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第36話 女神さま降臨、そして――――――じゅるり

 ド田舎食堂の店内を眩い光が埋め尽くした。

 まるで真昼の太陽が天井から降りてきたかのように―――


 金糸の髪、透き通るような白い肌、そして淡く輝く羽衣。

 その全身から神々しい光を放つ女性が店内に降り立った。


「ちょっと!! 大事な神棚になにしてくれてんのよアンタらぁ!!」


 怒鳴ってるのに神々しい。

 いや、神々しいのに怒鳴ってる。

 どっちでもいいが、存在感が強烈だ。


 この感じ……ああ……久しぶりだな。

 間違いない。俺を異世界に転生させてくれたあの女神さまだ。


「め、め、女神様って。ど、ど、ど、どういうこと、シゲル!」

「ふぁああ~~~て、て、店長~~! お二人ともキラキラしてますぅぅ~~!」


 レイナは完全に硬直、コレットはテンション上がってぴょんぴょん飛んでる。

 んでロメリーはというと……


「%&②ぁあウ!めがァ?!$さむぁぱぁ~~&%!!!」


 ダメだ、なんか目が見たこともないマークになってる。

 とりあえず、彼女はそっとしておいてと。


 俺は目の前にいる超絶美人さんに対してコック帽を脱ぎ、頭を下げる。


「ふふシゲル君、ひさしぶりね。元気そうでなによりだわ」

「ああ、おかげさまで好きなことをやらせてもらってる。ところで、そちらも女神さまなのか?」


 女神さまの隣にもう一人。光に包まれた別の美女がいた。

 こちらは銀髪の穏やかな雰囲気だが、目がやや鋭い雰囲気を醸し出している。


「ええ、この子は女神アスタよ。私の腐れ縁で食べ友なのよ」

「ちょっ、グラティア! なんて紹介の仕方するのよ!」


 ……なるほど。グルメ友達か。

 もうちょっと女神らしくしなさいと起こる銀髪の女神と、ごめ~んとてへぺろする金髪の女神。

 仲の良い食べ友のようだな。


「アスタもシゲル君の料理を気に入ってるの。でもさ~私の分なのに横からつまみ食いするのよ~」

「はあ? ちょ、ちょっと、余計なこと言わないでよ!」


「おお、マジか。そいつは知らんかった」


 俺の知る女神さま以外にも、俺の飯を贔屓にしてくれるやつがいるんだな。

 いいね、なんか嬉しいわ。


 そんな会話を続けていたら、緑の髪が俺の視界に入ってきた。目が正気に戻ったロメリーだ。


「な、なんで女神様と普通に会話してるんですか、シゲルさんっ!?」

「ちょっとした知り合いだからな」

「そんなご近所さん感覚で、女神様と知り合わないんですよ!?」


 ロメリーが突っ込みを入れる横で、レイナとコレットも頷いている。


「さすがシゲルね……」

「店長の無茶苦茶はブレないですぅ~~~」


 そう言われてもな。

 女神さまは俺が転生したってことは伏せてくれてるようだし。知り合いってのは嘘じゃない。


 いや、俺だって驚いたんだぞ?


「フフ、せっかく下界にきたんだから、シゲル君ともう少しおしゃべりしたいとこだけど……ちょっとそれはあとね」


 女神グラティアが、くるりとその綺麗な顔をうしろに向ける。

 大司教ドロスたちを見た瞬間、その瞳が冷たい光を帯びた。


「さてと……私の大事な神棚に手を出そうとした不届き者たちを、どうしてくれようかしら」


 女神の指先が軽く動いた、その瞬間―――


「はうぁぁあああ! す、すべての魔法陣が崩壊していくぅうう!!」


 大司教ドロスの叫び通り、教会の面々が展開していた魔法陣が次々と音を立てて砕け散る。

 こりゃすげぇ、さすが女神さまだ。


「属、属性鑑定……属性多数、鑑定不能っ!」

「魔力サーチ……じょ、上限突破っ! 測定できませんっ!」

「だ、大司教さまっ! 最上級鑑定魔法でも未知の反応! これは……もはや神の力かと!」


 取り巻きたちが女神さまに鑑定やサーチをかけたようだが、どれも想定外な結果になっているようだ。


「ななななな、なぁあああっ!!」


 大司教が死んだように青ざめて、その場でひれ伏した。

 取り巻きたちも雪崩のように土下座をはじめる。


「め、女神グラティアさまの聖域とは知らず、と、とんだご無礼ぉおお……!」


「まったくもう、あんたたちがグダグダするから、神棚にご飯が来ないじゃないの! 私、ずっと楽しみにしてたのに!」


 怒るところがそことはな。

 この女神さまは本当に俺の飯を気に入ってくれてるんだ。

 こりゃ最高の誉め言葉だぜ。


「ご、ご飯? あ、あの……女神様はお食事を取られるので……?」

「当たり前でしょ! 私、シゲル君のご飯が大好きなんだから!」


 女神が胸を張って言い放つ。

 そのあまりの堂々っぷりに、教会の連中は圧倒されていた。


「し、シゲル殿……とは? 女神様がご贔屓にされるとは……どこぞの有名宮廷料理人なのでしょうか?」


「どこぞもなにも、あんたの目の前にいるでしょうが! どこに目ついてんのよ!」



「「「「「えええええ!! このおっさんがぁああああ!?」」」」」



「だ、だが……確かに聖女ロメリーもシゲルと言っていたような……」

「まさか、こんなおっさんが女神様の寵愛を受けているというのか……!」

「よもや女神様は騙されているのでは!?」


 ふたたびどよめきが起きる。

 だが、女神の声がそれを吹き飛ばした。


「ちょっと! 私のシゲル君になんか文句あるわけ?」


 ピーーンと張りつめる空気。

 誰も息を呑めない。

 いかなる声よりも、冷たく鋭い声が店内に響いた。


「あんたたち、勝手に押しかけてきておきながら、シゲル君への敬意が足りてないんじゃない? さっきの神棚の件と言い、やっぱりお仕置きが必要なようね」


 女神さまがパチンと指を鳴らすと、光る槍がスーっと出てくる。

「さあ、一度苦行を味わってきなさい」と言いながら、光る槍を構える女神さま。

 光りがより強まり、強烈な力がその槍に集約されていく。


「ひぃいい~女神様がお怒りだ~~!」

「逃げろぉ~~~!」

「死んじゃうぅ~てか死んだぁ~~」


 パニックになる店内。窓から無理やり逃げようとする者。その場で祈りをはじめる者。テーブルを持ち上げて盾にしようとする者。

 そんな大混乱にもかかわらず、無情にもブンと振り降ろされる光の槍。


 が……その一撃が店内で炸裂することはなかった。



「こら、店内で暴れるな」



 出刃包丁で女神の槍を受け止めながら、俺は双方ににらみを利かせた。


 女神グラティアがピタッと止まり、その美しい金髪がフワっと揺れる。


「女神さま。とりあえずケンカやめて、席に着いたらどうだ?」

「シゲル君……」


「う、ウソでしょ……グラティアの一撃を包丁で止めるって」


 そんな様子を見守っていた女神アスタが苦笑する。


「でも……まずはシゲちゃんの言う通り席につきましょうかグラティア」

「そうね、ちょっと大人げなかったわ。ごめんね、シゲル君」


 ああ、わかればいい。

 そして俺は床に這いつくばっている教会連中にも声を掛ける。


「あんたらもだ」


「ふはぁあああ……女神様の一撃をほ、ほ、ほ包丁でぇえええ」

「なんなのだこのおっさんは? 元勇者か? いや勇者といえど……」


 そんなことはどうでもいい。



「いいから座れ。ここは食堂―――飯を食う場所だ」



 店内にいた全員が、一瞬ぽかんとしたあと―――


「「「「「は、はひいっっ!!!」」」」」


 きれいなコーラスで返事をした。

 大司教まで椅子を引いてピンと背筋を伸ばしている。

 なんだこの光景。


 さて、ようやく落ち着いたな。


「わぁ~~いっ! シゲル君の食堂でご飯よ~~~っ!」

「ちょっ……テンション上がりすぎよグラティア……」


 テーブルでキャッキャしはじめる女神さま。

 よしよし、客の期待も温まってきたようだ。これでこそ作りがいがあるってもんだぜ。


「ふふっ、シゲル君。今日はなにを食べさせてくれるの?」

「たしか昨日はナイトコカトリスを狩ってたわね」


 ほぅ、下界のことはある程度見ているのか。

 俺は魔導冷蔵庫をあけて、食材の確認をした。


 ナイトコカトリスの肉も使うが……まだクラブロードの身がけっこう残っているな。

 よし、決めた!


「よっしゃ、今日は大人数だし鍋だな」


「「鍋!?」」


 2人の女神が同時に声を発する。


「そうだ、ナイトコカトリス(鳥)とクラブロード(カニ)をふんだんに使った寄せ鍋だ」


「「なにそれ!?(じゅるり)」」


 女神は二人そろってじゅるりした。


 よしよし、これは最高の鍋を作ってやらんとな。


【読者のみなさまへ】


第36話まで読んで頂きありがとうございます!

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※本作はカクヨムにて先行公開中です。


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