パフェを食いに誘う理由がよく掴めないし。

 「お兄ちゃん達、あっちにいるの。一緒に食べに行こう?」

そう言いながら俺の手を取る。手袋をしたユキの手は温かい。リュックとブーツと手袋は焦げ茶か。赤ずきんだな。やっぱ。

 

 「ちょこー、ちょこちょこー」

結局、半ば無理矢理カフェレストランに一緒に連れて行かれ、赤ずきん(ユキ)の謎のチョコの歌を聴いている。歌、と言っても、無限に「チョコ」と言ってそこに地味にメロディーをつけているだけだ。

 「アルフェウスくんと言うのか。」

スイお兄ちゃんなのだと紹介された、笑顔の男子にそう言われた。

 学年は俺より一つ上で、校内成績常時トップなんだそうだ。瞳の色は黄土のような茶色をしている。その弟のセイお兄ちゃんとやらは、スイお兄ちゃんさんより濃い黄土のような茶色の瞳で、いつも睨むような目つきだ。兄弟なのに似ていない…。

 ユキの親友で、一緒に暮らしているらしい、黒髪の美少女はマイカと言うらしい。黒い瞳をしていて、ユキの謎の歌を、横でニコニコと聴いている。慣れてんだな…。

 「癒祈ちゃんがね、門に入ってからずっと気にしていたんだ、君の事」

「俺の事…?」

そう呟いた時丁度、個々が注文していたグラタンやらパフェやらが運ばれてきた。俺が頼んだグラタンからは湯気が立っている。相当熱いんだろう。運んできた人も「熱いのでご注意ください」とかマニュアル通りの注意をしていった。

 「いつも、外にいるから。」

「あぁ…」

なんだ、気にかけてる奴なんかいないと思ってたけど、いたんだな。意外だ。結構離れた場所から眺めてたんだけど。

 「誓と学年一緒でしょ?誓、知り合いだったりする?」

スイさんが横で携帯をいじりながらドリアを食べる弟のセイに問い掛ける。

 「え、いや、知らん。」

知ってる訳がないな。一年以内に二、三回くらいしか行ってなかった気がするし。俺も知らないし。

 「そうなんだぁ…」

「家へ帰ったら、クラス替えの時配られた名簿を見てみればよろしいのでは?」

バニラアイスの乗ったパフェを一口食べてから、マイカが言った。そういや、そんなもん配られたな。理事長がわざわざウチまで来て押し付けて行った、アレね。…見てないや。

 「そっか、そうだね。うん、そうしよう。」

そう言ってから、笑顔で小さいサイズの抹茶パフェを食べるスイさん。この人は本当に穏やかな人だな。話し方とか、雰囲気とか。こんな人初めて見た。

 「アルフェウスくん!ウチ来て遊ぼう!」

「え…」

赤ずきんさん、アナタいくつの子供。遊ぼうって…。

 「あぁ、そうだね、おいでよ。折角だから。予定が何もないならだけど」

何が折角なの、スイさん。良く分からないし…。予定なんかないけどさ。なんでメチャクチャ笑顔。

 「お泊り!」

「癒祈、遊ぶ前に相手の予定聞けって。てか、初対面の相手をいきなり誘うのが驚きだ。」

セイは、割と真面目…?チャラそうな外見だけど。

 「ごめんなさい、アルフェウスくん。癒祈は、こういう子なんです。」

少し困ったような笑顔でマイカが謝る。保護者みたいだな。

 「でも、遊びたいよ」

「何が「でも」だよ。お前はもう少し落ち着いた高校生になれんのか」

「うるさいやいっ!」

賑やか…。

 「別に…行ってもいいけど…。俺と遊んでもつまんないよ?」

まぁ、予定はないし。絶対つまんないと思うけどな。

 「わーいっ」

「よし、じゃぁ、食べ終わったら行こうか」

ユキは無駄に嬉しそうだ。なんで俺なんかで喜べる。なんか、こうゆうの、初めて過ぎて戸惑うな…。


 「此処だよ~おうち~」

電車で暫く行って、降りてから更に森の小道を歩いた。それこそ、赤ずきんの住んでいそうな森。そして、森の少し空いた場所に小さな聖堂と、ユキ達の住んでいるらしい家が建っていた。ドイツなんかでお目にかかれそうな家だ。

 「早く入ろ~」

招かれて家へ入る。入って最初にダイニングとリビングが見えた。玄関の横には傘立てやらがある。

 「あのね~、うちに黒と白の双子の猫ちゃんがいるの~」

「そうなんだ」

コートとマフラーをソファーに脱ぎ捨ててきたユキが再び俺の元へ走ってきて、腕にひっつきながらそう言った。マフラーとフードで隠れていて分からなかったが、茶色い髪は結構長かった。少しウェーブが掛っている。

 「ブランシュとノワールっていうの」

フランス語で「白」と「黒」って…まんまじゃないか…。日本語で「シロ」と「クロ」でも大差ない気が…。

 「連れてくる~」

困って立ち竦んでいると、スイさんに声を掛けられた。

 「ごめんね、幼い子だから…。ソファーに座ってて良いよ。ブランシュは簡単に見つからないだろうし」

微笑みながらそう言って、ソファーに俺を促した。簡単に見つからないって…外にいるとかじゃなくてか…?

 「ブランシュがいな~い」

黒い猫だけを抱き抱えて戻って来たユキは、微妙に泣いていた。

 「誰も見たいとは言ってないからいなくても…」

横に座っていたセイが呆れた様に言う。それを聞いて更に泣き出すユキ。スイさん夕飯の準備始めてるし(さっきのは間食)、マイカは風呂の準備に行ったし…。どうしたらいいんだ。

 「いーなーいー」

「うるせぇし」

抱かれているノワールも、困っている様に見える。

 「え…と…まぁ…猫だから居たり居なかったりするんじゃ…」

長く話すのは嫌いだ…。こんな長文、今まで話した事ないぞ。

 「ブランシュもノワールもお家から出ないの~」

「えと…」

本気で泣かないで…。こんなに戸惑ったのは初めてだ。

 「あら、どうかなさいましたの?」

良いタイミングでマイカが戻って来た。この光景を見て少々驚いているようだ。

 「ブランシュが居なかったんだって」

スイさんが説明する。聞こえてて何もしなかったの…?!

 「あぁ…ノワール、ブランシュはどちらに居るんですの?」

その言葉に返事をするように「にゃー」と鳴いて階段の方へ、ユキの腕の中から出て歩き出した。

 「私も行く~」

そう言って走って行く。

 「…お前、あんまり他人と関わらないだろ?」

セイが突然言ってきた。いや、寧ろ全然話さない…。

 「あぁ…」

「まぁ、話しててもアイツには戸惑うだろうが」


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