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第三話 マッチョな研究室

 研究室といえば、白衣を着た研究員たちがいるものだとばかり思い込んでいた。

 魔法植物研究室の面々は、白衣こそ着ているがマッチョだ。

 アーシュタは目の前にいるマッチョな研究員たちを見て、想像とはあまりにも違う光景に、大いに驚いた。隣で呆気に取られたミシェルが、トカゲヅルを取り落とす。


「大丈夫ですかな、お嬢さん」


 研究員の一人が歩み寄ってきて、ミシェルの足元に落ちたトカゲヅルの束を片手でひょいと持ち上げる。

 苦労して運び込んだトカゲヅルの束を軽々と持ち上げる研究員に、ミシェルはおろおろとして「すみません」とくり返した。


「室長、この植物の研究よろしく。今朝、植物園で急に増えててね。あまりにも爆発的な増殖だったから、回復薬に使えるかもと思って」

「ふむ。これはトカゲヅルですな。かしこまりました」

「ついでに研究、見てっていい? この子たちも興味があるだろうし」


 室長は見事な上腕二頭筋を見せつけるようにポーズをとると、「もちろんです!」と快活に笑った。

 アーシュタが見慣れない研究室にざっと視線を走らせる。見たこともない装置ばかりだ。ミシェルは少しばかり怖気付いたのか、小さな歩幅でアーシュタの後ろからそっとついてきた。


「ここでは魔法植物や、魔法薬の研究を行っています」


 運び込まれたばかりのトカゲヅルが、あっという間に研究員たちの手元に渡る。

 研究員たちは、茎を切った断面から汁を採取しようと絞ったり、乳鉢に入れてすり潰したり、茎を薄くスライスしたりと忙しそうだ。


「これは試料の作成をしているところですな」


 研究員たちが、作成した試料を次々と小さな容器に入れて、横倒しにした車輪に取り付けていく。マッチョな研究員が、おもむろに白衣を脱いだ。


「え、なんで脱ぐの!?」

「ははは! 動きやすいので!」


 タンクトップ姿になった研究員が、自転車のような装置にまたがる。戸惑いのあまり声を上げたアーシュタの横で、ミシェルが目を覆っている。

 研究員が室長に目配せをする。室長のうなずきとともに、研究員は猛烈な勢いでペダルをこぎだした。


「うおお!」


 横倒しになった大きな車輪が回転しはじめる。マッチョな研究員はどんどんペダルをこいで回転を加速させていく。太ももの筋肉が盛り上がり、研究員の額に大粒の汗が浮かびはじめた。


「えっ……これは何をしてるんですか?」

「遠心分離機です」

「遠心分離機ぃ!?」

「試料の水分を飛ばしたり、固まりやすい試料を液体のままで留めておいたりするものですな。これがないと、はじまらんのですよ。……まだまだぁ!」

「うおおおおお!」


 室長の檄に、研究員が応える。どんどん加速していく回転に、アーシュタは目が回りそうだ。

 ミシェルは指の隙間から、そっと様子をうかがっている。


「速度よし! 持続させて!」

「うおおおお!」

「素晴らしい! 筋肉が躍動していますな!」


 ペダルをこぐ研究員の横では、パイプに設置してある重そうなハンドルを回す研究員がいる。腕と胸の筋肉が隆々と盛り上がっていた。

 アーシュタは、研究室に筋肉質な職員が多い理由をようやく察した。ミシェルがこわごわと室長に尋ねる。


「あの、皆さんとても大変そう……。魔法でやらないんですか?」

「魔法でもできないことはないですが、出力の調整が難しいんですな。こっちの方が、手っ取り早い!」

「あ、トカゲヅルを刈り取るときもそうでした」


 この世界に住む人々の三分の一ほどが、魔法を使える。魔法植物園の面々も、魔法職だ。けれども魔法は決して万能ではない。

 室長が言うように、出力の調整が難しいこともある。アーシュタたちがトカゲヅルを刈り取ったときのように、標的を絞り込めないこともある。

 なんだかんだ、人力や手作業は残るんだよな……と、アーシュタは猛烈な勢いでペダルをこぎつづける研究員をながめた。

 いつか万人が魔法を使えるようになれば、それも変わるのだろうか。


「身体も鍛えられて、一石二鳥ですな!」


 室長は、半ば趣味なのかもしれない。

 研究室内に、ペダルをこぐ音と、室長の快活な笑い声が響いた。

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