2.三つの国と
海面上昇により海が9割以上を占める星。
僅かに残された陸地はひし形のようになっており、その右半分は深い森に覆われ、左半分は砂漠という正反対の環境に置かれていた。
巨木がひしめく深い森の奥には石造りの城を中心に円形に町が広がる『森の国』があり、《獅子王》と呼ばれるムゲンの父親が治めている。
そして、灼熱の砂漠のどこかにあるという洞窟に築かれた『鱗の国』。
ひし形陸地の下の角に位置する、森と砂漠のどちらとも領土を共有している『階段の国』。
この三つが現在陸地に存在する国である。
元々は一つの少人数のグループだったが、思想の違いから三つに分かれ、陸地に散らばる人々を集め、国を作り、各々が独自の文化を形成している。
お互い特に干渉することもなく、かといって全く交流がないわけでもなく、くっつかず離れずといった関係らしい。
どの国もできて500年程らしいが、戦争や侵略は一度も起きたことがない。
この三国には 共通の“敵”がいたからだ。
◇◇◇
「ムゲン様をお呼びしたのは、他でもない獅子王さまのご命令です。」
「親父が?なんで?」
森の中の木の幹や地面に打たれた杭、岩には1本の太いロープがジグザグに結ばれており、それを辿って道無き道を進む。
このロープはムゲンが勝手につけたもので、先程の《青蓮華の湖》から城がある町の外れまで続いている。いわゆる迷子防止の道標というわけだ。
「なんでも、お客人が来ているそうなのです。」
「へぇ、珍しいな。」
国王同士は昔から時折交流があり、表立ってはないが少なからず交易もあるらしい。しかし、国民は基本的にお互いの国を行き来する事は無い。
そもそも国民が自国を出ることはなく、この国で産まれればこの国の中で生涯を終える。
それが当たり前だった。
国を出ることが禁じられているわけでは無く、これには他に理由あるのだが――
「お客ってどこの人?《鱗》?《階段》?俺まだ会ったことないんだよなー。」
腕を頭の上で組んで呑気にぼやくムゲンを他所に、モコの表情は暗い。
「そ、それが…」
「なんだよ。もったいぶるなって。」
「《海》からだそうで…」
「……は?」
これにはムゲンも言葉を無くして歩みを止めた。
「おい、今なんて言った?」
「う、《海》です…」
「そんなわけあるか馬鹿野郎!」
「ひぇー!ほんとです!国がパニックになるのでほんの一部しか知らされていないのですー!」
「あったりめぇだ!親父の野郎どういうつもりだ!」
いまだに信じられずモコに詰め寄るが、彼女のあわあわと焦る様子からして本当らしい。
これが本当なら一大事である。
「何で早く言わねぇ!さっさと戻るぞ!」
「だから呼びにきたのにー!」
怒声混じりに叫ぶとムゲンは地を蹴り、数メートルは上にある巨木の枝に飛び乗って枝から枝へと飛び移っていく。モコもその後に続き、城の方へと急いだ。
歴史の勉強をサボりがちなムゲンでも、不穏な客人の事は知っている。
この星の9割以上を占めている広大な海。
もちろんそこにも国が存在する。
たった一国だが、絶大な力を持って海を支配し陸地の三国を脅かす“敵”。
「《龍の国》なんてシャレになんねぇだろ!」




