第二章Gパート:「安定か自由か」
「もうツナくんの居場所や情報は、行政に知られてる。たぶん、話し合いを求められる」
アイの言葉が終わらないうちに、
後ろから、ひとつの影が近づいてきた。
「――失礼。お名前は、ツナさんで間違いありませんね?」
声の主は、黒いスーツを着た男だった。
髪も靴もきっちり整っているが、その目だけは笑っていなかった。
「行政サポート第三区 担当のトードーです。先ほどの通知、ご確認いただけましたか?」
ツナは一歩後ずさった。
「…なんだよ、突然現れて」
「あなたの端末から申請履歴が確認されていましてね。
その後、却下となっていますが――現在、路上生活者としての保護対象に該当する可能性があります。
よって本日、直接説明と選択のご案内に伺いました」
トードーは書類を差し出した。
印刷された文字が目に飛び込んでくる。
【生活安定支援案内】
対象者は、所定の管理型施設に入所することで、
居室・食事・教育支援・簡易就労を受けることが可能です。
入所期間中は施設のルールに従っていただきます。
「要するに、閉じ込められて管理されるってことかよ」
ツナの声が低くなる。
「表現は任せますが、安全と安定を優先した制度です。
あなたが今後も放浪状態を選ぶなら、次の申請はさらに通りにくくなるでしょうね」
藤堂の言葉に、アイが一歩前に出た。
「ツナくんの意思を尊重しないまま、選択肢を“強制”するのは本意ではありません。
少なくとも、対話の余地があるはずです」
トードーは少しだけ眉を動かしたが、言い返さず、ただ腕時計を見た。
「いずれにせよ、10時ちょうどにこのバス停から、センター前行きの行政車両が発車します。
その時間までに“行くか、行かないか”をご判断ください」
そう言って、彼は何事もなかったように踵を返して去っていった。
静かな時間が戻った。
でも、心の中には嵐のようなざわめきが残っていた。
「……どうすりゃいいんだよ。行けば籠の中の鳥。で、問題があれば……また出ないと、だろ?」
ツナは膝を抱えてしゃがみ込んだ。
その姿は、何かを信じたくても信じられないかのようだった。
そんな彼に、アイがそっと近づく。
「ツナくん。君はまだ、“選べる”側にいる。
選ばされてるように見えても、君が歩く道は、君のものだよ」
ツナは顔を上げた。
「俺は…また拒絶されんのが怖いだけだ」
アイは小さく頷き、言った。
「だったら、一緒に行こう。
拒絶されても、隣に誰かがいれば、前より少しだけ痛みは軽くなるかもしれない」
ツナはゆっくりと立ち上がった。
「……チッ。やっぱお前、ズルいわ。
……一緒に来るのが、当たり前みたいな顔しやがって」
「うん。当たり前だと思ってる。私は“ツナくんの相棒”だから」
ふたりは並んで歩き出す。
目指すのは、管理された安定か、それとも壊れた自由か――
まだ分からない。けれど、今だけは「ふたりで向かう」ことだけが確かだった。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」