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第3話 美人女剣士レイナ、かわいくおなかをならす

 俺はドラゴンの肉片を回収すべくマジックサイドポーチを開いた。すると、巨大な肉の塊たちはスルスルとその袋に収納されていく。

 いやぁ~~想像以上に良い食材に出会えたぞ。

 俺がウキウキしていると、後ろから声がした。


「あたしはレイナよ。そ、その……た、助けてくれて……感謝する」

「ああ、別についでだったからな。気にするな」


 少し落ち着いたのか、顔に締まりが戻って来た女剣士。


「あんた、名のある冒険者なの?」

「んん? ああ、俺はシゲルだ」

「シゲル……聞かない名前ね。いったい何者?」

「え、料理人だけど。メタリノって町で食堂をひらいている」


「りょ、料理人!? ウソでしょ。包丁でドラゴン討伐してんのよ……まさか偽名で活躍する、影のすご腕高ランク冒険者なのかしら!」


 勝手に興奮しだす女剣士レイナ。

 さっきから感情の起伏が激しい奴だな。


「いや、冒険者登録は一応しているが。ランクはたぶんEとかじゃないのか」

「Eランクって……ぜったいあり得ないんだが! シゲルの実力ならばS級いや、それ以上を望めるわよ!」


 凄い剣幕でまくしたててくるレイナ。

 そう言われてもな、そんなん興味ないし。冒険者は食材(魔物)集めと開店資金を稼ぐためにやってただけだから。


「そういうレイナはどうなんだ? なかなかの腕前に見えたがな」

「あ、あたしの冒険者ランクはSランク……」


 ほう、S級冒険者か。これは凄いな。レイナの話によれば、最年少の18歳でSクラスに昇格したばかりらしい。

 そして今回の討伐クエストを受注して、こんな辺境の山奥まで来たようだ。


「でも……レッドドランゴンの討伐クエストは失敗よ」


 ガックリと肩を落とすレイナ。どうやらクエスト難易度の目測を見誤ったのか。

 じゅんぶん素質はあると思うがな。単に調子が悪かったのかもな。

 まあ言いたくない事情もあるのかもしれんし、なにより―――


「さて、はやく戻らんと。まかないの時間に間に合わん」


 ドラゴンの肉片はすべてマジックサイドポーチにおさまった。

 では行くか……と一歩踏み出そうとした時……


 クゥ~~


 レイナの腹がかわいく鳴った。


 俺たちはしばらく無言で見つめ合う。


「なあぁあ! こ、これは違う! こ、こっちを見るな!」


 さきほどまでの凛々しい剣士はどこへやら、彼女の頬が見る見るうちに朱に染まりはじめた。


 なるほど、これが不調の原因か。


 腹をすかして戦闘など、言語道断だよ。


「よし、レイナ。おまえも食ってくか」

「え? なにを?」

「俺のド田舎食堂で飯を食わせてやると言ってるんだ。腹減ってんだろ?」

「え、えっと。でも……」

「まあ俺が作りたいだけだから、遠慮はいらん」


「じゃ……じゃあ。お邪魔させて頂くわ……」


 困惑と僅かな期待が入り混じったような表情で彼女が顔を上げた。腹減ったら飯を食う。とりあえずやることはそれしかないからな。


「安心しろ、死ぬほどうまいの食わせてやる」

「ほ、ほんとうかシゲル!」


 パアっと花咲くような笑顔になったレイナ。

 よしよし、素直な感情でよろしい。食は誰にとっても大事なもんだ。


「んじゃ、走るぞ。いけるよな?」

「え? 走るって……たしかメタリノって馬を飛ばしても1日以上はかかる……」


 俺は食材を探しまくってたら、勝手に足腰が鍛えられていた。

 だから馬なんかより走った方がいい。それに彼女もS級冒険者、この程度なら余裕だろう。



「なあシゲルさすがにこの距離は――――――ってもう走ってるしぃいいい! 速すぎるしぃいいい! なんなのよこのおっさん!!」




 ◇◇◇




「コレット、戻ったぞ~~」


「あ、その声は店長ですね~おかえりなさ~~い」


 俺が店につくと、元気な声が店内から返ってきた。

 店の引き戸がガラガラという音とともにひらき、栗色の髪がふわりと揺れる。


「食材は確保できましたか~♪」

「ああ、もちろんだ」


 俺がサムズアップで返すと、その琥珀色の瞳をキラキラさせるコレット。


「最高の獲物が獲れたぞ」

「わぁ~い、まかない楽しみですぅ……って、え?」


 その看板娘の笑みが一瞬で消えた。



「―――ひぃいい! て、店長が美人騎士さまを狩ってきたぁああ!!」



 コレットが俺のおぶっている女剣士レイナを指さして、あわあわしはじめた。


「わぁ~~ん、ここは美人美少女専門奴隷落とし裏グルメ専門店だったんだぁ! みかけは閑古鳥が鳴いてるしがない田舎店を装って、裏ではヤバいことしてる闇組織なんだぁ~~」


 なんだその極悪クソ野郎施設は。

 想像力が豊かすぎるぞ。


「グスン……裸エプロン着させられるんだ。ノーパンで接客させられるんだぁ」


 いや、そんなんしないから。てか、その知識はどっから仕入れたんだよ。


「何を勘違いしているんだコレット。この子は客だよ」


 そう、俺が走り出したらまったくついてこなかったので、しょうがなくおぶってきたのだ。

 普段の力が出せないぐらい腹が空いてるんだろう。


「ええぇ……でも気絶してますよ」


 気絶っていうか、こりゃ寝ちゃってるな。


「おい、レイナ着いたぞ」


 俺は彼女を客席に降ろすと、彼女の肩をかるく揺さぶった。

 瞼が開かれて、その赤い瞳がぼんやりとこちらに向けられる。


「え……ここは?」

「俺の店、ド田舎食堂だ」

「あたしは……たしか途中からシゲルにおぶられ……っ!!」


 一気に顔面を真っ赤に染める女剣士。

 まあ、そこは勘弁してくれ。こんなおっさんにおぶられるとか嫌かもしれんが、レイナに合わせていたらまかないの時間に間に合わんからな。


 そんな俺とレイナの様子を、ジト目でみてくるコレット。


「ふぅ~ん。なるほどなるほど、これはやはり狩ってきたのかもですね~」


 だから違うというに。


「コレット、食材を魔導冷蔵庫に入れるから手伝ってくれ」

「あ、はぁ~い。やった、なんか仕事らしい仕事やっときた~」

「待たせて悪かったな。うまい飯作ってやるから」

「やた~~店長が戻って来た時は心臓が飛び出るほど驚きましたけど、もう大丈夫で~す♪」


 ルンルンでスキップしている美少女の前に、さきほど狩ったばかりの食材をマジックサイドポーチからドカドカっとだした。


「よし、ちゃっちゃとやって調理にとりかかるぞ。頭はまるまるだから俺が運ぶ、尻尾は輪切りにしてるから、積み重ねて入れてくれ」


 にしても……くはぁ~~やっぱ上物だなぁ~

 俺は食材を手にして、ウキウキが止まらなくなってきた。


「って、あれ? おい、コレット。なにボーっとしてるんだ?」


 コレットが棒立ちで口をぽか~んと開けていた。

 そのぷにっとした頬をつついてみる。


 すると―――



「ひぃいいいいい! 本当にドラゴン狩ってきたぁああ! なにこの人ぉおおお!!」



 けっきょく驚くのかよ。


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