第二話
「これ、どういうことだと思う?」
キャットが真剣な表情で尋ねてくる。イーグルも顎に手を当てて考えた。
単純に考えれば、死体をここで処理したことになる。しかし、それはあまりにも安直というものだ。
誰かが意図的に廃棄したと見て間違いないだろう。
それに気になることに、上に積まれている死体の中には“比較的新しいものも”混じっていた。苦しむ表情が分かるほど、皮膚が残っているものもいる。
「へくちっ!」
イーグルの思考を遮るように、ウルフがくしゃみをする。
鼻水を垂らし、細かく震えている。
「さ、寒い〜……」
「何も考えずに水に突っ込むからよバカ」
「う〜キャット温めて〜……」
近寄ろうとしたウルフをキャットが制止していた。
そんな様子を見て、イーグルは慌てて彼女の手を取った。
「え? なになに?」
唐突のことで驚いた様子のウルフ。
「そ、そんなに怒んなくても冗談だって」
「そうよイーグル。そのバカはいつものことなんだからあんたもそんなに──」
「ちょっと黙って」
二人の声を遮りながら、ウルフの服の裾をめくる。
そこにあったのは、緑色の発疹。
それから確認するように服をたくしあげて腹部も確認する。
おヘソ周りもやはり緑色のブツブツができていた。
まるで気泡のようなそれは、潰せば良くない液体が漏れ出すことは容易に想像できる。
「え!? な、なにこれ!?」
ウルフ自身も自分の異変に気がついたのか、服を脱ぎ始める。
確認したところ、発疹は至る所に出来上がっていた。それも、見ている間に数を徐々に増やしていってる。
「イーグル……これって」
キャットの声がワントーン下がった。
イーグルはなんて言おうか迷って、そして静かに答える。
「……恐らく毒。専門家じゃないから詳しくは分からないけど」
「やっぱりあの噴水が原因?」
「そうとしか考えられないね。取り敢えずウルフを安静にさせて、なるべく接触しないように」
まだ動けると暴れるウルフを、半分抑えつけるように寝かせる。極めつけはキャットのお気に入りの音楽プレイヤーを壊すという一言だった。
彼女はどこか不満げではあったが、何とか言うことを聞いてくれた。
ウルフの容体は心配だ。しかし、それ以上に自分たちも感染しているリスクがあるのが問題であった。
早期に何とかしなければ、四人ともここで死んでしまう。
しかし、どうやって。考え、イーグルは近くで索敵をしているスワローのほうに向き直る。
「近くに誰かいた?」
その言葉に、スワローは首を横に振った。
おかしいと親指を噛む。
毒を撒き散らしている人間がいる以上、誰かがこの辺りを根城にしていることは確かだ。
それが意味のあるものかないものかは別の話だとして。
しかし、考えれば考えるほどにドツボにはまっていくような錯覚に陥る。
「……ひ、人影ありましたです!」
唐突のスワローの声に、イーグルとキャットが同時に彼女の方を見る。
「どこ!?」
慌てて彼女に近寄って、尋ねた。スワローは軽くビクついていたが、ゆっくりと顔を上げる。そして、一点を指差した。
それは木の上だった。太い枝に座るように一人の少女がいた。
黒色の制服に黒色のプリーツスカート。同色の髪は、右側に結んで垂らしている。
口元を覆うガスマスクは彼女の不気味さを表していた。見える黄色い瞳は、どこか好戦的で好奇心に満ちた不思議な光を映している。
「ニャッハー!」
まるで拍子抜けするほどのテンションが高い声で彼女は叫ぶ。足をぶらぶらさせて、品定めするように視線を移していた。
「もしかしてハマっちゃった? 浸かっちゃった? どうどう? 私お手製のど、く、や、く? 苦しい? それともまだ?」
当たりだ。彼女がこの罠を仕掛けた犯人だ。
彼女から出てきてくれたのは好都合……と言いたいところだったがイーグルにはそれができなかった。
スワローの監視の目をかいくぐって、どうやって近づいたのか分からないからだ。
きっと今彼女が見つかったのも、わざと姿を出したからだろう。
「あんた……何なのよ?」
キャットの問いに、少女は楽しそうに体を揺らす。
「私? 私はスモーク。ねぇねぇ、私と遊ばない? みーんな仕事の話ばかりしててちょうど退屈してたんだぁ」
その言葉を聞いてイーグルは狙撃銃を、キャットは短機関銃を構えた。
ほぼ同時に引き金を引く。
先に攻撃を仕掛けてきたのは彼女の方だ。遠慮はしない。
弾薬をすべて使い切る勢いで放った攻撃は、彼女には当たっていなかった。
「ダメダメルール違反。暴力は禁止だよ?」
よく見れば、弾が溶け落ちて地面に張り付いていた。
「もう一発撃っても良いけど、今度は暴発するよ?」
彼女の言葉の意味を確認するように、予備弾倉の中を見る。
弾頭先の鉛が溶けていた。
「そんな──ありえない」
イーグルの言葉を肯定するように、スモークはただ笑う。




