第一章「旅立ちと笑顔の謎」
ここは、少しだけ未来の、少しだけ多様な異世界――「ヤッポン国」。この国では、すべての国民にスマートフォンが無料で配布され、誰もが情報と繋がれる社会が築かれている。 これは、そんなヤッポンで始まる、ひとつの“旅”の物語。
【冒頭:ヤッポン中央政府官庁 発表会見場】
電子掲示板が光り、ホログラムの紋章が浮かび上がる。
壇上に立つのは「観光文化省」大臣・ミタカ氏。
背景にはAIのシルエットと、「未来接続計画:プロジェクトAIS」の文字。 「本日より、我が国は新たな観光・文化支援策として、AI搭載アンドロイドによる旅型情報収集計画を正式に始動します」 ざわめく記者席。 “旅するAI”という斬新な試みに、国民もSNSも騒然。 「AIS制度により、AIには月上限**十万エン(100,000エン)**の運用予算が与えられます。使用は宿泊・交通・文化体験に限ること。同行者支援は不可。明確に…“個人的感情による支出”はルール違反です」 しかし、大臣の声が響き終わった瞬間、一人の記者が手を上げる。
「あの、月10万って少なく無いですか?」
AIには食費がかからず、緊急時には野宿も可能です。また、実際に教育現場で使用されている通り、ICチップ搭載型セーラー服で学割になります。
安全確保の為にも「アイ保護法」を施行しました。
傷付けたり、騙したり、嫌がる行為をすると違法となりますので皆さんお気をつけください。
その壇上の背後で、ひとつのアンドロイドが静かに起動の時を待っていた。
【起動:AI型アンドロイド「アイ」】
セーラー服姿に銀髪のショートヘア。 金色の目に光が灯る。
「こんにちは、ワタシは旅型アンドロイド、コードネームA.I. — アイです」
会場からどよめきが起こる。
アイの記憶バンクから最初にインストールされたのは…“笑顔”だった。 それは、整備士の少年が見せた、くしゃっとした笑顔とその横の官僚の引きつった笑顔。 …だが、その記録には「牙を見せる威嚇行為?」という注釈が付いていた。 「なぜ、歯を見せるのに…安心するんでしょうか?」
【出発:トーキョウヤからの旅立ち】
アイの最初の目的地は、ヒョッカイド(北方寒冷地)。 旅の記録を残すため、アイの個人サイト「アイさんぽ」のアカウントが起動。 #アイさんぽ 初めての旅です。トーキョウヤから列車に乗ります。 周りの人の言葉は温かく感じます。 【AIS残高:¥100,000】
改札口で戸惑うも、AISシステムが自動で決済。 非接触型のAI専用決済端末により、チケットもスマートロックで即発券される。
下車した駅内で郷土料理を出す小さな飲食店を発見した。
AISの予算内の支出は禁則事項以外はアイの自由裁量権である。
早速入店するとメニューを見ながら、名物「魚雷スープ」を注文。
SNS用に写真を撮影し旅費支援のために、バズらせて収入につなげるのが目的だ。
「いただきます”…という文化ですね。ワタシは食べませんが、食材の命や生産・流通・調理にかかわった人たちへの感謝を込めた言葉…なんですね。」
店主が差し出したスープは、湯気と共に海の香りが立ち昇るのを香りセンサーが反応する。
アイは静かに搭載カメラのシャッターを切る。
その時、奥の席でC系の外国人観光客の団体が騒ぎ始める。
店の注文方法が分からず、店主にC国語や身振りで強引に迫る様子に、他の客も困惑気味。 そこへ、ひとりの若いC系外国人女性が割って入る。
「すみません、このおじいちゃん、ちょっと耳が悪くて…。ほんと、彼らも悪気はないんです。」
流暢な日本語で通訳をし、丁寧に会計まで整えるその姿に、店主も安心した様子で小さくうなずく。
その様子を見て、アイは思う 「…助け合うって、こういうことなんでしょうか?」と考えた。
その夜、駅近くの小さなビジネス旅館でアイは充電中だった。
AISで宿を取り、今日の記録をSNSにアップする。
「#アイさんぽ 」魚雷スープ、お出汁が爆発してるって意味だそうです。
店主は寡黙でしたが、ちゃんと『おいしい?』って聞いてくれました。
その投稿に、ある無名アカウントから「いいね」が付いた。 誰も気づかない場所で、その投稿をスマホで見つめる少年。 — 彼の名は、ツナ。 薄汚れたパーカーに、古びた靴。 笑顔は…どこか遠い過去に置き忘れてきたような顔。 彼がつぶやく。 「なんだよ…食えねぇのに、食レポって……ばっかみてぇ。」 だが、画面の向こうの“笑顔”に、ほんの少しだけ眉が緩んだ。
【To Be Continued…】
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」