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第一話

 荒廃した世界は、どこまでいってもその景色を変えない。それは人類の文明が完全に死んでしまったことを現している。


「シュババーッ! あ、これなんて使えそう!」


 そんな崩れかけた建物群の中から聞こえる騒がしい声に、イーグルはため息をついた。


「こら、ウルフ! もっと静かに探しなきゃぁぁぁぁあ!」

「あ、キャット! そこ崩れやすいから気をつけてね!」

「……平和ね」


 仲間のウルフとキャットが何やら楽しそうに物色している。その気配を背後に、イーグルは持っている狙撃銃を掴み直した。

 この狙撃銃は、自分たちの集落が滅んでからずっと持ってきている大切なものだ。セミオートのライフルに可変式の照準器。すべてイーグルの中遠距離の適性に合わせてカスタマイズしたものである。

 これがあるから、イーグルは今日まで仲間たちとともに生き延びられたと言える。


『あ、あの、人影はありませんです』


 小型のドローンが、イーグルの側を浮遊する。そこから聞こえるのは、少し舌足らずな声。ところどころにノイズが混じっていた。

 仲間のスワローが遠くからドローンを介して通信している。


「そう、ならそのまま警戒を続けておいて」

『わ、わかりましたです』


 返事はしたものの、ドローンは少し悩むようにその場を上下に揺れている。


「どうしたの?」

『い、いえイーグルが何か考え事をしてるようでしたので……』

「スワローはやはり鋭いね」


 嘆息気味に褒めると、ドローンの奥から照れくさそうな声が漏れた。

 

 別に何かがあるってわけではない。イーグルが感じているのは小さな違和感だ。


 ここは住宅街。かつては多くの人が住んでいたのだろう。生活感はそのままに、草や木が生い茂って劣化だけしている。

 しかし、まったくと言っていいほど人間の死体がないのだ。

 かつて住んでいたであろう住民のものも。世界が崩壊してからこの場所に移り住んでいたであろう人々のものもだ。


 人の気配がないのは珍しくない。しかし、骨すら落ちていないのはどこか引っかかる。


「お、やった! この音楽カセットまだ使えそう!」


 ウルフの元気な声が、イーグルの思考を止める。

 気にし過ぎかと言い聞かせながら、彼女は狙撃銃を担ぎ直した。



※※※※※※※※※※



「ねぇねぇ、なんでジープで移動しないのぉ?」


 少し後方を歩くウルフが、黒いボブカットの髪を弾ませながら膨れている。両手を後方で組んで、歩きも少し遅めである。


「また、あんた聞いてなかったの?」


 ウルフを引っ張るように歩くのはキャット。彼女が大きくため息をつくと、癖のある金髪が揺れる。


「ジープで移動したら、もしもの時に対応できないからよ。ここを抜けるために安全を確認するってイーグルが言ってたでしょ?」

「もしもって何さ?」

「敵の襲撃とかよ」


 緊張感のない二人の会話を背に、イーグルは先頭を歩く。視線を動かして異常がないかを確認する。

 そう、異常は先ほどから見つからないのだ。だからこそ、イーグルはおかしいと思う。


「スワロー何か見つかった?」


 横でドローンを操作している小柄な体の少女の肩が跳ねた。彼女は青く短い髪を左右に揺らす。

 スワローの赤い瞳の瞳孔の周りに、白い線が円を描く。その不思議な光は、彼女専用のドローン操作用コンタクトの光だ。

 様々な場所に飛ばしているドローンの視界とリンクしている彼女が何もないというのなら、何もないのだろう。


「……少し立ち止まろう」


 動きながら考えてもわからない。頭を整理する時間が必要だ。

 丁度森林公園の近くにやってきたため、そこで隠れながらの休憩をイーグルは提案する。

 三者三様の返事があり、彼女の提案に乗る。


 スワローの安全確認を終えてから、四人はそれぞれ踏み出した。

 長年手入れされていない公園は、木が生い茂り森のようになっている。かき分けないと進めないほどには鬱蒼としていた。

 少し進むと開けた広場があった。真ん中には噴水があり、驚くことに今も水が出ている。


「水だぁ!」


 感情のまま突っ走ろうとしていたウルフの後ろ襟首を、キャットが掴んだ。


「イーグル、地形的にはどうかしら?」


 尋ねられ、射角を見る。

 射線は通らない。遠くからの狙撃の心配はない。


「鳴子とスワローのドローンを配置してから、休憩しようか」


 イーグルが答えると、キャットが襟首から手を離す。解き放たれた犬のように、ウルフは噴水に走っていった。

 軽装備と短機関銃を放り出して、服を着たまま飛び込む。


 水飛沫が鳴る。水質も気にしないで飛び込むあたり、ウルフらしいなと思う。

 水の雫が跳ねるような音が少しの間鳴っていた。


「うぇぇえ!?」


 そんな彼女から、聞いたこともないような声が聞こえた。

 スワローの護衛をキャットに任せて、イーグルは駆け寄る。


「……っ」


 騒然とした。噴水の中は、死体で埋まっていた。どれもこれもどこか皮膚が爛れて気泡ができている。

 ただの死に方じゃない。そう感じた瞬間、イーグルはウルフを噴水から引っ張り上げていた。

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