第五章「オープン・ザ・ワールド」ρ(ロー)パート:「リアドンの空港にて」
用語説明
ヒジャブー 女性が髪、顔、首を隠す布製のほっかむり
イマーム 宗教指導者
灼熱の大地から立ちのぼる熱気が、空港ビルのガラス越しにも伝わってくる。
サウダージ王国・リアドン空港に降り立った瞬間、ツナとアイは一斉に注がれる人々の視線を感じ取った。
理由に気づくのは早かった。
アイが、ヒジャブーを着けていなかったのだ。
その美しい銀髪と金の瞳、そしてセーラー服姿は、この国ではあまりに目立ちすぎる。
女性たちは顔を覆いながら視線を向け、男性たちは気まずそうに目を逸らす。ここでは常識に外れていることを、ツナもすぐに理解した。
「……アイ、頭を覆った方がいい」
ツナの小声に、アイはわずかに瞬きをして頷いた。
持参していた薄いスカーフを取り出し、器用に頭に巻き付ける。即席のヒジャブー。
それだけで、周囲の視線は少し和らいだ。
ただ――セーラー服の存在は隠しようがない。
だが、それが逆に「ヤッポンの文化」を象徴するものとして、人々の中に特別な関心を呼んでいた。
若者たちの間で人気のアニメや映像作品に登場する衣装――彼らの目には、異国の少女が現実にそこへ現れたかのように映ったのだ。
待ち受けていたのは、若いイマームだった。二十代半ばほどの精悍な青年で、白いトーブに身を包み、穏やかな笑みを浮かべている。
「ようこそ、リアドンへ。砂漠の民は、遠い国からの客人を歓迎します」
流暢なヤッポン語に、ツナは少し驚いた。
空港から市内へ向かう列車に乗り込むと、車両の一角には小さな礼拝スペースが設けられていた。
定刻を知らせるアザーンが流れると、若いイマームは同行者たちと共に礼拝を始める。
ツナはその光景に緊張しながらも、アイが静かにささやく。
「彼らの一日は、祈りを軸に組み立てられているのです。時間も、行動も、食事も」
窓の外を眺めると、砂漠の都市に張り巡らされた鉄道網が広がっていた。その車両の多くは、ヤッポンのメーカーが導入したものだと説明される。
さらに、若いイマームは声を弾ませて続ける。
「来月には『アニメエキスポ・リアドン』も開かれます。私たちはヤッポンの文化を愛しているのです」
ツナは思わず頷いた。
ヤッポンは石油の大部分を、このサウダージ王国からの輸入に頼っている。交易の面では、アメリゴ合衆国やC国よりもはるかに重要な国――その現実が、ツナの胸にずしりと重く響いた。
「……文化でも、資源でも、結びついているんだな」
そう呟くツナに、若いイマームはにこやかに答える。
「ええ。私たちにとってヤッポンは大切な友人であり、かけがえのない相手です」
やがて列車は、黄金色に染まるリアドンの街並みへと滑り込んでいった。
石造りの建物と高層ビルが混じり合い、砂漠の空に広がるコーランの響きが都市全体を包み込む。
到着した先は、宗教家たちが集う広い集会所だった。
入口には礼拝を終えた人々が並び、厳かな空気が流れている。
その奥には、白い長衣に金の刺繍をまとった老人が座していた。彼こそ、イマームたちを束ねるリーダー的存在――国の精神的支柱のひとりであった。
ツナとアイは互いに視線を交わす。
ここから始まる交流が、容易でないことを直感しつつも、二人は静かに歩みを進めた。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」
今回の一言
真面目なイスラム教徒はタイムスケジュール管理に優れているそうですよ。 空銃




