第6話 くっ……ワイバーンの群れか!(レイナ) きたぁ!上物の食材がいっぱい飛んでる♪(おっさん)
「焼きか? 揚げか? いや、やっぱ煮込みもいいなぁ~~♪」
「し、シゲル、不用意に大きな声を立てない方が……ここは危険指定区域の森なのよ……」
白銀のドレスアーマーに身を包んだ麗しき女剣士レイナが、深紅の髪を揺らして俺の肩をツンツンしながら言う。
彼女が俺の狩りに同行したいと言うので連れてきたのだ。まあS級冒険者だし、強さは並の冒険者をはるかに上回る。特に問題はないだろう。
俺たちがいるのは、辺境の町メタリノからさらに奥に進んだ森の中。
コレットが日課で読んでいた辺境新聞によると、最近ワイバーンの襲撃が急増していて辺境地域への物流が滞っているらしい。
ってことで、ワイバーンがいそうな山岳地帯へ向かう最中なのだ。
「おっと、すまん。食材探しはけっこう楽しくてな。ちょっとワクワクしてしまった」
「ワクワクって……ふぅ……そうだった。シゲルとはこんな奴だった」
勝手に1人合点のいったような表情でため息をつくレイナ。その時だ―――
森の奥、空の高みを飛ぶ影が目に入った。
「おおっ!!」
「だ、だから声大きいからっ! って、あれは……」
レイナも気付いたようだ。さすがS級、魔物嗅覚はしっかり備わっている。
「やったぞ山まで行く手間が省けた。にしも……くはぁああ~いい翼に胴体だなぁ~~ブツブツ」
「ワイバーン……討伐難易度A級の魔物、油断できないわ……って、シゲル! いま献立考えるのはやめて!」
俺の心を読んでくるレイナ。
さすがS級冒険者、ならいつもどおりでいくか。
「よしレイナ、ひらけた場所に移動するぞ」
「ええ? それじゃあたしたちが丸裸になってしまう……ってもう走り出しているしぃ!」
俺はワイバーンたちを追うように走り出して、ひらけた場所まで移動する。レイナもついてきているな、よしよし。
「シゲル、数が多いわ。ここは慎重に……え? ちょっ、なに出して……」
マジックサイドポーチからブツを出してと。
―――カンカンカンカン!
「なにやってんのぉおお! シゲルぅううう!?」
「え、鍋を叩いてるんだが?」
「見ればわかるわよっ! そんなことしたら……ほらぁああ!!」
「ギギャ!」
「ギギャース!」
「ギャギャース!」
ワイバーンたちが獲物を見つけたとばかりに、嬉々として次々と急降下してきた。
おお、きたきたぁ~。
「やったぜレイナ!」
「やったじゃないんですけど!?」
「何言ってんだ? 食材のほうからわざわざ来てくれたんだぞ」
空にいる獲物をとる方法もあるが、こちらに来てくれた方が断然ありがたい。
しかもまとまってだ。
「食材って……うぅうう……あたしの学んできたことがいっさい出てこない……はっ! そうだった。シゲルの興味はそこにしかないんだった」
レイナが1人うなっているが、あまりおしゃべりの時間はないぞ。
―――このチャンスを逃すわけにはいかない。
「さぁ~~食材確保の時間だ! いくぞレイナ!」
「くっ、もうどうとでもなれ!―――シルバードレスよ、うなれ!
――――――白銀武踏鎧!!」
レイナの白銀ドレスアーマーが輝いている。
たしかドラゴンと戦っていた時も同じ技を出していたな。さすがS級、瞬時に切り替えて即行動に移せるのは今までの経験がものいう。
この子がちゃんと努力してきた証拠だ。
「よし、レイナ。そっちにいったのは任せるぞ」
「ええ、わかったわシゲル!」
さて、こいつらならこれか―――
俺はサイドポーチから柳刃包丁を取り出した。光を反射して細長い刃がギラリと輝く。
「柳刃包丁―――千切り乱舞!!」
細身の刃が空を裂き、次々とワイバーンの翼を断ち切っていく。まるでキャベツの千切りをしているかのようなリズムで。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ! 刻め刻め刻めぇ!
最後の一匹ぃ! ふんっ! ――――――千切り完成!」
羽をもがれたワイバーンたちが悲鳴を上げながらバタバタと墜落していく。
そのまま地面に叩きつけられたところを―――
「これで終りだ」
包丁の刃先を脳天にお見舞いしていく。
ワイバーンたちは白目をむいて、そのまま沈黙した。
血煙と土煙が混じる戦場の中で、俺は汗ひとつかかずに包丁を振るう。
食材を綺麗に、傷まないように最小の動作で。
「よし、これで下ごしらえ完了だな」
俺の独り言に、レイナが剣を構えたまま叫ぶ。
「下ごしらえじゃないからぁああ!」
ははっ、元気な奴だ。
彼女の方に視線を向けると、最後の一匹を迎え撃つべく地を蹴っていた。
ワイバーンの鋭い急降下の突撃を紙一重で躱したその瞬間―――
レイナの眉間にしわが寄り、白銀のドレスアーマーが輝きを放って足元の力を爆発させる。閃光となった彼女の剣が、すれ違いざまにワイバーンの首筋を深く薙ぐ。噴き上がる鮮血と絶命の咆哮。
ふうっと肩の息をならしたレイナが、剣を鞘におさめた。
「さすがS級冒険者だ。やるな」
「いやいや! ワイバーンのほとんどは、シゲルが討伐してしまったじゃないか!」
「細かい事は気にするな。どうだ、なにか得るものはあったか?」
「え、ええ……なんか色々すごかったわ。あたしの常識が壊されたっていうか。ちょっとまだ整理できないけど……」
まあ自ら同行したいといってきた彼女のことだ。なにかしらの想いがあってのことだろう。
悩むのも、考えるのも、好きにすればいい。
「前よりも良かったぞ」
「え……前って、ドラゴンと戦っていた時かしら?」
レイナの真っ赤な髪がわずかに揺れる。
「ああ、体のきれが前よりいいかんじだったな」
「え、ええ! そうなの! 体が軽いし、充実しているわ。シゲルのご飯を食べてからかも」
「そうか、そりゃよかった。飯を作ったかいがあるってもんだ。さあ、食堂に戻るぞ」
「ええ、わかったわ。シゲル」
照れたように頬を赤らめつつも笑うレイナ。
「さてと。じゃあ今日はワイバーン肉を使った唐揚げだな」
麗しき美人剣士の耳がピクッと反応する。
凄い勢いで、こちらに詰め寄って来るレイナ。
「し、シゲル! か、からあげってなに! ねえ、なんなの!(じゅるり)」
「ははっ、まあ食堂に帰ってからのお楽しみだ」
「は、はやく帰るわよ! シゲル、はやく!」
俺は食に貪欲になった女剣士とともに、帰路につくのであった。
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