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Episode1-16 召喚獣の召喚獣による召喚獣の為の大騒動

長らくサボってすいません;

素晴らしきたくさんのアニメに触発され、久しぶりの投稿です!

 華々しい喧騒に溢れる街。

 白い石畳が長く伸びる大通りの道際には、レンガ造りという統一性意外はすべてまちまちの形や色をした店や家がせわしなく建ち並ぶ。店からは、客を呼ぶ中年女性の野太く快活な声が賑やかに響き、飲食店からは食欲をそそるようなよい香りが漂い、その香りは空腹を抱えた者たちの鼻孔をくすぐり、胃を刺激する。

「――すごい。すごい、です。すごいです、すごいです、すごいですっ!」

 発光するかのように煌びやかな街に立つ少女は、歓喜するような大声を上げた。黒曜石のような漆黒の瞳は無邪気に遊ぶ子供のように煌めき、興奮により白い頬は紅潮している。

「……そんなに、すごいか?」

 大げさと言っていいほどのはしゃぎようを見せる夢幻に、ハルは顔をしかめて呆れた。

 街の様子に見入っていた夢幻は、ハルの言葉を聞きつけるや否や、目にもとまらぬ速さで己の主人を振り返った。

「はいッ。とっても、とってもすごいです。驚きです! こんなにたくさんの人がいるところは、初めてです」

 よほど嬉しいらしく、その姿は自分の好きなものについて熱く語る者のようだった。

「ふーん」

 夢幻の姿を呆れながらも珍しそうに見つめつつ、ハルはさして興味もなさそうに返事をした。その顔は、何故か浮かない。反対に夢幻の顔は笑顔全開である。その表情のまま、少女は口を開く。

「こんなにも嬉しいと歌って踊りだしたくなります! ご主人様も一緒にどうですか」

「全力で拒否するッ! っていうか、公衆の面前で急に躍ったり歌ったりしないでくれよ。妖しいと思われるから」

 ハルの必死な全力否定に対し、夢幻は「え?」と声をもらすと、きょとんと首をかしげた。

「そうなのですか?」

「いや。普通に考えてそうだろ」

 ハルの冷静な突っ込みに対し、夢幻は納得のいかないような顔で呻くような声を出すと、考え込むように黙ってしまった。

 この非常識にもほどがある少女を恐ろしく思いながらも、常識のある自分が何とかして引っ張っていこうと決意したハルは、空咳を一つする。

「とにかく。さっさと買い物を済ませよう。オレ、早く帰りたいんだけど」

 ハルの言葉に対し、夢幻は一瞬にして顔を上げ、重たく暗い雰囲気を醸し出しながら涙を流す直前のように俯いた。

「そう、ですか……」

 喜怒哀楽の激しい少女に対し、ハルはぎょっと目を見開き少女から一歩後ずさる。

「なっ、何で、いきなりそんな顔すんだよ」

 どぎまぎと問いかけるハル。その視線の先で目を伏せている少女は、俯いた顔を上げぬまま悲しげな笑顔を貼り付けて首を小さく横に振った。そして、

「……いえ。いいんです。ご主人様がそう思うのであ――」

「キャ――! ハル様よ!」

 否定の言葉を述べる最中、その〝奇襲〟はやって来た。

「きっ、来た!」

 ハルはおぞましい物でも見るかのように顔を引きつらせ、さらに数歩後ずさる。

「――と、え……?」

 言葉を中断せざるを得なかった夢幻は、顔を上げると不可思議そうに目を(しばたた)かせた。現在の状態が把握できていない彼女は、疑問に顔を歪めたままその奇襲を耳と目で知ることとなる。

 始まりは、甲高い少女らの黄色い声だった。続いて、激しく素早い足音。それらを聞きつけた道行く人々は、ハルの姿を横目で確認すると慣れた動きで道の端へと寄った。広い道路の中、そうしてハルと夢幻だけが取り残される形となった。

 様々な場所から上がる姦しい音に続き、波のように少女の集団がハルと夢幻へ襲いかかる。

 世界滅亡を目の当たりにしているかのような表情のハルと、疑問で顔を歪めたままの夢幻は、少女たちとたくさんの言葉という怒涛の中へと呑みこまれる。

「ハル様!」「お久しぶりです!」「今日はどちらへ?」「ハル様ー! 寂しかったですー!」「私も、お供させてください!」「まさか……私に会いに来てくださったのですかっ?」「三十七日と三時間二十四分五十一秒ぶりですわ!」「だめっ! 感動で、目から汁がっ……!」「もっと近くに行かせてー!」

 唖然とし、波の中に突っ立っている夢幻。ハルは言葉を発せないままに波に身を任せるしかなかった。と、その時。

「ちょっと、ジャマッ!」

 ハルしか眼中にない一人の少女によって、棒立ちになっている夢幻が地面へ突き飛ばされた。固い石畳の地面へ尻もちをついた夢幻は、一瞬にして少女の中へと消える。

「あっ! ちょっ、大丈夫!?」

 夢幻の姿を目敏く見つけたハルは、焦りつつも少女らを掻きわけて前進し、顔を歪めて腰を擦っている夢幻の元へ歩み寄った。地面へ視線を落としている夢幻はハルの存在に気がつかない。ハルは少女たちの視線が注がれていることも気にせぬまま、彼女の目の前へ女性のように細い手を差し出した。それに気付いた夢幻はやっと顔を上げ、自分の主人の心配げな表情を捉える。

「立てる?」

「あっ。はい。大丈夫です」

 夢幻は、人いきれのせいでも興奮のせいでも街の素晴らしさに対する喜びのせいでもなく、顔を真っ赤に染めた。

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