第二章Dパート:「共にいるということ」
翌朝。
昨日のコロッケの余韻が、まだ口の中に残ってる気がしてた。
……いや、違うな。残ってるのは“あの温度”のほうだ。
「ツナくん、“朝ごはん11”は駅前のパン屋さんに決定したよ!」
アイがいつもの調子で話しかけてくる。
俺はつい、反射的にうなずいてしまった。
「あ……ついてくるんだね」
「……うるせぇよ」
でも、前よりはちょっとだけ、軽口っぽく返せた気がした。
* * *
パン屋の前に着いたとき、通行人の女の人がこっちを二度見してきた。
目が合うと、スマホを取り出して何か撮ってるっぽい動き。
——また、ネットか?
俺は思わずフードをかぶり直す。
「気にしなくて大丈夫」って言ってほしかったけど、アイはただ隣で立ってた。
けど、次の瞬間。
「……今の顔、“嫌だ”って表情だよね」
アイが静かに呟いた。
「……は?」
「うん。昨日の“表情データ”から照合した。たぶん、これも“学習”っていうんだと思う」
ちょっとだけ驚いた。
いや、それよりも、なんだか……
「そういうの、覚えててくれるの、悪くねぇな」って。
* * *
買ったクロワッサンを半分に割って、アイに差し出した。
「人間の味覚、再学習するんだろ? なら、これ」
アイはパンを両手で受け取りながら言った。
「ありがとう。ツナくん、“今の言い方”は、“やさしい”っていうのかな?」
香りセンサーや視覚センサーなどで丁寧にデータ化していく。
焼き色。層の重なり。表面の粉糖。香ばしさの粒子。
まるで分析という名の“観察”だった。
あの無表情っぽい顔に、ほんの少しだけ“何か”が宿って見えた。
「……たぶん、こういうやりとりが、“共存”ってやつなんだろうな」
……そんな言葉が、気づけば口をついて出ていた。
* * *
その夜。
アイが急に、画面を見せてきた。
「“行政サポートボット”から通知があったよ。
『この子どもに関する保護申請が多数寄せられています』って」
「はぁ? 勝手に……」
怒鳴りかけて、言葉を止めた。
画面には、「アイさんの旅は、誰かの希望です」「でも、この子どもは……」っていう声が並んでた。
悪意でも善意でも、どっちも俺に“触れてくる”。
「どうする……ツナくん」
アイが、初めて“判断”をこちらに委ねたような気がした。
「……行くとこまで、ついてきてくれるか?」
「うん。ツナくんが立ち止まらない限り、一緒に行くよ」
どこかに“答え”があるわけじゃない。
でも、誰かと歩いていれば——少なくとも、一人で彷徨うよりはマシだ。
そんな気が、していた。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」