第四話 トカゲヅルの研究
植物園に戻ったアーシュタたちは、トカゲヅルの資料を探しはじめた。
「研究室の人たち、あんなに頑張ってくれてるんだから、私たちも頑張らないとね」
アーシュタとミシェルは、ガーデンテーブルの上にどっかりと置かれた日報の上から一つ一つ確認していく。なにせ膨大な量だから、根気がいる作業だ。
上司はトカゲヅルの根元を確認し、革張りの手帳に何事かをメモしたのち、資料探しに加わった。
日が傾きはじめて、終業を知らせる鐘の音が鳴る。ドラゴン厩舎に戻っていくドラゴンたちの影が、植物の上を次々と横切った。
マンドラゴラさんが頭の上の葉っぱをくるくると回転させた。まるで手を振っているようにも見える。
「続きは明日にしましょう。アーシュタもミシェルも、おつかれさま」
「明日もトカゲヅルが増殖してたらどうしよう……」
「筋肉痛になるねぇ。でも多分、大丈夫でしょ。植木鉢かぶせたし!」
ガーデンテーブルの横に置いたままになっていたコートとカバンを持って、アーシュタは「じゃあまた明日!」と職場をあとにした。
***
その日以降、トカゲヅルは増えなかった。毎朝おそるおそる出勤してくるミシェルに、アーシュタは「大丈夫だよ!」と親指を立てた。
植物たちに水をあげ、枯れた葉っぱを摘む作業を終えて、午前中の日課を済ませる。アーシュタは出勤途中にパン屋で買ったサンドイッチを頬張ると、ガーデンチェアに座ったまま、伸びをした。
お腹がいっぱいになると、ほんの少し眠くなる。植物園はあたたかな日差しに包まれているから、なおさらだ。
昼食を終えたアーシュタはあくびをして、昨日から出しっぱなしになっていた日報を一枚、手に取った。
外に食事に行っていたミシェルと、会議を終えたばかりの上司が加わって、トカゲヅルの資料探しがはじまる。
数時間過ぎた頃、トカゲヅルを採取したときの様子を調べていた上司が、「あっ」と声を上げた。
「これじゃない? 気温の変化」
アーシュタとミシェルが上司の元へ集まる。三人の魔女は身を寄せ合って、一つの資料に目を走らせた。
「外国語だ……」
「翻訳魔法使いなさい」
アーシュタは資料の上の文字を、翻訳魔法をかけた指でなぞる。元の文字の上に翻訳された内容が浮かび上がった。
トカゲヅルは高温多湿な環境で育つ一年草だ。寒さには弱いらしい。
この植物園にトカゲヅルがきてから、まだ一年も経っていない。植物園の面々は、トカゲヅルが枯れるところを見たことはなかった。
「冬には枯れちゃうんだ……」
「仮説としては、枯れる前に増殖する……ってところかもしれないね」
「最近、寒くなってきたから?」
「確かに増殖のあと、ちょっと元気がないですね」
ああでもないこうでもないと仮説を話し合っていた三人の耳に、扉をノックする音が届いた。
「はい」
「失礼します! 研究室の者ですが!」
「あら室長、いらっしゃい」
扉を開けると、室長は筋肉を見せつけるようにポーズをとって、「やりましたぞ!」と高らかに宣言した。




