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第7話 ワイバーンむね肉のサクサクジューシー唐揚げ

「ふはぁああ! 今度はワイバーン大量に狩ってきたぁああ!」


 バターンと卒倒したコレット。食材の山を見てヒクヒクしている彼女を休ませて、俺は料理の準備に取り掛かった。先に仕込みが必要だからだ。


 ワイバーンのむね肉をまな板に載せる。

 赤みがかった肉質は鶏肉よりも締まりがあり、僅かばかりだが脂の筋が通っていた。

 うむ、やはり狩りたては良いなぁ。


「うわぁ~今日は何を作るんですか~店長♪」


 休んでたはずのコレットが、カウンターから厨房を覗き込んできた。

 食材見て叫ぶのはネタなんじゃないかと思うほど、ケロっとしている。


「今日は唐揚げだ」


「わぁ~~からあげですね~♪ やた~♪」

「だ、だから、からあげってなんなのよ!(じゅるり)」


 ほう、コレットは知っているようだ。

 この異世界では唐揚げは存在しないわけではないが、あまり広まってはいない。

 コレットが以前働いていた店舗でも、メニューにあったのかもしれんな。


「よし、まずは下ごしらえだな」


 包丁を入れる。繊維を断つように筋を切り、厚みを均一に調整する。ゴリっとした硬い部分はそぎ落とし食べやすい一口大へ。肉の断面からはほんのりワイバーン特有の芳香が立ちのぼる。


 次にボウルへ肉を入れ、下味を仕込む。

 醤油、酒、刻み生姜、にんにくを混ぜ合わせた漬け込みタレを作る。手で優しく揉み込めば、肉がしっとりと色を変え香りが食欲をそそるものに変わっていく。


「ふあぁ~~なんかとってもいいにおい~(じゅるり)」

「え、ええ。すでに食欲がそそられ始めているわね……(じゅるり)」


 美少女ホールと美人剣士がガン見しているところ悪いんだが。


「さて、漬け込んだ肉をすこしばかり寝かす必要がある。今のうちに、食材の山を魔導冷蔵庫に入れるぞ」

「はぁ~い、店長」

「くっ……まだ先は長いか……あたしも手伝うわ」


 レイナも手伝ってくれた。本来休業日なのに、ご飯を作ってくれるお礼だそうだ。

 若くして気遣いもできるいい子だよ。


「それにしても、シゲルの包丁さばきは凄いわ。魔物との戦闘においても、調理においても」


 食材を片しながら、レイナが俺に話しかける。


「まあ、俺は包丁をよく使うからな」

「まるで包丁とシゲルがひとつになっているような……よっぽど信頼しているってことかしら?」


 俺にとって調理器具は相棒みたいなもんだ。

 この世のなによりも使っているし、使い勝手もいい。もっとも馴染んだもの。


「相棒を信用しないやつはいないだろ。それを言うならレイナだって白銀のドレスアーマーと剣が相棒じゃないのか」


「……そうね」


 すこし間をあけてからレイナがゆっくりと頷いた。

 彼女なりに色々考えてるんだろう。ま、今はゆっくり考えればいい。


「よし、そろそろ時間だな。調理に戻るぞ」

「あ、ああ……(くぅ~~)あっ! ちょ、これは違う!」


 レイナのお腹が小さくかわいく鳴った。

 こっちを見るなとばかりに、眉間にしわを寄せて顔を赤くする美人剣士。ふむ、正直でよろしい。


 さて、十分に漬け込んだワイバーンむね肉に、バットに広げた小麦粉と片栗粉をかぶせるようにまぶす。粉をまとった肉を軽く握れば、ワイバーン肉の引き締まった弾力が指に返ってくる。


 お次は……


 油鍋に火を入れると、ぱちぱちと音を立てながら温度が上がっていく。

 その中へ、そっとむね肉の一片を落とすと―――


 ジュワッと豪快な音。

 黄金色の泡が肉を包み込み、香ばしい匂いが辺りを満たしていく。


「うむ、いい音だ……」


 表面が狐色に染まったところで一度引き上げ、余熱で中に火を通す。


「ふはぁあ~~完成ですか店長! トレー用意しますか! それともみそ汁? いや白ご飯よそうのが先かなぁ!」

「落ち着けコレット、まだだから」


 今にも油鍋にその小顔を突っ込みそうになったコレットをグイとさがらせる。

 レイナの方は、よだれ垂れそうだな……


「すまんがもうちょっとだけ待ってくれ」


 俺は最後の調理に入る。

 再び高温の油に戻して二度揚げだ。これで衣はカリッと引き締まり肉の旨みを閉じ込めたまま仕上がる。

 完成した唐揚げを皿に盛り付けると、コレットが用意しているトレーに置き、ふぅっとひと息ついた。


「よし、完成だ……ワイバーンむね肉の唐揚げ定食―――おまち!」


 カウンターに座ったレイナが目の前の唐揚げに目を輝かせる。


「あの凶悪なワイバーンが、こんなに香ばしい匂いに……ごくり」


 コレットもレイナに並んでカウンターに座り、そのかわいい鼻をひくひくさせる。


「わぁぁ……いいにおい……それに、衣がキラキラしてますっ!」


 料理が出来上がるの待ってから食う。

 まあ、これも飯の醍醐味なのかもしれんな。


「熱いからゆっくりな」


「わかったわシゲル―――頂くわ」


 レイナが艶のある綺麗な唇を大きく開けて、ぱくっ!

 けっこう豪快にかぶりついたな。


 カリッ―――衣が砕ける音がして、「あつっ!」と声を漏らす。すぐにジューシーな肉汁が溢れのだろう。



「ふはうぅ! はふ、はふ、はうぁああ!!」



 なに言ってんのかわからん。

 が、美味いってことだけは確実に伝わってきた。


 それがわかればじゅうぶんだな。



「――――――あふはぁあああ!!」



 おっと、こんどはこっちから奇声が。コレットか。

 彼女は唐揚げを一口で頬張り、もぐもぐと咀嚼していた。すぐに瞳を潤ませ、ほっぺたを膨らませる。


「んっ……! こ、これ……すごいです店長! 外は香ばしいのに、中はワイバーンとは思えないくらい柔らかい……王都で食べたのとは全然ちがいますぅう!」


 しっかり下ごしらえをしたからな。

 繁盛店で店の回転を考えるなら、そこらへんはある程度短縮しなきゃいけないのもひとつの考え方だ。

 だが俺は手を抜かん。転生した今度の人生は、自分の好きにやるって決めてるから。


「う、うまい! シゲル、こ、これ! すごっ、うまっ! うまうまっ!」

「て、店長って、実はすご腕料理人がゲス副店長の罠にハマってド田舎に落ち延びてきたとか、そういう過去もちおじさんなんですかぁ! これ、美味しいにもほどがあるんですけどぉお」


 なんだよその過去。ま、前世では色々あったのは事実だがな。


 おっと、そうだった。

 俺はもうひとセット用意した唐揚げ定食を、神棚にも置く。

 すると、トレイごと定食は一瞬で消えた。


 なるほど、女神さまも大好きってか。

 カウンターを見ると、レイナもコレットも手が止まらなくなってる。


 ふぅ……

 やっぱ、唐揚げは正義だな。


 俺は腕を組んでうんうんとひとり頷いた。


 はふはふ、サクサクと子気味良い音だけが聞こえるド田舎食堂。

 2人ともいつのまに無言になっている。


 その姿を見ながら、俺は思う。


 ―――あぁ、やっぱり料理は最高だよ。


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