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第33話 ナイトコカトリスの焼き鳥(ネギま:タレ)

 ふぅ~~ひと仕事終えたあとの夜風は気持ちいい。

 森の中は静かで、焚き火のぱちぱちとはぜる音がよく響く。


 そんな火の影にうつる2人の美少女、レイナにロメリー。彼女たちは討伐目標であったナイトコカトリスをきっちり仕留めた。

 食堂に帰ったらこの食材を使ってやりたい料理はあるが、まずは頑張ったこの子達へのご褒美が必要だ。


 つまり……ここからが本番。


 そう、調理タイムだ。


「レイナ、ロメリー。とりあえず応急処置終わったか?」

「ええ……終わったわ……」


 レイナがぐったりと腰に手をあてて座り込んでいる。

 が、その視線だけは常に俺の一挙手一投足を捉えていた。いまから始まるであろうことを見逃さないという強い意志を感じる。


「ふふぅ~~やきとり……勝利のご飯……です……」


 ロメリーは力なく笑っているが、目だけがキラッキラしている。

 魔力は尽きたはずなのに聖杖がいまだに光っている。「ちょっと興奮しているだけだから大丈夫です」とか言ってたが、彼女の翡翠色の目は確実に俺の動きを追っていた。


 二人とも疲労でヘロヘロだが―――

 食欲は元気そのもののようだ。


 よしよし。


「じゃ、作るとするか。急ごしらえの夜食だし、シンプルにねぎまのタレでいくぞ」


「「ねぎま!!」」


 おお、息ぴったりだな。

 肉に飢えているのだろうか、好感がもてる声色だ。


「「ってなに?」」


「まあ焦るな、じきに何かわかるさ」


 そう言って2人をなだめると、まずは足元のちょうどいい石を集めてどっしりとした土台を組む。

 中心に熱の芯が残るように焚き木を崩し、炭火がじわりと周辺を赤く染める。


 チリ……チリ……


 よし……いい火加減になってきたな。

 野外で炭火とは最高じゃないか。俺は上機嫌で土台の上に網を置く。


 次にまな板と長ネギをサイドマッジクポーチから取りだして、幅を調整しつつ切っていく。トントンと子気味よいリズムを奏でながら。


「さて、次はナイトコカトリスのもも肉だな」


 余分な脂をとりのぞき、口に入れた瞬間に旨味が爆ぜるようひとくち大の大きさに切り分けていく。

 包丁をスッと肉に入れていると……


「じゅるり……」


 ロメリーか。


「ちょっとロメリー殿、唾が垂れそうよ……」

「う……すいません……でもぉ……レイナさんも垂れてますぅ」

「え? ち、ちがっ……! あたしはただ……唾液が、その……勝手に……」


 よしよし、じゅるりと期待が高まっているようだな。


 まあひと仕事のあとの食欲には抗えん。わかる。

 さてと、俺は作業に集中だ。


 ひと口大に切り分けたナイトコカトリスのもも肉を酒と塩こしょうで揉み込み、臭みと雑味を抜く。

 そしてタレ作り。

 今回タレはシンプルに醤油・みりん・ザラメだけでいく。みりんを火にかけ酒分を飛ばして醤油を合わせ、適度にザラメを入れる。


「なにこの……甘じょっぱい香り……っ!(じゅるり)」


 レイナの肩が震えてる。


「はふぅぅ……シゲルさんは本当に罪深い……(じゅるり)」


 ロメリーはもう魂がぬけかけている。


 さてさて、お次は串打ちだな。

 ナイトコカトリスの肉、長ねぎを交互に竹串に刺していく。


「ただ刺してるだけじゃん……のに、なんで……こんなに美味しそうなの?(じゅるり)」

「な、なんという完成された美なのでしょう……(じゅるり)」


 料理は見て楽しむってのもあるからな。

 2人の期待がより高まってきたとろで……


「よし、焼くぞ」



「「きたぁああああああ!!」」



 うるせぇ……だが、期待通りの反応だぜ。


 まずは強火だ。だが遠火。

 最初に表面をじゅっと焼き固めて、水分を閉じ込める。


 そして表面を焼き固めたら、タレを数回にわけてつけながら焦げ付かないようにじっくり火を通す。

 クルリと串を回して、ゆっくりじっくり。


 ジュウゥゥ……ッ


 タレが炭に落ち、炭がそれを吸ってまた香ばしくなる。

 この循環こそが炭火焼きの真骨頂。においにつられてさらに顔を寄せる2人。


 レイナは、頬に手をつけてうっとりと眺めている。

 ロメリーは両手を合わせて祈り出した。


 じゅわ……


「っっっ……!!(じゅじゅり~)」

「っはぁぁぁぁ……!!(じゅじゅり~)」


 俺はなんどかタレを塗り、焦げ付かせないよう細かく返す。

 最後に串を網の端に寄せて休ませる。しっかり火が通ったところで……


「ほいっと―――ナイトコカトリスの焼き鳥(ネギま:タレ)おまち!」


 俺は串をそのまま2人手渡した。

 待ってましたとばかりに、じゅるっとヨダレをすする2人。

 さっきの戦闘より真剣な顔で串を手に取る女剣士と聖女。


「「い、いただきます……」」


 一口。


 ぱくっ!


 まずねぎの皮が軽く弾ける音。

 続いて、じゅわぁっと肉汁が口の中で広がったのだろう。


「きゃっ」「ふあっ」


 声が揃う。


「っ……っま……っっま……!!」

「な、なな……ん……これは……!?」


 うむ。いい反応だ。


「肉の旨味が濃い……けど脂がしつこくない……」

「タレとお肉が澄み渡ってるうえにおネギのシャキサッパリな……」


 その言葉を最後に、無言で串を頬張り始める2人の美少女。

 よしよし、気にってくれたようだな。

 こいつは鶏肉のなかでも上物の部類だ。調理によっていろんな味になる。


 俺は焼き上がったおかわりを2人に渡していく。

 彼女たちの手元には、食べ終わった竹串がどんどん重なっていった。


 ……こういう瞬間が、たまらんな。


 焚き火の赤が肉を照らして、二人の頬まで染めていた。




 ◇◇◇




 ◇女神視点◇


「ああぁあ! 今日は神棚のお供え遅いなぁって思ってたら~~シゲル君、外で食べてるぅう! プン!」


 私は女神グラティア。

 異世界に転生したシゲル君の担当女神だ。


「そりゃ外にも出るわよ。ずっと食堂にいるわけないでしょ」


 よこからツッコミを入れたのは、私の親友にして腐れ縁の女神アスタ。


「でもでもでも~~今日の私のぶんはどうなるの! プン!」

「知らないわよ……あんた一応女神なんだから、ちょっとはわきまえなさい」

「やだやだ~~今日も食べるぅうう~」


 まあアスタの言う通りなんだけど……もうシゲル君の料理を食べちゃたら、そんな理屈は通らなくなるのよね。


「にしても、シゲちゃんの料理。やっぱりバフ効果があるみたいね」

「ええ、この聖女の子にも?」


 アスタが直近の過去記録を見ながら、顎に手をあてる。

 シゲル君の料理に、私たち【女神のオマケ】が付与されていることは前回の調査でわかっている。

 食べた者には僅かばかりだが、なにかしらのバフがかかるようだ。


「たしかに石化を自力で解除とか。普通ないわぁ……」

「たぶんシゲちゃんの料理を食べまくって、この子の魔力と健康度がグングン伸びているのが原因かしら」


 ええぇえ……【女神のオマケ】が調理でさらに進化しちゃっているってこと?


「ま、もうあんまり驚かないけど。シゲル君ならなんでも調理しちゃいそうだし」

「そうね、わたしたちは美味しいシゲちゃんのご飯を食べられればね」


 そうそう、もうシゲル君のご飯が第一優先事項なのよ。

 彼は転生先で楽しんでいるようだから、女神としての役割は果たしているし(たぶん)。

 食堂に戻れば、きっちりお供えしてくれるはず。楽しみがちょっと先になっただけだから。私は女神だから我慢できるもん。


「にしてもなに、食堂の方もなんか騒がしくなっているようね」


 あ、ほんとだ。シゲル君が帰ったら、なんか一悶着ありそう……


 私のお供え、また邪魔されちゃうのぉおおお。 


 やだぁ~~。


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