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第24話 おっさん、女剣士からお土産をもらう

 昼前のド田舎食堂に懐かしい声が響いた。


「う、うまっ! こ、これ、これこれ。この味よっ!!」


 カウンター席に座るレイナが、ものすごい勢いでかつ丼をかき込んでいる。

 ……勢いがすごすぎて、ちゃんと噛んでいるのかも怪しいぐらい。


 箸がまるで風のように動き、どんぶりが空になる速度は前世の駅構内の立ち食いそば屋並みだ。

 ただ違うのは、かき込んでいるのがスーツ姿の営業マンじゃなくて、麗しき女剣士だということ。


「はっ!……シ、シゲル。な、なんか、我慢できずに一気に食べてしまったわ……!」


「いいんだよ。ありがとな、レイナ」


「え? ええ! すっごく美味しかったわ!」


 口元を拭きながら、照れくさそうに笑うレイナ。

 よしよし、やっぱりこの女剣士の食いっぷりは豪快で気持ちがいい。


 俺の味を気に入って、また戻ってきてくれる―――

 それだけで、料理人としては最高の報酬だよ。


「そうだ、忘れていたわ!」


 突然レイナが腰のマジックポーチをがさごそと探り出した。


「おみやげ、あるのよ。王都からの! はい、これはコレットに」

「おみやげ!? わぁ~~うれしいですぅ!」


 隣でコレットがぴょんと跳ねる。


 レイナは布包みを取り出して、コレットに手渡した。

 可愛いリボンの付いた小袋。

 コレットが開けた瞬間―――さらに彼女はぴょんぴょん跳ねた。


「ひゃ~~かわいい~~♪」


 コレットが手にしたのカチューシャだった。中央にかわいらしいリボンがちょんと付いている。

 さっそく小さなあたまにカチューシャをつけて、くるくると店内を躍るコレット。


「ほう、似合っているじゃないかコレット」

「ああ、かわいいなコレット」


「レイナさんありがとうです~!」


 店内を躍りまくるコレットをみて微笑むレイナだったが、再びマジックポーチをガサゴソしはじめた。

 俺に視線を向けた彼女は少し緊張したよううな、照れたような感じで口を開く。


「で、シゲル。あんたにもあるの」


「俺にも?」


「う、うん……よければ受け取って」


 彼女から差し出されたのは、真紅のコックネクタイだった。


「そ、その……シゲルはいつもコックコートだから。まぁ、その……似合うかなと思って」


 照れ隠しなのか、レイナは目線を逸らしている。


「おう、ありがたく頂くよ、レイナ」


 いいやつだな……手触りからも上等なものだという事が分かる。

 さっそく俺はその場で首に巻いてみた。

 白い調理服に赤か……けっこう映えるし、これはこれでいいな。


「わぁ~~店長、いい感じですよぉ! タイをつけるとよりカッコ渋いですぅ~」

「お、そうか。いいなこれ」


「よ、よかったわ……気に入ってくれて。正直これでいいのか分からなかったのよ。シゲルのことだから、調理服のこだわりとか厳しそうで……」


 安堵の息を漏らすレイナ。

 なるほどな、いろいろ気をつかって選んでくれたのか。


「おれは服については、清潔であればそれで良いからな。とくにこだわりはない。うん―――いいコックネクタイだ。気に入ったよ、レイナ」


「そ……そうか、うん」


 レイナの顔が、ぱぁっと花咲くように明るくなった。

 その笑顔は、彼女の素がにじみ出たような顔だ。


 いい顔をするようになったな。


 そんな穏やかな昼下がり、店の戸口から声が響く。

 どうやら郵便物が届いたらしい。


「わぁ~~新聞以外の郵便が届くなんて~! なんだろ~うちにも「出店してください」の依頼だったりしてぇ~♪」

「そんなわけあるか」


 俺が笑いながら答えると、コレットは受け取った郵便物をどさどさとテーブルに置いた。

 おいおい、すげぇ量だな。


「え、なんですかこの封筒? なんか全部に十字架ついてますぅ~! もしかして店長の悪事がバレたんですかね? あ、それとも家賃滞納の督促?」


「おい、俺はなにもしてねえぞ。そもそも持ち家なんだから家賃とかないからな」


 ま、実はローンが少しばかりあるけどね。それはさておき。

 この紋章はたしか……


「そ、それ! 大教会本部の紋章です!」


 奥の席にいたロメリーが、緑の髪を揺らして駆け寄ってきた。


「なるほど……たしかに、宛名も全部ロメリー宛だな」


 俺が確認すると、ロメリーは青ざめた顔で手紙の束に視線を落とした。


「ふぁ~~一躍有名店になったのかと思いきや~甘くなかったですねぇ~店長!」

「そんな手紙が来るわけないだろ」


 俺は今のこのド田舎食堂がちょうどいいんだ。

 好きな時に料理して、客の笑顔が見られればそれで充分。


 だが、そんなことよりも。

 ロメリーの顔色は冴えない。


「それ、教会からの仕事依頼じゃないのか?」

「は、はい……たぶん、そうです」


 たく……この子、まだあと一か月は休みのはずなのに。

 居場所を突き止めてまで仕事を押しつけるとは。

 ―――やっぱり、この子の職場環境は想像以上に過酷だな。


「大丈夫か、ロメリー?」

「だ、大丈夫です。あの……とりあえず中身を見てみます」


 その小さな声に、俺がうなずいた時だった。

 カウンターから事の成り行きを見ていたレイナが、ロメリーの顔をじっと見つめて「あっ!」と目を見開いた。


「えっ!? もしかしてロメリー殿? 聖女ロメリー殿なのか!?」


「え? あなたは……! どこかでお見かけしたことがあると思ったのですが」


 ロメリーもレイナの顔をマジマジと見て、「ハッ」と気づいた素振りをみせる。

 お、2人は知り合いなのか?


「もしかして――――――深紅の美麗剣士、レイナ様ですか?」


 んん? 


 なんだって?


「「深紅の美麗剣士!? だれそれ!?」」


 俺とコレットの声が、見事にハモった。


「ろ、ロメリー殿! その呼び方はちょっと……」


 レイナが顔を赤くしてテーブルに顔を伏せた。


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