第10話 ドラゴン肉のリブロースステーキ~ジャイアントトレントの炭焼き~
俺とレイナはド田舎食堂に帰ると、すぐさま食材の搬入にとりかかった。サイドマジックポーチからドカドカと取り出されるドラゴン肉の赤々とした塊が店内を支配する。
よしよし、こりゃ上物だぞぉ~~。
そこへ可愛らしい足音が近づいてきた。
我が食堂の看板娘コレットが俺たちの気配に気づき、店の奥から出てきたのだ。
「あ、店長、レイナさ~ん! おかえりなさ……
ひゃぁああいい~~~~っ!? て、店長がまたドラゴン狩ってきたぁぁああ!!」
店の天井までひっくり返るような絶叫。
彼女は顔を引きつらせ、ガタガタ震えながら俺を指差した。
「や、やっぱり店長って裏社会の住人なんだぁ~~~! 次は私も闇市に売られるんですかぁ!? けっこう可愛いから高値がつきますよぉお!」
こら、自分で高値とか言うなよ……
「誰が売るか。俺じゃない、これを狩ったのはレイナだぞ」
「ふぁ~~っ! レイナさん!? す、すごすぎますぅ!!」
「こ、コレット、そんなに騒ぎ立てなくても……あたしはシゲルについてって、たまたまドラゴンに遭遇しただけで。随分と苦戦もしたんだ」
「でもでも~、ソロでドラゴン討伐なんて~~やっぱりレイナさんはかっこいいですぅ~」
なんか俺の目の前で、美人剣士と美少女ホールのわちゃわちゃが始まった。さっきまで俺を裏社会者扱いしてたくせに。
俺は腕を組み、むっと眉を寄せた。
「おい、なんか俺の時と反応違くないか?」
「だって、レイナさん凛々しくてかっこいいS級超美人剣士ですから! 店長は……えっと、普通のコックさんに見せかけて、とんでもないことしちゃうから……そりゃ反応バグりますよ」
いや、俺は料理人以外の何者でもないんだが。
「コレット、俺だって最高の枝を確保してきたんだぞ」
「えだ……? ですか?」
首をコテンと傾げるコレット。
ふっふ~ただの枝じゃないぞ。見せてやろうではないか、今日の成果を。
俺はサイドマジックポーチから、ジャイアントトレントの枝をドサドサっと一気に出した。
「ひぃいい~~なにこの量!? 山ごと刈ったんですか!? これ、森の守り神とか怒らせるやつですよぉ!」
「字が違う。刈ったじゃなくて狩っただ。燃やして炭を作る最高の枝なんだよ。
これで、最高のドラゴンステーキを焼いてやる」
俺の言葉に、琥珀色の瞳がぱあっと花咲くように開いていく。
「ふはっ! 今日はステーキですか!? やた~~楽しみぃ~ワクワク~~っ♪」
さっきまで裏社会だの売られるだの喚いてた顔が、一瞬で満面の笑みに切り替わる。ほんとこの子の頭ん中どうなってんだ。ま、嫌いじゃないがな。
てなかんじで、今日のコレット劇場は無事に幕を下ろした。
俺は食材を厨房へ運び込み、手を洗いながら心を切り替える。
「さてと―――やりますか」
◇◇◇
まずは炭焼きの準備から。
「店長~~七輪2つ持ってきましたよ~」
「よし、コレット。そこへ並べてくれ」
俺は七輪にジャイアントトレントの枝を丁寧に入れていく。
枝にはじゅうぶん火が入って、ほどよい炭火に仕上げてある。
「シゲル、なぜ七輪を2つ用意するんだ?」
「そうそう、それ私も思いました~」
レイナとコレットが同時に俺に視線を向けてきた。
俺は芯が真っ赤になっている熾火状態の炭を七輪に入れながら、彼女たちに答える。
「ああ、これは火力調整のためだ」
「火力調整……ですか店長?」
「そうだ。炭は魔導コンロのように瞬時に火力を変えることは難しい。だからあらかじめ異なった炭の量を入れた七輪を用意するんだ」
「そ、そうなんだ。あたしは肉なんて同じ火で焼くだけかと思ってた……」
まあ野営や一般家庭ならば、ここまでしない事の方が多いだろう。
だが、それでは最高のステーキには仕上がらない。
「2人にはうまいステーキを食べて欲しいからな」
その言葉を聞いた途端、レイナとコレットの小さな口から一筋の雫が垂れた。
ははっ、期待してくれてるってことだよな。こりゃさらに燃えてきたぜ。
「さて、次は主役のおでましだな」
俺が準備したドラゴン肉をまな板の上に置く。
今回使用する部位はリブロースだ。肩ロースとサーロインの中間に位置する部位。程よく脂がのっており肉質も良い、肉そのものを楽しむのに適している。
すじ切りをして、形や厚みを整える。
整えることで焼き色火の通りが均一になるし、なにより仕上がりの味や見た目が違うからな。
ステーキはステーキでなきゃいかん。見た目はかなり重要だ。
最後に塩と黒胡椒をふって、これで下準備は完了だ。
「ほあぁ……綺麗なお肉」
「し、シゲル。こ、これすごいな(じゅるり)」
なにやらカウンター越から熱い視線を感じつつ、俺はドラゴン肉を網にのせる。
―――瞬間、「ジュウッ」と鋭い音が立ち、肉が一気に焼き締まる。煙とともに脂が炭へと滴り落ち、香ばしい香りが立ち上った。
まだだな……俺は肉を動かさない。わずかに首を傾け、耳で音を聞き分けている。脂の爆ぜる音が一定に落ち着いたころ、素早くトングを入れて一度だけ反す。焼き目は格子状にくっきりと浮かび、深い焦げの香りが肉の甘さを引き立てている。
「ひはぁ……網目ぇ~格子状の網目ぇ……(じゅるり)」
「しゅ、しゅごい。に、においが……(じゅるり)」
より顔面を接近させる、美少女看板娘と美人剣士。
2人の語彙力はグングン低下していく。
肉の表面と側面にかるく油を塗る。
これでステーキ表面の乾燥や焼きムラを防ぐことができるからだ。
「―――さて、そろそろか」
俺はドラゴン肉をもうひとつの七輪へと移す。中火の炭から弱火の炭へ。保温状態で3〜5分ほど休ませませる。
お肉を休ませることで、旨みのもとである肉汁が循環しステーキの中にとどまる。肉を柔らかく保つことができ、ジューシーで柔らかな食感に仕上がるのだ。
その弱火の仕上げも終わり……
「よし、待たせたな2人とも」
焼き上がった肉を熱々の鉄皿に移す。ジュウ、と最後の音を立てながら、肉汁が皿の表面に広がっていく。香りは濃厚、だが重くはない。外はカリッと、中はしっとりと赤みを帯びたまま。
「ドラゴンリブロースステーキ―――おまち!」
カウンターに座る2人へと皿を静かに置く。
「……(じゅるり)」
「……(じゅるり)」
ちょっと待たせすぎたか……もうじゅるりしか言わなくなってしまった。
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