3話 迎合
「じゃあな。今度は捕まんなよ」
そう言われて俺は詰所から解放される。時間にしてまだ昼の時間だ。
今日は玩具屋に行くつもりはなかったが、行かざるを得ない状況になってしまった。
というのも、あの兵士から言われた『リヒト』のメンバーが玩具屋を尋ねにくるとのことだからである。
「はあ、目立たない様に生活しないといけないのに」
本来ならば禁具を製造する趣味を持っている俺はレジスタンスとかいう目立つ集団に関わらないようにするべきだ。
しかしあの状況では背に腹は代えられなかった。
『リヒト』のメンバーになれば死刑にはしないと言ってくれたから。
俺は玩具屋へ着くとすぐさま開店準備を始める。
昨日売れた分は新たに作った玩具を補充する。
「よし、これくらいで良いか」
そう呟いて俺は店頭に立つ。
それにしても帝国も意外とガバガバなんだな。
あの兵士、リヒトのメンバーではないが、協力関係にあるのだとか。
曰く、元から帝国の兵士ではあったが、この国における帝国軍の傍若無人な振る舞いを見て寝返ったそうだ。
だったらあの公開処刑を止めてほしかったけど……。流石に幹部クラスの常連さんは厳重な監視がついてたりして、助けられなかったか?
詰所ではあんまり話はできなかったが、ついぞ重要な情報を筆談で教えてくれた。
『リヒト』には現在20名ほどのメンバーがいる。元王国騎士や王国の事を憂いた傭兵たちを中心に構成されているらしい。
そして今日、玩具屋に『リヒト』のメンバーが尋ねに来るとのこと。その人から詳しく話を聞けと言われたわけだが。
「……外見の特徴聞くの忘れてたな」
もし「暗闇で探すのは」って聞かれたら「一筋の光」って答えろとか言われたけど。
てかそもそもなんで俺なんだろう? 家系的に言えば元々魔法道具職人だが、帝国にバレたら面倒だからあんまり言わないようにしてるし。
はあ、玩具屋で稼いだら引っ越せばよかったか? いやでも元々作ってたゴーレムを保管するには王国内じゃないと難しかったから、わざわざゴーレム達を隠すために山を買ったわけだし。
流石に愛着湧いてるから手放すなんて無理だったんだよなー。
「あっ、いらっしゃい」
開店してから少しして厳つい男が入ってくる。
いやいや玩具屋にこんな筋骨隆々の男が入ってくるかよ。絶対こいつが『リヒト』のメンバーだろ。
じいっと男を追いかけるようにして眺める。怪しい。
何故か可愛い系のぬいぐるみの方へ歩いていくところも普通じゃない。
あんな厳つい見た目しててあんな可愛いモンに興味あるわけないだろ。
「あの」
「……絶対おかしい」
「あのっ!」
近くで少し大きな声が聞こえる。
しまった。『リヒト』のメンバーらしき男に気を取られすぎていて普通の客の事を忘れちまってたぜ。
見るとそこに立っていたのは可愛らしい女性だった。
フード付きのローブか。今は顔を見せているが、多分外で顔を見せると男が寄ってきて面倒だからフードを被って歩いてるんだろうな。
そのくらい可愛い。
「すみません。少しぼーっとしてしまいまして」
「お気になさらないで。私が急に声をかけたのが悪いんです。えっと、これ貰えます?」
見せてきたのは月の飾りがついたペンダントであった。
うん? 何だこれ。
「ウチの商品じゃないですよね?」
「はて? そちらに置いてありましたよ?」
そう言って女性が売り場の方を指さすが、置いた覚えもなければ作った覚えもない。
不思議そうに首を傾げていると、女性の後ろから男がウサギのぬいぐるみを持ってくる。
おいおい、今来るのかよ。せめて他の客が居なくなってから来いよ。
「あ、どうぞお先に」
「良いのかい? 悪いね」
女性が後ろの男に順番を譲ると、男もそれに従って前に来る。
え、今このタイミングで合言葉言うの? 流石に後ろの娘に聞かれるし駄目じゃない?
「これくれ」
「……100ゴルドです」
「はいよ。あ、そうそう」
来たぞ。確か合言葉は「暗闇で探すのは」ってきたら「一筋の光」って答えるんだったよな。
「これって魔力流したら動くんだよな?」
「……うん?」
「だから、これって魔力流したら動くんだよなって聞いてんだよ」
何だこの質問。おいおい、まさかこの男。本当にただのぬいぐるみ好きなだけなのかよ。
「あ、はいそうです」
「へえ、面白えな。あんがとよ。嬢ちゃんもありがとな」
それだけ言うと男は店から出ていく。
何だよ。ちょっと身構えてたのが馬鹿みたいじゃないか。
「すみません。このペンダントが欲しいのですが」
「だから、そいつはウチの商品じゃないんですよ。そこに落ちてたんだとしたら多分お客さんの落とし物ですから預かりますけど」
「どうしても売ってもらえませんか?」
しつこいな。流石に可愛いと言えど面倒だ。
たくっ、今からリヒトのメンバーに会うってんのに。
「これ綺麗ですよね。暗いところだと光るんです。ほら、こんな風に」
そう言って女性はペンダントを手で覆う。
見ると、手で覆った陰の中で月の飾りが淡く輝いているのが分かる。
魔法道具って訳じゃないな。特別な鉱石を用いて作られているんだろう。
「確かに綺麗ですね」
何の鉱石を使ってるんだろ? 魔法道具職人であるが故に少し興味が湧いてくる。
「これだけ光っていると簡単ですよね。暗闇で探すのは」
その瞬間、全身が硬直するのが分かる。
嘘だろ、まさかこの娘が?
驚きながらその女性の瞳を見つめる。女性も不思議がることなく見つめ返してくる。
なるほど、確定だな。
「一筋の光」
俺がそう答えると女性はニコリと笑みを浮かべて、手を重ねてくる。
そして月飾りのペンダントを握らせると、こう告げてくる。
「ようこそ、『リヒト』へ」
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