Episode1-13 召喚獣の召喚獣による召喚獣の為の大騒動
皆さま、大変お待たせして申し訳ありませんでした。
おかげでテスト勉強にゆっくりと専念することができました。ありがとうございます。
さてお久しぶりの投稿です。
久しぶりの執筆でしたので、二人称や口調に多少のブレが生じているかもしれません。目だった間違いがある場合は、御手数かもしれませんが感想にコメントをいただけると大変うれしいです。
束の間の沈黙が流れる。火影は顔面蒼白で唇を小刻みに震わせるまま何も言葉を発しはせず、ハルはふいに固まってしまった火影を心配げに見つめるばかり。
やがて沈黙に耐えかねたのか、ハルが不安げに揺らぐ声音でゆるりと言葉を吐き出す。
「……えと、火影? だ――」
〝大丈夫か?〟と続けようとしたハルの言葉は、
「さっそく不倫か。お前もふしだらな男だな」
女にしては低い声によって、一瞬で遮られてしまった。大きく目を瞠ったハルは床から両手を浮かせ、はっと声の方向――後方にある階段へ続く廊下の入り口を振り返った。案の定、
「なっ……! 不倫って何だよ! っていうか、それは誤解だッ!」
そこには、廊下の壁にもたれるようにして片腕をつけているユイが立っていた。
姉の姿を黒い瞳で認め反論の言葉を吐き出すと同時に、ハルは炎を灯したように顔はおろか首や耳まで赤く染めた。壁にもたれて立つユイは、ハルの反応にニヤリと口の両端を釣り上げて意地悪く笑う。
「じゃあ何だ? お前は召喚獣を押し倒す趣味でもあるのか?」
「そ、そんな悪趣味なわけないだろっ」
ハルはどぎまぎと不自然な動きで床に立ち、身体を火影から離す。火影は未だに放心しているかのような表情で、ハルの顔があった場所の虚空を呆然と見つめている。虚ろな金色の瞳には、視線の先にある天井も、心配げにしかし遠慮がちに見つめるハルの姿も、眉をひそめて立つユイの姿も一切映ってはいない。その瞳が見つめるのは、ここではないどこか遠くの景色と人と――
「火影。いつまで床に寝るつもりだ。そんなにお前が床を愛していたなんて情報は、今まで一度も聞いたこともないぞ」
冷淡で無情とも思える冷静なユイの声音に、一瞬で火影の焦点が結ばれる。まるで、ふっと息を吹き返したかのように火影は我に返り、もう震えてはいない僅かに開いた口で酸素を身体に取り込んだ。目を一度瞬かせ、まるで何もなかったかのようにひどく冷静な態度で上半身をむくりと起こす。蒼白だった頬は徐々に鮮やかな赤みを帯び始める。天から太陽を切り取り、その輝きを目に宿したかのような美しい瞳は鮮明にこの場の景色を、人々を映し出す。
「あ……。火影、大丈夫、なのか?」
ハルは起き上った火影に対して遠慮がちな声で呟く。上半身を起こした体勢のまま、火影は不貞腐れたような仏頂面で小さく首を縦に動かした。それを認めたハルは火影の表情が気になったものの安堵したように、ほっと胸をなでおろした。
火影は一度瞼を閉ざすと、密やかにため息をつく。
「あたいのことは心配するな。大きなお世話だ」
ため息交じりの言葉を吐くと、火影は両の手の平を身体より後ろの床に付けた。手の平に力を込め、足の関節を曲げる。身体を多少不安定に左右へ揺らしながらも、しっかりと床に足をつけて立ちあがる。
「確かに、オレよりも丈夫な火影を心配するなんてただの杞憂かもしれないけど、やっぱり心配だしさ。召喚獣だって完璧な生き物じゃないんだから、傷ついたり身体が弱ったり病気になったり――寿命はないとはいえ大きな外傷を負えば死んだりするし。それに火影の様子、ありえないくらいヤバかったし」
神妙なハルの言葉を受け流すかのように、火影は「はい、はい」と手の平を軽く振る。
「もういい。はっきり言って、そんなに心配されるとウザい」
「えっ、あ、ウザい……」
ハルは深く心臓に矢を突き立てられたかのように、重たい表情で呟く。ばっさりと言い捨てられ深く落傷ついたのか、ハルは顔に暗い影を落とす。ユイの立つ方向へと歩み出そうとしていた火影は、ふと何かを思い出したように身体の動きを止め「それから」と付け加えた。
「倒れる前、お前さんあたいのことを〝重っ〟って言っただろ? あれ、メチャクチャ失礼だから」
火影は釘を刺すようにして肩越しにハルを睨み、再び歩みを進めた。ハルの瞳に金色の瞳が鮮烈な印象として残り、瞼の裏でチカリと瞬く。
「おい。まだ片付けは終わってないぞ」
ユイは自分の方へと歩んできた火影へ咎めるような口調で言ったが、
「悪い。気分悪いから、ちょっと休ませてくれ」
火影の言葉によって一蹴されてしまった。やや不満そうな表情を見せたユイだったが、「許してくれ」と真摯に頼む火影の表情を見て、何かをさとったような驚きに似た表情を映し出した。しかし彼女は普段からポーカーフェイスのため、その表情変化は瞼を数ミリ大きく開けただけのものだったのだが。