Episode0-2 運命の出会いから始まる物語
一か月周期の更新で本当に申し訳ないです;
これからは文章の量は短くなると思いますが、できるかぎりこまめに投稿したいと思います。
青年は、正面から容赦なく吹きつけてくる風を少しでも防ごうとコートの襟を立て、顔の下半分を覆った。青年の額には焦りからか、じっとりと絡みつく脂汗が滲んでいる。
異常な勢力を持つ風は顔を歪める青年をもてあそぶかのように、どんどんとその風力を増していく。
青年の足は強風に押されて少しずつ、しかし確実に後退していく。青年は眉間に深い皺を刻み、歯をくいしばり、風に負けまいと足を踏ん張る。が、
「――うわッ!」
巨大な手の平に、思い切り胸を突き飛ばされたかのような感覚。計り知れない衝撃に襲われた青年は、まるで体重がないかのように軽々と後方へ飛ばされ、木の板でできた壁に背中と後頭部を強かに打ちつけた。
「っ痛ぅ……」
青年はうずくまり、痛む後頭部を両手でおさえる。意識は不安定に揺らめき、咳が喉の奥からこみ上げてくる。青年は歯を食いしばって痛みと咳に耐え、床に手をつけると壁にもたれたままゆっくりと立ち上がった。
「うっ……。え? あ、れ……? 風、が……」
痛みに歪んでいた青年の顔が、ふいに戸惑いの色一色に染まる。
青年を吹き飛ばすほどの強い風が、先ほどまで吹き荒れていたことは嘘であるかのようにぴたりと静まっていたのだ。
夜闇に少し慣れた目を凝らし、青年は魔法陣が描かれているあたりを見回す。薄暗いため、ぼんやりとしてよく分からない視界の中――青年の黒い瞳が、あるものを捉えた。
それは――人の形をした、〝何か〟。
闇の中のため朧な線でしか見えないが、それには顔らしき丸いものがあり、そこから細い首が伸び、続いてなだらかな斜面を描く肩があった。下部は闇にのまれているために見えないが、ちゃんとした人間の形をしていることは明らかだ。
「……できた。ついに、オレは、召喚、できたんだ」
言葉の一つひとつを噛み締めるように口にした青年の瞳に、微かな希望の光が宿る。見る者に鮮烈な印象を与えるその光を灯す瞳は、光輝を浮かべて綻ぶ。
青年は、まるで慎重に足を運ばなければ床が抜けてしまうとでもいうように、恐る恐る足を一歩前に踏み出す。立てつけの悪い扉の様な軋みを足元から上げつつ、前へ前へと一歩一歩床を踏みしめるように青年は人の形をしたもの――青年が召喚した召喚獣――のそばへと歩み寄る。召喚獣はまるで息づいていない置物のように、その場から一ミリたりとも動かない。まるで、青年をその場でじっと待っているかのように。
召喚獣のすぐ手前まであと一歩。青年は震える手を召喚獣へと伸ばし、その身体に触れようとした。刹那、その頭に締め付けられるような鈍い痛みが襲いかかる。
「ぐっ――!」
青年は激しいその痛みに顔を歪め、がくんと膝から力が抜ける。慌てて踏みとどまろうと両足に力を込めるが、その努力も虚しくブーツに包まれた両足が絡み合った。そのまま青年の身体はくらりと傾き、
「うわっ!」
すぐ傍で棒立ちになっていた召喚獣の身体にぶつかった。召喚獣は倒れこんできた青年を支えるかと思いきや、何の抵抗もなく己の身体も後方へ倒し、床を軋ませ派手な音を立てながら一緒に床へと身体を打ち付けた。