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Episode1-5 召喚獣の召喚獣による召喚獣の為の大騒動

「あぁ……」

 軽い音を立てながら、バケットが一口(かじ)られる。外側はさっくりと固く、内側はふわりと柔らかい。バケットの香ばしい香りを口の中で楽しみながら、少女はうっとりとするようにまつ毛を伏せる。

「美味しいです。すごく、美味しいです。これは、ユイ様の手作りですか?」

 少女は感動のあまりか、瞳を眩しいほどに煌めかせながら左側に座るユイを振り向く。その時ユイは丁度、食パンに齧りつこうとしていたところだったようだ。ラズベリージャムで表面が赤く色づいた食パンが、右手によって口の手前まで持ってこられていた。少女の視線にユイはいったん食パンを下ろし、少女へ向けて小さく頷く。

「あぁ。早起きして毎朝作っている。これが日課でな。それに、料理は好きだからな。趣味みたいなものだ」

「そうなのですか。バケット、とても美味しいです。料理が上手なことは、大変羨ましいです」

 少女は力強く頷きながら、尊敬の眼差しでユイを見つめる。

「お前サンは料理ができないのかよ?」

 食パンいっぱいにラズベリージャムをごてごてぬっている火影は、訝しげに少女を見る。少女は正面に座る火影を見遣(みや)り、少し悲しそうに首を縦に動かす。

「はい。私はまだ、造られて(・・・・)日が浅いので。料理なんてしたことがないんです」

「あぁ。そうなのか」

 少女の言葉に火影は深く頷く。

 召喚獣はもともと、この世で生きていた動物なのだ。その命が消滅し、天へ召す途中で神によって厳選された魂だけが召喚獣となって新しい(カラダ)を与えられ、魂をその器に入れるのである。しかし神という者の存在はなかなか信じられていないもので、詳しいところはよく解明されていない。しかも、召喚獣になるまでの記憶が召喚獣にはないため、詳細は調べることができずにいる。つまり召喚獣を造るとは、魂を器に入れることを言う。

「しかし、本当に美味しいですね。こんなに美味しいものは初めてかもしれません。社交辞令でも御世辞でもなく」

 少女はユイのバケットが(いた)く気に入ったようで、鼻歌交じりに食べ進んでいく。

「…………」「……いただきます」「…………」

 見ているだけで空腹を感じ、唾を呑まずにはいられないほど美味しそうににこにこと食事をする少女。その姿を見つめながら、ユイは黙り込み、椅子がないために立ったまま食事をしなければならないハルはボソリと食事開始のあいさつをし、火影は視線を少女から自分の手の中にある、もはやパンがメインなのかジャムがメインなのか分からなくなっているほどジャムてんこ盛りの、いかにも甘そうな食パンへと視線を移動させる。その視線は、すぐに籠に整理されてきちんと並ぶバケットへと反れ、その二つを交互に見回す。

 火影は数分間たっぷりと、二つを見回し続ける。しばらくの後、結局手の中の食パンを自分の前に置かれた皿に置くと、籠に入っているバケットを今まで食パンを持っていた手に取った。食パンよりも固くザラザラとしたバケットの手触りが伝わる。

「――ハル」

 ふいに少女を見つめ、口を閉じていたユイが声を上げる。その視線は、正面に座る弟へと向けられていた。

「うん? 何だよ」

 ハルはまだ一口もつけていないバケットを右手で宙に持ち上げたまま、自分の名を呼んだ姉に視線を送る。

「お前、食パンは嫌いじゃないよな」

 にこりと笑顔で問う姉に対し、冷や汗を流しながら少々嫌な予感を感じつつ、戸惑いがちに頷く。

「そうだけど……。それで?」

「じゃ、ラスベリージャムも大丈夫だな」

「うん。……え? ちょっと待て! いや、オレ、ジャムは無理だから! っていうか、何で食パンが大丈夫(いこーる)ラスベリージャムも大丈夫になるんだよッ!? 関連性ゼロだろ!?」

「うん? お前は、あたしの作ったラズベリージャムにけちを付けるのか? そうか、そうか。お前は、あたしの作ったものを食いたくないんだな。よぉぉ――く、分かったよ」

 ユイは目に不気味な赤い光を宿す勢いでハルを睨みつけた。ハルは蛇に睨まれた蛙の如く、身を縮ませて身動きができなくなってしまった。ユイよりも高い身長を持つハルだが、今や圧倒的にユイの方が大きく見える。

 天使の様な綺麗な笑みを浮かべるユイによって、鼻先に食パンを突き付けられているハルは遠慮がちに口を開く。

「い、や……。そういう訳じゃないけど……」

「じゃあ、どういう訳だ?」

「……ぐぅっ。分かった、分かりましたよ。食べたらいいんだろ、食べたら」

 ハルはため息をつきながら、バターのぬられたバケットを自分の白い皿の上に載せた。ユイは未だに、ハルの鼻先にラズベリージャムがたっぷりぬられた食パンを突き出している。ハルは二度目のため息をつきながら、甘酸っぱい香りを発散するそれを両手で受け取る。それが、甘かったのだ。

「じゃ。これは頂くからな」

「えっ?」

 綺麗なほど真っすぐに伸びる、細長いユイの指は何の躊躇(ちゅうちょ)もなく白い皿の上に置かれたバター付きのバケットを掴みとった。

「は? はぁぁぁ――!? ちょっ、まっ、何、何で取るんだよ!」

「うん?」

 男勝りのユイはひどく女の子めいた仕草できょとんと首を傾げた。まるでこのバケットは自分のものであって、何故そんなことを言われるのか心底分からないと言わんばかりに。

「何でとは何だ。お前のものはあたしのもの。あたしのものはあたしのものだ」

 笑顔全開で言ったユイに対し、

「じゃあ、この食パンは姉貴のもンじゃねぇか!」

 激声を上げながら、右手に持ちかえられている食パンを前へ突き出した。僅かにジャムが宙へ飛ぶ。

「前言撤回。お前のものはあたしのもの、あたしのものはおまえのものだ」

「……何だよその屁理屈」

 食パンを下ろしたハルは、ユイから視線を反らして呆れたように呟く。耳ざとく小さな声を聞きつけたユイは、痛いほど強い眼差しで弟を睨みつける。姉には逆らえないハルは、恐れをなしたかのように小さく肩をすくめるだけで、反論などできなかった。





ハル<ユイww

                 

ハルはとってもヘタレなのさww 

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